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立候補の年齢制限なぜ?「何が分かる」議員に言い放たれた若者の声【news深掘り】

2023年08月27日08時30分

 衆院議員は25歳から、参院議員は30歳から。18歳で投票できるのに、何で立候補はダメなのー。2023年夏、大学生ら6人が「公職選挙法の規定は違憲だ」と主張して国を訴えた。とある国会議員から投げ付けられた言葉を忘れられないという原告らに話を聞いた。(時事通信社会部 渡辺恒平)

 【news深掘り】

「若者に何が分かる」

 「私たちも社会の一員。将来、この国をどういう方向に進めたいか、選択できる権利があるはずだ」。原告の1人で大学4年生の中村涼香さん(23)は提訴後の記者会見で、こう訴えた。

 長崎県出身の中村さんは、高校生のころから核兵器廃絶を目指す活動に取り組んでいる。活動の一環で、国会議員から核兵器禁止条約に対する考えを聞き取ろうと面会調整していたときのこと。電話に出た議員は「安全保障は複雑な問題なのに、自分たちは何を知っているの」と切り出し、「若者に何が分かるんだ」と言い放ったという。

 「ビックリしてしまった」と振り返った中村さん。何か失礼なことを言ったのかと悩み、周囲に相談したが、「何が分かる」と切り捨てられた理由は分からないまま。「議員には(経験不足という)固定概念が先にあって、相手にされなかったということだろうか。若者ではなかったとしたら、何を知っているのかと思わずにはいられなかった。経験にも知識にも個人差があるし、経験値とはまた違うところで、その年齢だから見えたり感じたりすることがある。若者を『経験不足だ』とひとまとめにするのは、頭ごなしの否定だ」と語る。

最高裁「選挙権制約は原則許されない」

 原告側弁護団が注目するのが、2005年の最高裁大法廷判決だ。判決は「憲法は主権が国民にあることを宣言している」と指摘した上で、海外在住邦人の選挙権行使を認めない公職選挙法の規定を違憲と判断。「国民の選挙権を制限することは原則として許されない」とも述べた。弁護団の戸田善恭弁護士は「国民主権とは、自分たちで国の在り方を決める権利のこと。憲法の理念の根底にある大事な柱で、最高裁は、制約を原則許さないという極めて厳しい基準を示した」と意義を強調する。

 だが、判決は投票する権利に関するもの。立候補する権利との関係をどのように見ればよいのか。戸田弁護士は「立候補というのは、政治家になって国政にダイレクトに関わるという意味で、国民主権を端的に表す性質の権利だ」と語った上で、「選挙権と同様に、被選挙権の制約にも厳しい基準を当てはめるべきだ」と訴える。

英国では投票率上昇も

 諸外国では、何歳から立候補できるのだろう。国会図書館が2020年にまとめた主要国の下院(日本では衆院)の被選挙権年齢に関する報告書によると、195カ国・地域のうち、およそ3割の65カ国で18歳から立候補できた。経済協力開発機構(OECD)加盟36カ国(当時)でみると、下院の被選挙権年齢が18歳だったのは6割程度の21カ国で、21歳9カ国、25歳6カ国と続いていた。

 報告書は、06年に21歳から18歳に引き下げた英国の事例を詳しく紹介していた。それによると、引き下げのきっかけは、選挙委員会が①国際的に選挙権と被選挙権の年齢を一致させている例がある②公的な職務を十分果たせる21歳未満の若者がいるかもしれない③規制をしなくても、選挙を通じて公職にふさわしい人物か決められる―ことを挙げ、引き下げ勧告したことにあったという。

 目に見える効果はあったのだろうか。引き下げだけに求めるわけにはいかないだろうが、弁護団によると、英国の24歳以下の投票率は、引き下げ前の約40%から、約70%(17年)まで上昇したという。

総務省「思慮と分別踏まえ」

 日本の公職選挙法が被選挙権年齢を衆院25歳、参院30歳と定めているのはなぜだろう。同法を所管する総務省に尋ねると、「社会的経験に基づく思慮と分別を踏まえて設定されている」とのことだった。衆参で5歳差があることについては、終戦直後の議会で、当時の内務相が「参院の質を衆院とは異なるものにするほか、参院の性格にふさわしい分別と経験を持たせるためだ」と説明した記録が残っている。

 戦後78年。規定に合理性があるのかないのか、詳しい国側の主張は、今後の訴訟の中で明らかになる見通しだが、戸田弁護士は「あまりに抽象的というか、ないに等しい理由で決まった被選挙権年齢が長期間続いている。これは問題だ」と強調。「情報を積極的に公開して問題点を明らかにし、世論喚起にもつなげたい」と語る。

民主主義の成熟を

 「今の私が小学生の気持ちを代弁できるかと言われたら、感覚的にかけ離れすぎていて、完全に理解するのは難しい。そういう意味で、年代別に代表者が意志決定の場にいるのは、とても大事なのではないか」。先に紹介した中村さんの言葉だ。中村さんは2年後には25歳になるが、衆院選に立候補する予定はないという。「私の後に続く世代にも関わること。制度的に変えられる時に変えるべきで、若い人たちが意思決定の場に関わりやすくなれば、政治への関心も上がり、日本の民主主義がもっと成熟していくと期待している」と語った。

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