米新興企業オープンAIの対話型人工知能(AI)「チャットGPT」の登場は、文章や画像を自動作成する生成AIの世界的ブームを巻き起こした。海外のIT大手が続々と関連サービスを提供し、国内企業でも生成AIの開発表明が相次ぐ。一方で、精度が向上するほど、本物と見分けがつかない偽の映像「ディープフェイク」が作り出されるといった懸念も。生成AIのもたらし得るリスクが広がる中、「技術には技術で」と対抗する動きが起きている。(時事通信経済部 廣野泰之)
AI生成の偽情報、G7各国が懸念
今年5月、米国防総省の近くで大きな爆発があったとする偽画像がSNS上で広がった。AIによって生成されたと思われる画像は、米通信社の報道を装って拡散され、一時的ではあるがニューヨーク株式市場の株価を下落させる事態をもたらした。
生成AIの活用は、文章の要約やメール文の作成など業務効率化につながる一方で、悪意を持って利用すると、研究者が書いたかのような論文の作成や、本物と見分けがつかないフェイク画像の拡散など、社会に混乱をもたらす「凶器」にもなる。
5月に広島市で開かれた先進7カ国首脳会議(G7広島サミット)で決まった生成AIの国際的なルール作りを検討する枠組み「広島AIプロセス」のG7作業部会でも、生成AIによる偽情報拡大への懸念が各国から示された。
政府のAI戦略会議(座長・松尾豊東大大学院教授)が5月にまとめた論点整理でも、生成AIのリスクの一つとして偽情報による社会の混乱を挙げ、対策としてAIが作った生成物を判定できるソフトウエアなどの開発や研究を奨励すると明記した。
チャットGPT利用の「コピペ」検出
「チャットGPTを使ったリポートや論文作成の抑止につなげたい」。リポートなどにチャットGPTの文章が使われていることを判定する支援ソフト「コピペルナーV6(仮称)」を国内で初めて開発したアンク(東京都新宿区)の担当者は、狙いをこう強調する。
チャットGPTの急速な普及で、学生がリポート作成などの際に生成した文章をそのまま利用する「コピペ」の懸念が高まっている。担当者は「顧客や販売会社からチャットGPTで作られた文章をチェックできるものを作ってほしいとの声があった」と話す。
開発したソフトでは、論文のタイトルなど複数のキーワードを利用者が設定すると、チャットGPTが10~20の文章を作成し、チェック対象のリポートと比較する。表現が類似する箇所は、視覚的に分かりやすく伝えるため色付けして表示。コピペの割合はパーセントで示され、その数字などを基に利用者が判断する仕組みだ。1文書当たり最大約105万字までチェックができ、5分ほどで判定可能だ。
同社はインターネット上の文章からの引用や、他の学生のリポートと比較し盗用などを判定できるソフト「コピペルナーV5」を以前から提供してきたが、V6は最新バージョンの位置付けとなる。従来の機能に加えて、チャットGPTにも対応することで、論文の判定以外にも企業での文書や報告書のチェックにも活用が可能だ。
担当者は、V6を今年12月にも販売する予定であることを明らかにした上で、チャットGPT以外の文章生成AIにも順次対応し、判定できる幅を広げることも見据える。
AI生成のフェイク「顔」を自動検知
生成AIが作り出した文章以外にも、実在の人物が話しているかのような偽の顔映像「ディープフェイク」を自動検知する技術開発も進む。国立情報学研究所(NII、東京都千代田区)の越前功教授と山岸順一教授の研究チームが2021年に開発したプログラム「シンセティック・ビジョン」だ。
越前氏は「(AIの中核技術の)機械学習が進展してフェイク映像などが作れるようになる未来を先に予測し、対策が必要だと考えた」と開発理由を説明。ディープフェイクはネット上のアプリなどで簡単に作ることができ、最近では文章で指示するだけで画像を生成するなど年々技術が高度化している。ロシアによるウクライナ侵攻を巡り、ゼレンスキー大統領が市民に降伏を呼び掛ける動画が拡散されるなど重大な悪用例も出ている。
開発したプログラムでは、大量のフェイクの顔画像などを含む映像データを学習させ、それを基に、人間の目では判別がつかないような偽動画の特徴を見極めて真偽を自動で判定する。判定したい動画をアップロードし、ディープフェイクを検出した場合、警告や真偽結果を利用者に伝える。
今年1月にはサイバーエージェントが同プログラムを自社サービスに採用すると発表した。サイバーではタレントの3次元CG(コンピューターグラフィックス)モデルを作成し、ネット広告に活用するサービスを展開している。一方で、CGモデルの画像が加工されて悪用されるケースも想定され、サイバーの担当者は「意図しない活用のされ方を発見し、抑制する対応策が必要になる」と同プログラム導入の背景を説明する。
NIIは5月から、さらなる社会実装の広がりを目指し、同プログラムを活用したサービスを考える国内企業の募集を開始した。企業に技術提供し、商品化やサービス展開につなげてもらう考えだ。一方で、生成AIの技術は日進月歩。「今まで想定していない手法でフェイク画像が作れるようになった場合は、プログラム更新などでフォローしていく必要がある」(山岸氏)と指摘しており、「技術」対「技術」のいたちごっこは続く。