2カ月以上遠ざかっていた1軍の舞台で躍動した。6月19日以降、出場選手登録を抹消されていたプロ野球西武の26歳、柘植世那捕手が8月22日に1軍に復帰。25日の日本ハム戦でスタメン出場すると、8回無失点の平良海馬らを好リードし、打っては2安打を放って5―0の快勝に貢献した。試合後には「ここからなので」。いい形でリスタートを切り、表情をキリリと引き締めた。(時事通信運動部 岩尾哲大)
開幕スタメンマスク
強打の正捕手として2018、19年のリーグ連覇に貢献するなどした森友哉が、昨オフにフリーエージェント(FA)でオリックスに移籍。今季を迎えるにあたり、西武のポイントの一つはその穴をどう埋めるかだった。チームとしては少なからずダメージになったとはいえ、他の捕手陣にとってはチャンス到来でもあった。
昨季は森がけがで離脱した時期もあり、柘植は42試合に出場した。多彩な走塁で甲子園を沸かせた「機動破壊」の健大高崎高(群馬)からホンダ鈴鹿を経て4年目の今季。キャンプから「チームの要となれるように」と高い意識で臨み、全体練習で声を張り上げる姿が印象的だった。3月31日の開幕戦ではスタメンマスクを勝ち取った。4月には今井達也を完封に導いた。
交流戦後に抹消
5月に右肘の炎症で戦列を離れた時期もあった中、先発マスクを主に中大OBの2年目、古賀悠斗と分け合いながら推移。だが、交流戦終了の翌日、柘植は再び1軍登録から外れた。
降格理由の一つは、失点した際などに責任を受け止め過ぎてしまい、弱気になりがちになる部分が見受けられたため、とされる。野田浩輔バッテリーコーチには「ファームで若手をしっかり引っ張って、キャッチャーとしての役割や姿勢を取り戻してほしい」との期待があった。柘植もそれを意識して2軍で過ごしてきた。リード面では、投手の調子が悪い時こそ、最少失点でどう抑えていくか、しのいでいくかに神経を注いだという。
「2軍の経験はプラス」
その間、1軍では古賀が奮闘し、エースの高橋光成や与座海人、隅田知一郎が完封。夏場から打撃の調子も上がってきた。柘植は自分が1軍にいなかった状況に「悔しさがなかったら、選手として終わり」。そう思いながらも試合を見詰め、「1軍に上がって試合に出た時に困らないように、相手のバッターを観察して、傾向を把握しようとしていた」と言う。
8月22日に体調不良による特例で登録を抹消された古市尊に代わり、久々の1軍へ。「急きょだが、2軍で結構経験できて、プラスになっている。1軍でいい方向に出していけたら」と意欲を語っていた。25日に今季の公式戦で初めて組んだ平良が好投。自身のリードについて聞かれても、「平良がすごくいい投球をしてくれた。平良が良かった。ピッチャーが悪い状態の時ほど、いいピッチングに導かないといけないと思っている」。浮かれる様子はなかった。
松井監督の助言を生かして
打撃でも、試行錯誤してきた成果が出始めている。打率1割7分3厘に終わった昨季の成績を受け、トップを早くつくるフォームを固めようとし、自主トレでは大先輩の中村剛也にもアドバイスを求めた。
だが、1軍を離れるまでの打率は1割台。2軍ではコンパクトな打撃にモデルチェンジしようとしたが、うまくいかなかった。もう一度、取り組んできた形を染み込ませようと努め、「バッティングはちょっと上がってきている」と、控えめながらも手応えを感じつつ1軍に戻ってきた。
「結果が欲しくて、がっついちゃった」という25日の復帰1打席目は三ゴロ。これを見た松井稼頭央監督から「もうちょっと冷静に打ち返して」という助言をもらった。「そこから本当に変わった」と柘植。2打席目は日本ハムの上沢直之の外の直球を逆らわずにはじき返して、右前打。その後は激走も見せてホームを踏んだ。3打席目も直球を捉え、今度は左前打。松井監督は試合後「非常に落ち着いていた。あれが本来の柘植。打つ方も、リードも良さを存分に出してくれた」。そう言ってたたえた。
途中出場の27日の日本ハム戦では敗れたものの、2点を追う九回2死一塁で抑えの田中正義の149キロを振り抜き、1点差に迫る右中間への二塁打。直球に振り負けず思い切りの良い打球を飛ばし続けられているのは、理想とする形に少しずつ近づいている証しだろう。
「活躍し続けなければ」
柘植が1軍にいない間、4月に育成から支配下登録された古市も、ソフトバンクの周東佑京の盗塁を阻んだり、ロッテの佐々木朗希からヒットを打ったりと、少ない出場機会の中ではつらつとしたプレーを見せてきた。まだ21歳と若く、たとえ2軍にいたとしても、実戦を重ねながら吸収できることも多いはず。首脳陣の中には、古賀とともに柘植には1軍の捕手陣で中心にいてほしいと期待する声がある。
柘植は「本当に活躍し続けないと、チームにも認められない」との思いを強くしている。シーズン残り30試合。悔しさを受け止め、2軍でもひたむきに土にまみれて蓄えてきた力を発揮する機会は、まだまだ残っている。