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わずか0.9%とは…「生理休暇」なぜ取らない?有休化、性別問わない新制度も登場【時事ドットコム取材班】

2023年07月06日08時00分

 生理による体調不良時に取得できる「生理休暇」。働く女性は増えているにも関わらず、取得率は1963年の26.3%をピークに低下し続け、厚生労働省が実施した直近(2020年度)の調査では、わずか0.9%にとどまっている。取得率は、労働人口が増えれば、それに伴って上昇するというわけではない。それにしても、100人に1人未満しか利用していないとは、いったいなぜだろう。(時事ドットコム編集部 川村碧

 【時事コム取材班】

ここ60年で最低の水準に

 生理休暇は労働基準法で定められている。1947年の同法制定時に盛り込まれており、女性労働者は、生理による体調不良で就業が困難な場合、雇用主に休暇を請求できる。

 厚労省の雇用均等基本調査や、総務省の労働力調査などによると、女性の就業者数は1960年の1558万人から2020年には2986万人に伸びている。一方、生理休暇の取得率(調査されていない年もある)は、1960年代は26%~18%台で推移していたが、70年代に入って下落傾向が顕著になり、直近の2015年、20年はいずれも0.9%だった。

 下落が続く背景に何があるのか。「生理用品の社会史」などの著書がある歴史社会学者、田中ひかるさんは「鎮痛薬や生理用ナプキンの普及に加え、(一時的に排卵を抑制できる飲み薬)『低用量ピル』などで生理自体をコントロールできるようになり、休みを必要としない女性が増えたのではないか」と指摘する。

「取りにくい雰囲気」「知られたくない」

 全国労働組合総連合が20年に実施した調査結果にも当たってみた。

 それによると、生理休暇の取得対象となる正規・非正規労働者5522人のうち、生理休暇を「取っていない」人は4633人で、回答者の83.9%を占めていた。ときどき取らないことがある(412人)を含めた5045人に聞いた取得しない理由(複数回答)は、「苦痛でないので必要ない」が36.7%で最多。「人員不足や仕事の多忙により、職場の雰囲気として取りにくい」(28.7%)、「恥ずかしい、生理であることを知られたくない」(19.2%)が続き、「制度があることを知らない」と回答した人も6.4%いた。

 全労連の担当者は「人が足りなくて休めないといった、職場の体制づくりが不十分というのが最大の課題。社内で生理休暇制度の周知が不十分なケースもあるようだ。制度があっても使えなければ意味がない」と話す。

取得すると欠勤扱い「給料は減るけど、仕方ないのか」

 生理時の体調不良の度合いは人によっても異なる。重い症状を抱える人たちはどのように感じているのだろう。

 大阪府に住む30代女性は、中高生の頃から腹痛や貧血といった症状に悩まされてきた。低用量ピルを服用するようになり、症状は軽くなったそうだが、「ひどいときはベッドから起き上がれず、吐き気や眠気もあった。20代前半に働いていたボウリング場では鎮痛薬が手放せず、仕事中に貧血で何回か倒れたこともあった」と話す。

 ボウリング場の就業規則に生理休暇の規定はあったものの、取得すると「欠勤扱い」になる。「生理と出勤日が重ならないようにシフトを組んでもらっていたけれど、予測とずれてしまったときは休むしかなかった」と女性。「当時は仕方ないのかな、と諦めの気持ちでした。でも、休みが積み重なれば給料は減ります。生理休暇が有給であれば良かったかな。会社の上層部は男性で、生理の症状や制度への理解が十分とは言えなかったと思います」と続けた。

 有給扱いか無給扱いかも、取得率に影響していそうだ。全労連の調査でも、3.9%が「無給のため取らない」と回答している。ただ、生理休暇を無給扱いにするか、有給扱いにするかは企業にゆだねられており、企業の67.3%(20年度の雇用均等基本調査)が無給にしている。SNS上では「無給の生理休暇として休むより有休を使う」との声も上がっており、先に紹介した歴史社会学者の田中さんも「生理休暇より有休を使う人が増えている」と語っていた。

社員の声で無給から有給に 「タブー感薄れた」

 そうした状況に疑問を持った社員の声に応える形で、無給だった生理休暇を有休にした企業がある。大阪市と東京都港区に本社を置くIT企業「アイル」は、社員870人のうち、7割が男性。広報の吉野美紀さんは「『生理の症状が重くても男性上司に言いにくい』という声を耳にしていました。きっと、もっと悩みを抱えている社員もいるのでは、と考え、20年8月に男女問わず生理の基礎知識を学ぶ研修と意見交換の機会を設けました」と語る。

 役員も参加した意見交換では、女性社員から「生理休暇がある会社を選んだのに、入社してから無給だと知りがっかりした」「生理痛の症状がひどく、毎月、生理休暇とは別の有休を取っている。社員に平等に振り分けられている有休を使って休まないといけないことが不安だし、不平等だと感じる」などの声が上がったそうだ。

 意見交換に参加して「悩んでいる社員がいることに気づいた」という役員の岩本亮磨さん。女性社員対象のアンケートで、回答者の3割に、生理のために有給休暇を取得した経験があり、7割以上が「生理休暇が有休となれば取得したい」と答えたことも踏まえ、21年1月から、月1日まで有給での生理休暇を認めることにしたという。

 22年10月からは、半日ずつの取得も認めた。岩本さんは「今までは男性から生理の話題を出すのはタブーのような雰囲気だったが、意見交換をきっかけにハードルが低くなった。特に管理職はチーム運営の面でも生理の知識があったほうが良いと感じる。体調の悪そうな部下がいれば、『休暇をとったら?』と勧めることもできるようになった」と説明する。

男性も取得できる制度に改めた企業も

 生理休暇に代わり、男性でも取得できる制度を設けた企業もある。大阪市のシステム開発「クリーブウェア」は21年、生理のほか、不妊治療や子どもの行事参加などのために有給で休みをとれる「ライフサポート休暇」を導入した。

 同社では、有休扱いでも生理休暇の取得率が低かったそうだ。改めるべきはどこにあるのか。広報の甲奈月実さんによると、検討は「『生理休暇』という名称が直接的過ぎて取りにくい」との声がきっかけで始まり、見直す過程で「社員が必要としている休暇」が見えてきたという。

 「この業界は10年ほど前までは『きつい、帰れない、給料が安い』というイメージが強くありました。働き方改革の一環で子育て世代が使いやすい休暇をつくることになり、年次有給休暇を不妊治療に充てている社員への対策も必要だという考えから、それらをまとめた休暇を創設しました」と説明する。

 取得するには、勤怠システムに「ライフサポート休暇」と記入すればよく、詳しい理由まで上司に伝える必要はない。23年5月末までに、社員の3割に当たる男女28人が利用したという。

時代に合わせ、納得感のある制度へ

 変わりつつある生理休暇制度。そもそも休暇には、どのような意義があるのだろう。組織マネジメントなどを研究する武蔵大経済学部の森永雄太教授に話を聞いた。

 ―体調不良のときに休めるようにすることは企業や社員にどんな意義がありますか。

 企業が被る損失は、社員の欠勤よりも、業務パフォーマンスが低下し100%の力が出せない状態が積もり積もっていく方が大きいという研究があります。不調でも休まないことを「当たり前」や「美徳」ととらえる時代もありましたが、本当にそれでいいのか、見直されるようになりました。企業は、社員が休んでも大丈夫な体制をつくることが求められています。

 ―休暇制度があっても、十分に活用されていない企業もあります。

 制度を考える人事部門と、実際に運用する現場が分離してしまっていることが課題です。休暇制度をつくったとしても、導入した背景や狙いを人事部から管理職、部下へと伝えていかないと、会社全体の理解や取得は進まない。『人事はこう言っているけれど、現場では無理』といった声にかき消されたり、最低限の実績づくりで終わったりすることもあるのではないでしょうか。

 ―休暇制度はどう変わっていくべきでしょうか。

 まず、なぜこうした休暇制度があるのか、それが社員の健康や生産性にどうつながるか、制度に込められたメッセージを社員に伝えることが重要です。そして、社員の声を吸い上げ、時代に合わせた納得感のある運用に変えていくことが求められています。

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