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「私がラグビーに燃えた頃」③ 自民党・遠藤利明総務会長

2023年08月17日11時00分

黄金時代の新日鉄釜石に挑んだことも

 6月に日本スポーツ協会の会長に就任した自民党の遠藤利明総務会長(73)は、ラグビー経験者やラグビー好きの国会議員でつくる「国会ラグビークラブ」の会長も務める。ラグビーを始めたのは中央大学時代、体育の授業から。そこで「生涯の恩師」に出会い、さまざまな影響を受けた。(時事通信解説委員・村田純一)

心に残る恩師の言葉

 「中学では野球、高校では柔道をやってたんだよ。球技と格闘技の両方の要素があって、面白そうだと思ってね。野球やバスケットボールは人気があって、希望者が多いから抽選になって、落ちると他に回されるので、先にラグビーを選択した」

 恩師となったのが、ラグビーの授業を受け持っていた中大専任講師の故・桑原寛樹さん。授業でラグビーを経験した学生らで1965年に結成した「くるみクラブ」の創設者として知られる。

 当時は学園紛争が盛んな頃。大学の授業が休講になっても、毎週1回、体育の授業は続いていた。「私は休講しない。授業は生徒との契約だから、休講は契約違反だ」と桑原先生は言っていたという。

 「グラウンド整備やボール磨きは、一番楽しんでいるやつ(4年生)がやれ」

 「1年生と4年生が最後まで同じ練習をする必要はない。1年生はまだ体力がないから、途中で休んでいい」

 「スポーツは楽しむものだ。日本は、練習のための練習をやっている。ラグビーは楽しまないといけない」

 桑原先生の教えは合理的に聞こえたという。そして3回目の授業からはもう、危険なタックルのない試合形式の「タッチ・ラグビー」が始まった。

 遠藤氏はラグビーにはまり、くるみクラブにも練習に行くようになった。約80キロの体重があった遠藤氏のポジションは当初フォワードのプロップ。

 当時、フォワードは長いパスを投げるなと言われていた。落とすから。フォワードは短いパスをつなげばいいと。しかし、桑原先生はラック、モールにバックスが巻き込まれたら、「フォワードがラインをつくれ」と指示。「フォワードも必ずバックスのプレーを練習しろ」と教えた。

 「だから私は、スクラムハーフとスタンドオフとフルバックの練習もしていた」と遠藤氏。

 山形県代表としてプレーした時はスクラムハーフだった。ラインアウトでスロワーもこなしたというから、オールラウンドプレーヤーだ。

 「野球をやっていたから投げるのは好きだったんだよ。並んだフォワードの7番や8番に投げ入れるのが普通だけど、たまに、遠くのスタンドオフにまで投げ入れるサインプレーがあった。さらにバックスのセンターまで投げ入れようと、かなり練習やったよ」

 「スクリューをかけるキックパスやリバースパスもやっていた。スクラムハーフだから、パスはうまかった。小柄な者が必ずしもスクラムハーフではないというのが、桑原先生の発想で面白いところだ」


あの松尾雄治にタックルした

 1979年から85年にかけて、新日鉄釜石がラグビーの日本選手権で7連覇した黄金時代があった。その間、遠藤氏は山形県代表の選手として、あの新日鉄釜石と2度対戦した。

 「国体の予選の東北大会。岩手代表が釜石だ。松尾雄治、森重隆、洞口考治…、釜石はフルメンバーで来た。日本代表も数人いた。私はスクラムハーフで、試合はもちろん勝負にならない。150いくつ対ゼロ、130いくつ対ゼロで負けた。ゲームにならないからやめようかと先生にも相談したが、『(差があり過ぎるから逆に)けがはしないだろう』と。チームの皆は『釜石と試合できるなんて一生ないだろう。触るだけでいい』と言ってた。それで皆、触っただけで大満足だったよ(笑)。帰りのバスの中では大宴会だったな」

 「遠藤さんは誰に触ったんですか」と失礼な質問をしたら、「俺はちゃんとタックルしたよ。俺はそんなに負けてなかった。ちゃんと松尾にもタックルしたよ」と返された。

 オーストラリアに遠征し、試合をした経験もある。前歯を2本折ったが、「試合中は痛くなかったんだ。だけど、試合後は痛くてねえ…」。それでも現地で出されたステーキ800グラムを平らげたそうだ。

 特に遠征では、豪州のグラウンドやスポーツ施設に「すごいな」と感嘆した。今、ラグビーを含め日本のスポーツ政策や施設は豪州を参考にしているという。

 ラグビーの経験は政治家になっても生きている。

 「ラグビーは個人とチームワークのプレー。一人ひとりが自分で考えないといけない。言われた通りにやる人ばかりじゃ勝負にならない。判断力が大事。自分がどう動くか、人がどう動くか、あるいは人をどう動かすか、勉強になった」


「ラグビーのチームならどう判断するか」と考える

 「自分で物事を判断する時、ラグビーのチームだったらどう判断をしたか、恩師の桑原先生だったらこう判断したのでは、というのが、今でも自分の考えのベースにある。特にスポーツ政策は全部その時の延長のようなものだ。今でもスポーツはクラブ中心の仕組みがいいと思っている。体育会系でも同好会でもない。クラブにはいろんな人がいて、アスリートの世界で生きる人、週1回だけ楽しめばいい人、両方一緒にいていい」

 「もう一つ、誰もが複数のいろんなスポーツをできるようにすること。クラブだとテニス、ポロ、ラグビー、サッカー、いろんなことができるし、その中で自分の得意分野を見つけて勝負すればいい。日本のスポーツの弱点は、ずっと1種目しかやらないことだと思う。体のバランスが悪い。昔の子どもたちは海、山で遊んで、体のバランスが取れていた」

 ワールドカップ(W杯)で日本代表への期待を聞くと「そりゃ勝ってもらいたいよ。ただひたすら勝ってもらいたい。なんだかんだ言っても、スポーツは強くないと皆さん関心を持ってくれない。WBCも卓球もフェンシングも…」。

 日本代表が前々回(2015年)のW杯で南アフリカに勝利し、前回(2019年)ベスト8に入ったが、「逆に今回は心配」だとか。「予想以上にアルゼンチンが強いかもしれないし。昔はベスト4になった。サモアも強くなっていると聞く。(予選突破は)そう簡単じゃない」

 W杯前には恒例の各国の国会議員によるラグビーの試合もある。「9月7日までの1週間で3試合ある。もちろん出るよ。5分でも10分でもジャージー着て」と意気込んでいる。

◇ ◇ ◇

遠藤利明(えんどう・としあき)氏 略歴
1950年、山形県生まれ。中央大法卒。山形県議を経て、93年衆院選山形1区に無所属で出馬し、初当選。以来、当選9回。建設政務次官、文部科学副大臣、自民党幹事長代理、選挙対策委員長などを歴任し、現在、総務会長。国会議員でつくる国会ラグビークラブの会長も務める。今年6月に日本スポーツ協会の会長に就任した。

【特設】ラグビーワールドカップ2023 フランス大会|試合日程・出場国・開催地

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