ラグビーの世界一を争うワールドカップ(W杯)が9月8日、フランスで開幕する。日本は2019年の前回大会で初めて8強入りを果たし、今回もどこまで躍進するか大きな注目を浴びる。実はラグビー経験を持ち、熱い視線を送る政治家も少なくない。格闘技の要素も持つこの競技は練習の厳しさで知られるが、その面白さと魅力はどこにあるのか。かつてラガーマンだった政治家に、泥まみれになって楕円(だえん)球を追っていた頃の思い出と「ラグビー愛」、そして日本代表への期待を語ってもらった。(時事通信解説委員・村田純一)
「小柄でもできる」 多くを学んだラグビー
「小学生時代、もともと体が小さくて、運動もあまり上手じゃなかったので、コンプレックスを持っていました」
そう語るのは、元防衛副大臣で福岡市出身の自民党衆院議員、鬼木誠氏(50)。なぜラグビーを始めたか。
「小6の時、担任の先生がラグビーファンで、体育の授業で子どもたちにラグビーをやらせたら、僕が相手ディフェンスをかいくぐってトライを連発したんです。それで、体が小さくてもできる、ラグビーに向いているなと思いました」
初めてのラグビー体験は、小柄な鬼木氏に大きな自信を与えた。
中学校時代はラグビー部がなく、勉強に専念。ラグビー部のある高校が進学先の絶対条件で、鹿児島の進学校、ラ・サール高校に入学した。
ポジションはウイング。バックスの両端に位置し、足が速く、対面の相手をサイドステップなどでかわす技術が求められるトライゲッターだ。大学、社会人でもラグビーをプレー。西日本銀行(現・西日本シティ銀行)のラグビー部時代に、スクラムハーフにコンバートした。
一番記憶に残るトライは西日本銀行に勤務していた頃だという。
「福岡県の社会人リーグのAリーグで優勝したシーズンです。福岡県警との対戦で決勝トライを取りました。ゴール前でフッカーが突っ込んだ後、球を出してもらい、それを受けインゴールに飛び込みました。あれは忘れられないですね」
今はラグビーでトライすると、サッカーでゴールした時のように、選手が抱き合い、喜び合うシーンは普通だが、かつてはあり得なかった。鬼木氏もそうだったという。
「高校の先生から厳しく言われたんです。『トライした者だけがヒーローじゃない。皆でつないだトライなんだ。トライしたからといって喜ぶものじゃない』と。ガッツポーズもしない時代でした」と振り返る。
高校での4泊5日の夏合宿はきつかった。大学生になったOBが全国から鹿児島に集まって、後輩を「鍛え」に来る。「桜島の灰の降るグラウンドですから、顔中が真っ黒になって。体は疲れ果ててボロボロ。当時は鹿児島から5時間かけて福岡に帰りました」
◇献身、マネジメント 今につながる
ラグビーで学んだことを問うと、鬼木氏はこう答えた。
「ぼくは補欠暮らし、試合に出られないことが多かったんです。一方、(高校時代に)部員が大量に辞めた時は、部を存続させることで苦労しました。チームに対する献身、部を存続させるマネジメント、組織を支える人の大切さが身に染みついて、それが今の仕事に生きていると思います。皆で力を合わせないとチームをつくれない。その大切さを学んできたような気がします」
そしてもう一つ、「ラグビーとはどんなスポーツだと思うか」と質問。
「ルールからして特殊ですよね。前にボールを投げられない。相手のゴールに近づくためには、球を持った人が前に進まなければならない。前に進めば必ず相手にぶつかる。ぶつかるけれども、後ろからついてくる人を信じて、球をつないでいく。自分がディフェンスをさぼれば、相手に前進される。責任を果たすためには、自分が体を張って止めなければならない。だから、勝つためには、個人の責任とチームへの信頼が必要で大事なスポーツだと思います」
◇子や孫の時代にいい球をつなぐ
ラグビーでは「対面(トイメン)には絶対に負けるな」ということが言われる。
「そうですね。対面に抜かれるのは、完全に自分の責任。個人の責任とチームへの信頼が大事です」
かつて鬼木氏は地元・福岡市内の新年会で、財政再建の必要性や自らの政治姿勢をラグビーに例えて語っていた。そのことを問うと、こう答えた。
「ラグビーでは自分がボールを持ってタックルで倒されても、後ろから来る選手にいい球をつながなければならない。私たちが倒れた後も、子どもや孫の世代に、きちんといい球を出して、つながなければならないんです」
最後に、W杯に挑む日本代表への期待を聞いた。予選の対戦相手は、チリ、イングランド、サモア、アルゼンチン。
「まずは予選突破。グループリーグで勝ち上がることですね。イングランド、アルゼンチンは格上ですが、予選突破は夢ではないと思います」
日本代表は前々回、南アフリカに勝利して世界を驚かせ、前回は4戦全勝で予選リーグを突破。強豪のアイルランド、スコットランドにも勝利した。しかし、決勝リーグでは南アフリカに敗れた。
「アイルランドは当時ランキング2位。日本はかつて南アフリカにも勝ったチームで、フランスでは日本が応援されるのではないかと思います。特にイングランド戦で日本への応援はものすごく多いでしょう。かつてフランスのバイヨンヌでプレーしていた村田亙選手も知られています。英仏はもともと仲が良くないし、イングランドにとってはアウェーでの戦いでしょう。日本代表はホームの雰囲気、『日本頑張れ』という大声援の中でイングランドと戦えるのではないでしょうか。前回、前々回のW杯の感動をぜひ、また味わいたいですね」
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鬼木誠(おにき・まこと)氏 略歴
1972年、福岡市生まれ。九大法卒。西日本銀行(現西日本シティ銀行)勤務から福岡県議3期を経て、2012年衆院選福岡2区に自民党から出馬し、初当選。以後、4期連続当選。環境政務官、防衛副大臣を歴任し、現在、衆院安全保障委員長。