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大谷翔平に驚かされ続けた4カ月 WBC優勝、今季もさえる二刀流…記者が追った前半戦

2023年07月10日11時00分

 米大リーグ、エンゼルスの大谷翔平選手(29)は、メジャー6年目を迎えた今季も投打の二刀流がさえ渡り、見る者を驚かせ続けている。オールスター戦(7月11日、シアトル)の前まで、前半戦は打者として32本塁打、71打点でア・リーグのトップ争いを演じ、103安打を放って打率3割2厘。投手でも7勝(4敗)を挙げ、奪三振(132)などで上位につけている。
 オールスターのファン投票では、先発野手でリーグ最多の票を集め、投手部門でも選手間投票で選出された。月間最優秀選手(MVP)に輝いた6月の爆発的な勢いなどでシーズンを折り返し、後半戦でも本塁打を量産すれば、日本選手初の本塁打王や昨年にアーロン・ジャッジ(ヤンキース)がつくったア・リーグ記録(62本塁打)の更新も見えてきそうだ。日米の野球ファンを沸かせ、日々新鮮な気持ちにさせた2023年前半の活躍を追った。(時事通信ロサンゼルス特派員 峯岸弘行)

 大リーグ機構は6月22日に、オールスター戦の先発野手を選ぶファン投票(2段階で実施)の1次結果を発表。ア・リーグ指名打者(DH)部門の大谷がリーグトップの264万6307票を集め、3年連続3度目の出場を決めた。

「投票してくれたファンに感謝」

 各リーグから最多得票が1人ずつ、つまり大リーグ全体から2人しか選出されない段階の投票で、両リーグ最多の308万2600票だったナ・リーグのロナルド・アクーニャ外野手(ブレーブス)とともに先発出場が確定した。今季の活躍を見れば文句なしの選出だった。

 大谷は「投票してくれた全てのファンに感謝したい。とても名誉なこと。これをモチベーションとして、グラウンド上で全力を尽くし続けたい」とコメント。日本選手の最多得票は、2001~03年に両リーグ最多だったイチロー(マリナーズ)以来。DHのファン投票による3年連続出場は11~13年のデービッド・オルティス(レッドソックス)に続き2人目となった。

 7月2日には、選手間投票により投手でも選ばれた。ただ、4日に登板した際、右手中指の爪が割れ、まめもできた影響で途中降板。大谷は試合後、「(オールスター戦での)ピッチングは厳しくなった」と語り、投打両方での出場はかなわなくなった。

WBCの「顔」、MVPに

 大谷の快進撃は、シーズン前のワールド・ベースボール・クラシック(WBC)が起点となった。エンゼルスの春季キャンプを前半で切り上げて帰国。日本代表「侍ジャパン」を力強く引っ張った。東京ドームでの1次リーグ、準々決勝を勝ち抜き、米国に戻って臨んだ準決勝のメキシコ戦は、1点を追う九回に先頭打者で反撃の口火を切る二塁打。二塁ベースからベンチを鼓舞した姿は記憶に新しい。

 決勝の米国戦では二刀流で本領発揮。3―2で迎えた九回に抑えで登板し、現地の実況は「夢のようなシナリオ」と伝えた。最後はエンゼルスの同僚トラウトに対し、スライダーの一種で横に大きく曲がる「スイーパー」を投げて空振り三振に。感情を爆発させたシーンは人々に感動を与えた。大会期間中は、試合前練習から多くの視線を集め、間違いなく米メディア、大リーグファンに最も注目された選手だった。WBCの「顔」となり、大会MVPに選ばれた。

2年連続の開幕投手で快投

 WBCにはシーズンを見据えて出場を見合わせた選手や、けがのリスクから参加したくてもできない選手がいた。出場したチームの中には、今季に入ってけがや不調に苦しむ選手も出ている。大谷に対しても、投打の奮闘がシーズンに影響してしまうのではと懸念する声が確かにあったが、実際は心配無用だった。

 チームに戻ってキャンプ地のマイナー戦で調整登板を終えると、3月30日の開幕戦、アスレチックス戦に先発。2年連続の開幕投手で6回2安打無失点、10奪三振の快投を見せた。白星は付かなかったが、WBCの勢いは衰えていなかった。

「侍」同士、吉田やヌートバーとも対戦

 4月1日のアスレチックス戦では高校時代、ともに甲子園を沸かせた藤浪晋太郎と対戦。日本のプロ野球での顔合わせ以来10年ぶりで、今季初打点をマークした。翌日はトラウトとの2者連続で今季初アーチ。9日のブルージェイズ戦では岩手・花巻東高の先輩、菊池雄星から2ランを放った。15日には05年の松井秀喜(ヤンキース)に並ぶ36試合連続出塁をマークした。

 17日のレッドソックス戦で侍ジャパンのチームメート、吉田正尚とメジャーで初めて対決。空振り三振に仕留めた。5月3日のカージナルス戦では、やはり侍メンバーだったラーズ・ヌートバーから3三振を奪い、メジャー通算500奪三振の節目。「投手で500奪三振、打者で100本塁打」はベーブ・ルース以来の快記録となった。15日のオリオールズ戦は先発投手で5度出塁。これは1964年にメル・ストットルマイヤー(ヤンキース)が記録して以来59年ぶり。これまで数々の偉業を成し遂げてきた大谷は、今年もレジェンドと比較されることが増えている。

自己最長、150メートル弾で30号

 そして、猛打を振るった6月。12日からの1週間で6本塁打を放つなどして週間MVPに。23日のロッキーズ戦では日米通算200本塁打。前半戦で最大の「SHOWTIME(ショータイム)」は、27日のホワイトソックス戦だろう。2番投手兼指名打者で先発し、打っては一回に27号、七回にも28号を放つなど3安打2打点、投げても七回途中まで4安打1失点、10奪三振の好投で7勝目を挙げた。

 ア・リーグで60年ぶりに「複数本塁打と2桁奪三振」を記録し、先発投手の2本塁打も52年ぶり。この日はシーズンちょうど半分の81試合目で、その時点の成績を単純に2倍すると今季終了時は56本塁打、128打点となる計算だった。さらに30日には、自己最長となる493フィート、約150メートルという特大アーチをかけ、3年連続30本塁打を早くもクリア。6月2度目の週間MVPも受賞した。

「理想の軌道でバットを振れた」

 6月は、ともに両リーグトップの15本塁打、29打点という驚異的な打棒を披露。6月の15本塁打は1930年のベーブ・ルース、34年のボブ・ジョンソン、61年のロジャー・マリスに続く4人目でア・リーグ記録に肩を並べた。

 大谷は6月の打撃好調について「一番は(バットの)軌道じゃないかなと思う。自分の理想の軌道で振れている時は右投手、左投手に関係なく、球種も関係なく、コンタクトできる。詰まっても、泳いでもしっかり振れる準備ができている」と説明。前半戦最後となった7月8日のドジャース戦(32号2ラン、三塁打、単打)などサイクル安打に王手をかけた試合も何度もあった。

 加えて、見逃せないのは走力だ。盗塁は既に2桁の11個。三塁打6本も光る。投げて、打って、走って…。野球少年がそのまま大きな進化を遂げ、投げては160キロ超の剛腕、打者でも抜群の長打力と俊足巧打を併せ持ち、世界最高レベルで躍動している。

新ルールに戸惑いも

 投手として、シーズン当初は戸惑うこともあった。今季から新ルールでピッチクロック(投球間の時間制限)が採用され、投手はボールを受け取ってから走者なしで15秒、走者がいる場合は20秒以内に投球動作に入らなければいけない。

 大谷は、早過ぎてもいけない点を指摘されたことがある。打者が準備を整える前に投球動作に入ると、1ボールを与えられてしまう。大谷に投げる意思がなくても、審判に投球動作に入っているように見えたことで注意を受けた。今年はマウンドからベンチに戻る際に球審と話すシーンや、確認で試合後に審判室を訪れたこともあり、新ルールに対応しようと努めているようだ。

 大谷はピッチクロックの対策として、サインを伝達する通信機器「ピッチコム」を左腕に装着している。大部分は捕手が足などにつけてサインを出すが、大谷の場合は自ら配球を決定。捕手のサインに首を振る必要がないため、サイン交換の時間を短縮できている。シーズン序盤は投球のおよそ半分がスイーパーだった。6月に入ると直球が全体の4割程度に増え、軸になった。ゲームプラン、自身の状態、打者の反応、データなどを材料に、配球に変化が出てきているようだ。

二刀流の「難しさ」と向き合う

 投打同時出場の「リアル二刀流」にも慣れ、今季から先発登板は基本的に中5日で回っている。打者としての休養日はほとんどなく、毎日のように出場。昨季から、降板後も指名打者で試合に残れる通称「大谷ルール」が導入され、出場機会はさらに増えた。その中で首脳陣と話し合いながら毎日、奮闘している。

 二刀流の出場について「切り替えとか、メンタル的に難しいなと思う部分はたくさんある」という。大谷にしか分からない課題と向き合いながら、自分なりに考え、試合に臨んでいる。

 投打で大活躍した6月27日のホワイトソックス戦が好例だ。一回の打席で本塁打。通常はベンチに戻ると、チームメートらに祝福されるが、大谷はベンチ前で省略するようにお願いした。既に1死で、二回の投球に向けて少しでも準備に時間を充てたかったため。代わりに水原一平通訳が本塁打パフォーマンスの「かぶと」をかぶって、チームメートを笑顔にさせていた。

敵地で「MVP」コール、本塁打王も視野

 今オフにフリーエージェント(FA)となる大谷は超大型契約が予想され、去就が注目される。チーム状況が悪ければ、8月1日のトレード期限を見据えた放出の可能性が出てくるところだが、エンゼルスはプレーオフ進出を目指している。ミナシアン・ゼネラルマネジャーは6月20日に「以前から話しているように、われわれは彼のことが好きで、ずっといてほしいと思っている」と述べ、トレードに否定的な見解を示した。大谷自身も「シーズンに集中したいなと思っているので、代理人に任せている」と語っている。

 21年に投手で9勝、打者では46本塁打を放ってア・リーグMVPに。22年は15勝、34本塁打でルース以来の「2桁勝利、2桁本塁打」をマークした上に、大リーグ史上初めて規定投球回数と規定打席の両方に到達した。そして今季。まだシーズン半ばとはいえ、本塁打王など新たな金字塔を打ち立てる可能性をいくつも秘めている。

 そんなスーパースター、大谷に対しては、本拠地だけでなく敵地でも「MVP」コールが頻繁に起こる。エンゼルスのネビン監督が目を細めて話した言葉に、実感がこもっている。「われわれは、今までに見たことのないようなものを毎日目撃している。彼を見ていると本当に楽しい」

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