環境や社会といった公益に配慮する企業であることを示す国際的な認証「B Corp(コープ)」。サステナブル(持続可能)な経済を意識する流れが強まる中、コロナ禍も契機となり国内で取得する会社が登場しつつある。政府の「新しい資本主義実現会議」でも話題となるなど、今後の広がりが期待されている。(時事通信成田支局長 岩間康郎)
【目次】
◇ベネフィットの「B」
◇200項目で審査
◇成果評価する仕組みを
ベネフィットの「B」
東京都内で今年3月、世界的なBコープのキャンペーン月間に合わせて、取得企業が一堂に会するイベント「Meet the B」が開かれた。国内では初の試みで、情報交換や交流が繰り広げられたほか、ポスター展示や座談会なども実施。これからBコープを狙う企業の関係者も集まり、100坪(330平方㍍)の会場に入り切らなくなるほどの熱気に包まれたという。
発酵原料の開発製造を手掛けるBコープ企業、ファーメンステーション(東京)の酒井里奈代表取締役はこの先の盛り上がりを予想し、「『あのイベントがきっかけだった』となるかもしれない」と振り返る。
Bコープは、利益を意味する英語「Benefit(ベネフィット)」の頭文字に由来する。企業の収益にとどまらず、従業員、消費者、社会などすべてのステークホルダー(利害関係者)にとって利益をもたらす会社であることを指す。
認証制度を運営するNPO「B Lab(ラボ)」は2006年、米国で発足した。現在、世界約90カ国で7000社ほどが認証を取得しており、仏食品大手ダノンや米アウトドア用品大手パタゴニアなどが知られる。
日本では16年以来、27社が認証を受けた。新興の企業コンサルタント会社シグマクシス・ホールディングスや、食品廃棄削減につながる販売サイト運営のクラダシといった上場企業も現れている。
Bコープを巡る状況について、認証の取得を支援するコンサルタント岡望美さんは「世界規模で見て、2020年からかなり多くの企業が認証を取ろうとしている」と説明する。コロナ禍や気候変動などで働き方や会社の在り方が見直される中、「会社が生き残っていくには社会や環境とは切っても切れない」と注目が高まったという。
200項目で審査
ESG(環境、社会、企業統治)や国連の持続可能な開発目標(SDGs)を重視した経営が普及しているが、Bコープはより多様な観点で積極的な行動が求められることが特徴だ。ガバナンス(企業統治)、従業員、コミュニティー、環境、顧客といったさまざまな角度から事業によって異なる200程度の項目について審査を受け、80点以上を獲得しなければならない。売り上げ規模に応じた認証料を支払い、取得後は取り組みの公開も求められている。定期的に更新された基準に基づく再認証も必須だ。
中高生向けIT・プログラミング教育サービスのライフイズテック(東京)は22年にBコープ企業となった。学校の休み期間中に大学生らが講師となって指導する「プログラミングキャンプ」が人気で、石川孔明最高財務責任者(CFO)は「未来の日本を背負う世代がどういう教育を受け、体験ができると良いかを追求してきた」と話す。社会課題の解決を目指す自社の事業活動に関して客観的な証しを得ようと取得を企画した。
申請に当たっては、顧客となる生徒らの満足度のほか、廃棄物の処理先や社員の訓練への投資などを確認。全取引先のリストといった申請内容を裏付ける資料も提出し、取得まで2年を費やした。石川CFOは「認証を受けるプロセスで、グローバルなスタンダードを学んだ」と説明する。
一方、ファーメンステーションでは、実際の商談でも効果があった。化粧品原料などを製造する際、脱石油で植物由来であるほか、規格外などで廃棄された果物や野菜を使っている。酒井代表取締役は「活用されていないものからできているとか、環境負荷が低い製法でつくられていることとか、やっていること自体が地域にもプラスというのは原料を選んでいただく理由になる」と強調。「ビジネスにプラスかどうかという考え方はしておらず、やるべきことだと思っている」と訴えるものの、先行する欧米ではBコープ企業であること自体が評価されるという。
成果評価する仕組みを
岡さんによると、機関投資家もBコープ企業に注目している。16年に取得した米新興保険会社Lemonade(レモネード)はソフトバンクグループの出資を受けている。社会問題の改善に貢献しながら利益も生み出す「インパクト投資」などの取り組みは年々、規模を拡大しており、Bコープ企業はこうした投資の潮流で一翼を担いそうだ。
石川CFOは、米国ではBコープ企業に就職した学生には奨学金の返済を一部免除する大学があることなどを紹介。「採用やリテンション(定着率)とかでも、ちょっとずつインパクトが出始めている」とBコープの影響力が管理運営や消費者への訴求力を超えて波及しつつあることを指摘する。
国内での浸透に向けて、酒井代表取締役は「ただ雰囲気でいいとかではなく、Bコープ企業が成果を挙げているということを可視化する責任がある」と力説。「それをやる代わりにきちんと評価されるという仕組みがあればより望ましい」と述べている。
(2023年7月5日掲載)