「生成AI」はメディアと社会をどう変えるか?~20年前の動画が予言する近未来~

2023年07月01日15時00分

 さまざまな問いに答え、文章や画像を創出する生成AI(人工知能)。昨年11月の「チャットGPT」の公開以来、社会活動やビジネスでの利用が広がった。一方、情報漏えいや著作権侵害などのトラブルにどのように対応していくのかも課題に上がっている。20年前に話題をさらった一本の動画から、AIとメディアの未来を考えてみたい。 (デロイト トーマツ グループ DTFAインスティテュート主任研究員 江田覚)

「EPIC」がニュースを支配

 動画は「EPIC2014」と題する9分弱の作品。米国のジャーナリズム研究機関ポインター研究所のメンバー(当時)が2004年に発表した架空の未来図であり、今もユーチューブなどで公開されている。

 作品の中では、米国の最大手検索会社と最大手インターネット通販会社が08年に経営統合し、巨大プラットフォーマーが誕生。「EPIC(進化型パーソナライズ情報構築網)」と称するシステムを通じて顧客一人一人の人間関係や消費活動、属性に合ったネットサービスを提供するようになる。そして、最終的にEPICは既存メディアの記事を編集・生成し、顧客に最適な形で配信するようになり、ニュースの世界で随一の巨人となっていく。

 動画が描いた「最良の、そして最悪の未来」が2023年、近づきつつある。技術的にはAIがニュースやインターネット情報を基に、読み手に合わせた記事や文章を生成することが可能になってきたためだ。

 生成AIブームの中で、世界のメディアは文章の複製・改編・乱造に対する危機感を強めるばかりだ。国内では5月に、123の新聞社・通信社・放送局が加盟する日本新聞協会が「生成 AI による報道コンテンツ利用をめぐる見解」を発表し、「言語空間の混乱と社会の動揺」を招く恐れに警鐘を鳴らした。見解は「報道コンテンツが無断・無秩序に AI に利用される懸念」を挙げ、政府に「著作権法や個人情報保護法を含めた法制度全体の観点から、生成 AI が社会と調和するものとなるよう、制度的対応を急ぐべきである」と提言した。

企業、AI時代に合わせたガバナンスを

 EPICが夢物語ではなくなり、欧州連合(EU)はこのほどAI規制法の制定に乗り出した。日本新聞協会がルール整備を呼びかけるのも、もっともなことだ。だが、本稿では、AIを安全に導入していくためには、法律で規制するだけではなく、AI時代に合わせて企業・業界のガバナンスをアップデートしていくことも重要だと強調したい。AI普及に合わせ、企業は活用を視野に入れた指針や規定を整えていくことが求められている。コンテンツを制作するメディアや報道機関も例外ではない。

 整備すべきAI指針とはどのようなものなのか。国内では大手のIT・デジタル企業、銀行などが倫理方針や原則を策定しており、一部の企業はコーポレートガバナンスの一環で、内容を公表している。ここでは2018年~21年に指針を公表したデジタル、電機など先進的に取り組む5社の事例を整理した。

 5社の指針を並べてみると、AI活用の目標や原則となる項目として、①社会貢献、②人間中心での活用、③ステークホルダーとの対話——などが並んでいる。これらの内容をかみ砕くと、「持続可能な社会の構築に向け、人間(ユーザー)の尊厳を優先し、補助する形で、株主や顧客等多様なステークホルダーの理解を得て、AIを活用すること」になる。

 また、具体的にAIを活用する際の規範となる項目としては、「プライバシー保護」「公平・公正」「透明性・説明責任」などを抽出できる。いずれも当該企業のガバナンスやパーパスに沿った内容となっている。

 AIを開発する企業、利用する企業、それぞれの立場でAIに対する姿勢は異なっていくだろう。報道機関の間にはAI脅威論も目立つが、AIの普及を見越して、どのような姿勢で活用し、対応していくのか、社内で指針や規定を決めておくことが大切になりそうだ。可能であれば、それを開示していくことが、透明性確保の観点からは望ましい。

 ここに挙げた5社の指針にある主要項目(プライバシー保護、公平・公正など)は今後、指針を検討する企業や報道機関にとって参考になるだろう。指針を策定し、中長期に運用していく際には、最新の技術・社会課題を反映させるため、コンプライアンスやテクノロジー、人権などの専門家の知見を取り入れていくことも期待される。

 最後に、動画「EPIC2014」の結末を紹介しておきたい。作中では、AIに記事を使われた米国の有力新聞社が著作権法違反で巨大プラットフォーマーを提訴したものの、最高裁で敗北。有力紙はネット事業から撤退し、エリート層と高齢者向けに紙媒体のみを提供するようになり、物語が締めくくられる。

 確かに、AI普及によって、誤った情報でネットが汚染されるリスクが危惧されており、その延長線上には既存メディアが第四の権力の機能を失う「暗黒の未来」もある。動画が描いたバッドエンドを回避するためにも、AIに対するルール整備と利用者・企業のリテラシー・ガバナンスの向上が求められている。

【筆者略歴】江田 覚(こうだ・さとる) デロイト トーマツ グループ DTFAインスティテュート主任研究員。時事通信社の記者、ワシントン特派員、編集委員として金融やデジタル領域、産業構造の変化を取材したのち、2022年7月より現職。

(2023年7月1日掲載)

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