日本代表から“伝道師”に マスター・オブ・ウイスキー佐々木太一さん【インタビュー】

「ウイスキーにはいろいろな特徴がありますが、最初はボトルやラベルの“見た目”が格好いいかどうかで選ぶのが一番です」―こう熱弁をふるうのは、元バレーボール日本代表の佐々木太一さん。強豪サントリーサンバーズのVリーグ5連覇にも中心選手として貢献した佐々木さんは引退後、サントリーの営業マンに転身した。日本に13人しかいない「マスター・オブ・ウイスキー」資格も持ち、日々、ウイスキー愛好者を広げるため、「伝道師」的な役割も果たしている。そんな佐々木さんが『絵とマンガでわかる ウイスキー1年目の教科書』(KADOKAWA)を出版したのを機に、ウイスキーの魅力や特徴、お薦めの飲み方などを聞いてみた。(時事通信大阪支社 小澤一郎)

世界5大ウイスキー

 ウイスキーの発祥地についてはアイルランド説、スコットランド説の二つがある。他にバーボンウイスキーが有名な米国、カナダ、そして日本が加わり、「世界5大ウイスキー」の産地とされている。

 全世界のウイスキー生産量の6割を占めるのがスコットランド産のスコッチウイスキーだ。佐々木さんは、「華やかさと幅の広さが特徴。蒸留所は動いているだけで140近くあって、いろんなテイストのウイスキーがごまんとあります」と解説してくれた。中でも、「ピート」と呼ばれる、野草や水生植物が炭化した泥土を燃料に使ったウイスキーもお薦めだ。「ピートを使うと薫蒸香が強く、いぶしたようなウイスキーになります。そんなスモーキー、煙臭いウイスキーもスコッチの特徴で、私も大好きなんです」と語る佐々木さんの口調はどんどん熱を帯びていく。

「日本はスコットランドをお手本に100年前からウイスキーを作ってきました。スコットランドのウイスキーは、全体的にまろやかさが強調されていて、飲みやすいのが特徴です。オイリーな、とろっとしたウイスキーが多かったアイルランド産も、最近10年ぐらいはスコットランドに似てきました」

 アメリカンウイスキーと言えば、バーボンウイスキーだろう。原料にトウモロコシを使っているため、大麦が主体のウイスキーとは香りと味が全く異なり「パンチが効いている」のが特徴。貯蔵用の樽(たる)の香りが強く出て、ウイスキーを飲んでいる実感が味わえる。

 飲みやすさに定評があるのがカナディアンウイスキー。佐々木さんは「一番ライトでさらっとしています。サントリーの商品ですが『カナディアンクラブ』は夏のハイボールにいいですよ。何も考えずにスカッと飲めます」と教えてくれた。

 ただ、産地によって原料も違えば味も異なるウイスキーは、それだけに奥が深く取っ付きにくい存在とも言える。佐々木さんがボトルの外見など“見た目重視”の「ジャケ買い」を勧めるのもこうした理由があるからだ。初心者向けの飲み方については、「ハイボールもいいし、本来のウイスキーの味をテイスティングしたいのであれば、ストレートを基本にして、常温の水をちょっと加えるぐらいが分かりやすい」と提案する。

挫折から難関資格へ

 佐々木さんが営業マンになった2005年ごろは、日本ではウイスキーの消費が低迷していた時期。その後、ウイスキーをソーダで割るハイボールがブームとなって、消費は回復した。「ウイスキーのアルコール度数は40度以上ですが、ハイボールなら3度ぐらいにもできる。これだけ幅の広いお酒ってほかにないですよ」。

 バレーボール選手時代からバーに通い詰めるなど根っからのウイスキーファンである佐々木さんが最初に取得した資格が、サントリーが専門的な知識を持つ社員を育成しようと2007年に創設した「ウイスキーアンバサダー」。講義の受講や国内の蒸留所見学だけではなく、本場スコットランドでの研修も必須とされる本格的なものだっただけに、佐々木さんは意気揚々と得意先を回って、自社のウイスキーについて語った。しかし、ここに落とし穴があった。

 自社ウイスキーは語れても、他社製品については何の知識もない営業マン。得意先にしてみれば意味がない。同業他社の営業マンと飲んだ際、「そんなことも知らないの?」と言われたことも。「かなりへこたれましたね」というほどの挫折だった。

 そんな時に、愛好家らでつくる「ウイスキー文化研究所」が、ウイスキーの魅力を伝えるスペシャリストに与える「ウイスキーコニサー資格」を主宰していることを知る。ウイスキーの知識を問う試験だけではなくテイスティング試験などもあってハードルは決して低くない。しかし、3段階の資格のうち最上位資格の「マスター・オブ・ウイスキー」はそのころは未実施だったことが、「ズバッと心に響きました。まだ試験が開催されていないなら『取ったら一番じゃん』って」と、生来の負けじ魂に火を付けた。5大ウイスキー、特に重点的に出題されるスコッチウイスキーに関しては、スコットランドの歴史や風土まで徹底的に学んだという。そして2011年3月、第1回最上位資格試験で合格したのは佐々木さんだけだった。

 近畿地方の営業担当だった佐々木さんは、その後、東京に異動。今では、山崎蒸溜所(大阪府島本町)や白州蒸溜所(山梨県北杜市)のPR、バーテンダーら全国のプロへの商品説明だけでなく、ウイスキー愛好者の裾野を広げるための活動にも従事、全国を飛び回っている。

「私はこの資格取得で大きく人生が変わった」と語る佐々木さん。一般のウイスキー愛好家にとっても、受験を通して楽しみ方を広げることになるので、「興味のある方には、肩肘張らずに受験してほしい」と“伝道師”らしい一言も。

勇気出してバーの扉開けて

 気温も上がって、冷えたグラスに入ったハイボールがおいしい季節。すっきり飲みやすく爽快なハイボールももちろんお薦めだが、それに慣れたら、「一歩踏み込んでバーに行ってほしいですね。面白いことがいっぱいありますよ」と佐々木さん。「ウイスキー1年目の教科書」でも、デパ地下のお酒売り場に配属された社会人1年目の女性がバーの扉を開け、通いながら知識を身に付けていく様子がマンガで描かれている。

「私は人間関係はほとんどバーで作ってきました。居酒屋やスナックでは隣のお客さんと話すことはあまりないかもしれませんが、バーでは話をすることが多い。そこで人間関係がすごく広がるんです。少し勇気を出してバーに行ってもらえれば、きっと人生が豊かになるはずです。自分はバーで人と出会って育てられ、いろいろ学んでお金の使い方も覚えました」

◇  ◇  ◇

佐々木 太一(ささき・たいち) 1971年生まれ、横浜市出身。サントリースピリッツカンパニーウイスキー事業部シニアスペシャリスト、ウイスキーアンバサダー。ウイスキー文化研究所認定「マスター・オブ・ウイスキー」初代合格者。大学卒業後、バレーボールの強豪サントリーサンバーズに所属しVリーグで5連覇、日本代表にも選ばれるなど活躍し、2005年に引退。身長は194センチ。ポジションはミドルブロッカー。

(2023年6月8日掲載)

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