政治取材をしていると、特定の議員に熱狂的な応援団がいることに気付く。アイドルファンさながらに遠方から演説に駆け付け、お手製のグッズを持つ人も。彼ら、彼女たちはなぜ政治家を追い掛けるのか。「推し活」の心に迫った。(時事通信政治部 木田茜)
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街頭演説は「ゲリラライブ」
「かわいい」「すてき」。40~50代の女性たちがはしゃぎ気味でカメラを向ける先には、立憲民主党の枝野幸男前代表(59)の姿があった。5月14日、枝野氏が地元のさいたま市で開いた会合後の一コマだ。
なぜ枝野氏に夢中なのか。東京都練馬区の40代、ハンドルネーム「あき」さんは、枝野氏が官房長官だった2011年ごろ「笑った表情を見てかわいいなと思い、追っ掛けをするようになった」と取材に語る。
愛媛県八幡浜市の40代「茸子」さんも、同時期に「記者会見で舌足らずな感じがかわいい」とファンになったという。
彼女たちにとり、枝野氏の街頭演説は「ゲリラライブ」。じかに聞くため、遠征するファンも少なくない。札幌市の50代「ツイハナ」さんは、2カ月に1回ほどさいたま市で開かれるオープンミーティングに足を運ぶ。
ポスターもファン撮影
枝野氏の写真をあしらったスマホカバーやうちわなど「推し活グッズ」作りも楽しむ。枝野氏の選挙ポスターの写真も、実はファンたちが撮影したもの。「枝野氏の魅力を熟知しているので、いい表情の写真が撮れる」(立民関係者)と好評だ。
神奈川県伊勢原市の40代「ミエちゃん」さんは、枝野氏の会見や関連記事を見るうちに「政治について知るようになり、身近になった」と感じている。12年には旧民主党の協力党員(サポーター)にもなった。
彼女たちは17年に結成された枝野氏のファンクラブ「立憲もふもふ党」のメンバー。「枝野氏への熱意」があれば誰でも入会でき、約50人が登録している。特に多いのは40代くらいの女性。関係者は「官房長官として東日本大震災の対応に当たった姿などが誠実そうなイメージを与え、女性に受けているのでは」と推測する。
きっかけはSPEED
女性ボーカルグループ「SPEED」のメンバーとして活躍した自民党の今井絵理子参院議員(39)もファンが多いことで知られる。今井氏の障害者福祉政策などを評価して支持する有権者も多いが、SPEEDの曲を聴いていた30~40代の男女が遠方から街頭演説や講演に駆け付けることが少なくない。
愛知県の医師藤田護さん(51)は1996年のデビュー直後からSPEEDの大ファン。ソロに転じてからも音楽活動の傍ら障害児支援に取り組む今井氏を応援してきた。
「落ち込んでいた時にたまたまテレビに出ていたSPEEDに魅了された。長男の障害を公表し、障害のある方の支援に取り組む姿もいい」と魅力を語る。
選挙に行くように
藤田さんは今井氏が政界に転じてからもファンを継続。多い時で月に3~4回は各地で開かれる講演や街頭演説に足を運ぶ。LINEや動画での活動チェックも欠かさない。
今井氏が議員になる前は選挙の投票に「行かないことの方が多かった」。だが、今井氏の政界進出をきっかけに候補者の街頭演説に足を止め、政策を聞いて積極的に投票に行くように。「障害者を含めた共存社会が大事だと感じるようになった」と語るように、政策への理解も深まったという。
高校生も熱い拍手
一方、若い男性に人気なのが国民民主党の玉木雄一郎代表(54)だ。5月9日の東京・新橋駅前での街頭演説後、玉木氏の元には写真撮影を求める若者らの長蛇の列ができていた。
聴衆の最前列で熱い拍手を送っていた東京都大田区の高校2年生の男子(16)は「ユーチューブを見て、(政策の)財源などもちゃんと考えていると知ってファンになった」と語る。
玉木氏は動画やSNSでの発信に力を入れている。インターネット上ではきはきと政策を語る姿が「10代、20代の男性に刺さった」(国民関係者)という。別の関係者は「『対決より解決』の姿勢が、争いを好まない若者にマッチした」とみる。
議席減に奮起
積極的に政治活動を行うようになったファンもいる。3月に大学を卒業した千葉県の男性、ハンドルネーム「うさのぼ(うさぎの登り坂)」さん(26)は、21年にネット動画を見て玉木氏のファンになり、翌年「アイドルのファンクラブのノリ」で国民に入党した。
ただ、当初の「推し活」は動画視聴などにとどまっていた。
転機は昨年の参院選。「国民が議席を減らしてショックだった」と振り返る。「指をくわえて見ていられない」と、国民を応援するツイッターアカウントを開設。街頭演説などの動画を編集した「切り抜き動画」の配信や、選挙活動のボランティア団体「千葉勝手連」の結成など、精力的に活動するようになった。今年1月には党学生部広報局長に就任した。
「玉木氏のファンになり、政治は身近だと感じた。政治家も身近だった」。動画作りなどで習得したプログラミングやデザインの知識は学業にも生かされたといい、「政治活動をすることで、それ以外の部分の人生も良くなった」と笑顔を見せた。
(2023年6月9日掲載)
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