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現役ドラフトで中日へ、細川成也はなぜブレークしたのか? 立浪監督と和田コーチの見方は

2023年06月09日10時30分

 プロ野球の現役ドラフトで今季中日に加入した細川成也外野手(24)の勢いが止まらない。打率3割台を維持し、勝負強さも見せつけて3番に定着。5月は自身初の月間最優秀選手(MVP)に選ばれた。6月8日の西武との交流戦では初めて4番を打ち、先制の2点二塁打、6号ソロなど3安打3打点と活躍。DeNAでの6年間、1軍で通算123試合の出場にとどまった右打者は今季、既に安打、打点などが過去6年の合計を上回った。自身も「びっくり」と驚くほど飛躍を遂げた背景には、何があったのか。(時事通信名古屋支社編集部 浅野光青)

 今季一番の猛打は、5月27日の古巣DeNA戦だった。2点を先制された直後の一回に左越え4号ソロを放つと、六回には右翼席への同点ソロ。米大リーグで2020年にサイ・ヤング賞(最優秀投手賞)を獲得したトレバー・バウアーから自身初の1試合2本塁打をマークし、「すごい投手から打てて自信になった」。四回の右前打と八回の二塁打を加え、これも初となる1試合4安打。バウアーは「素晴らしい打者だ」とたたえた。

 茨城・明秀日立高からドラフト5位で2017年にDeNA入り。1年目の10月にプロ初打席で本塁打を放ち、翌日もアーチを架ける鮮烈なデビューを飾った。しかし、その後は2軍で成績を残しながらも、外野手の層が厚い1軍では結果を残せない。通算6年間で41安打、6本塁打、19打点、打率2割1厘の成績だった。昨年12月に初めて実施された現役ドラフトで、打力不足に悩む中日に指名された。

和田コーチとの出会い

 ベンチプレスで145キロを上げるパワーを持ち、長打力が魅力。一方で確実性が低いのが課題だった。春季キャンプでフリー打撃を見た新任の和田一浩打撃コーチも「あそこまで飛距離が出る選手はなかなかいない。あとはタイミングや対応力を鍛えていかないといけない」と語っていた。軸足にしっかりと体重を乗せ、下半身と上半身をうまく連動させて打つために、春季キャンプではテニスボールをテニスラケットで打ったり、スライドボードを使ってティー打撃をしたり。さまざまなアプローチから練習した。

 試行錯誤を繰り返す細川はある日、こう話した。「タイミングを取るのがやっぱり下手くそ。力んでしまうので、上半身の力を抜いて、もっとシンプルな形に持っていきたい」。現役通算2050安打、319本塁打の和田コーチとともに、午後8時頃まで振り込む。暗闇の球場を、同じ大砲候補の鵜飼航丞外野手と一緒に最後に引き揚げるのが恒例となっていた。

ルーティンで安定感

 猛練習が実を結び、練習試合で活躍。立浪和義監督から春季キャンプのMVPに選ばれた。4月1日の開幕2戦目で、八回に代打で起用されて移籍後初打席で安打。翌日には先発出場した。限られた機会で結果を残し、今や主軸の一人に。一歩一歩、階段を上がっている。初球で思い切りスイングして球場をどよめかせることもあれば、追い込まれてから変化球に体を崩されながらも右方向へ安打を放つなど、持ち味を残しつつ対応力が向上。「キャンプからやっているタイミングや間が、投手に合わせられている」と本人はうなずく。

 レギュラーに定着以降、無安打が続いたのは2試合(1度)が最高と安定感が際立つ。その背景にあるのが、和田コーチらと行う試合前の早出練習だ。全体練習が始まる1時間ほど前から落合英二ヘッド兼投手コーチや森野将彦打撃コーチらに山なりのボールを投げてもらい、手元に引き付けて打ち返す。「僕の中のルーティン。いい形で試合に臨めるように、前日の反省点や(その日に)気付いたところを直す、いい時間になっている」

 そんな姿勢を、首脳陣も感心して見守る。立浪監督は急成長の理由について、「常に練習できる体の強さ。あと、いい打撃コーチに巡り会ったのが非常に大きい」と分析。「師匠」の和田コーチも、「練習に取り組む姿勢がすごくいい。もともと、それなりのものを持っていて、試合に出ながら成長していった。自信が生まれてきていると思う」と話す。

心機一転の「背番号0」

 5月は100打数36安打で打率3割6分、5本塁打、17打点。出場18試合で1安打(1本塁打)だった昨年からの飛躍ぶりに、細川は驚きを隠せない。「びっくりしている。今のところですが、ここまで成績を残せると思っていなかった。一試合一試合必死にやってきて、いい成績になっているので本当によかった」

 昨年までは、「本当に悔しくて、野球が全然楽しくない時もあった」。心機一転の気持ちで背番号「0」を背負う今季は、「キャンプから充実している。1軍で試合に出ることを目指してやってきたので、うれしい」と素直に語る。「6月からも5月同様、チームに貢献できるように結果を残したい」。シーズンが終わってどんな成績を残せるのか、自身も楽しみにしているという。

◇ ◇ ◇

 5月の月間MVP受賞を受け、細川が記者会見に臨んだ。主な一問一答は以下の通り。

 ―実感は。
 大変光栄だし、こういう賞を頂けると思っていなかったので非常にうれしい。

 ―誰に喜びを伝えたいか。
 まずは、親に報告したい。毎日楽しみに試合を見てくれているので、1年間通して活躍する姿を見せたい。

 ―新たな制度で入団した。
 現役ドラフトでドラゴンズに来て、新たな気持ちで今シーズンを迎えられた。キャンプから充実している。

 ―5月の数字を見て。
 打率が残って、あとは好機での打撃は心掛けてるので、打点もしっかり残せたのはよかった。

 ―印象的なシーンは。
 DeNA戦でバウアー投手から2本打てたのは自信になった。

 ―打撃向上のきっかけになったものは。
 キャンプから和田打撃コーチらに教わっていることを継続してやっている。一試合一試合、修正するところも話し合って試合に臨めているので、それが結果につながっている。考え方や、手の使い方など、いろいろなことを教わっている。

 ―4月は変化球を打っていたが、5月は直球も打ち返せるようになった。
 バットをコンパクトに出す意識でやっているので、それが結果になってよかった。

 ―自身も含めて打線は若い選手が多い。
 僕も負けずに、という気持ちでやっている。

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