4月の統一地方選で、地方議会の女性当選者の割合が初めて2割を超えるなど、女性の躍進が目立った。「政治分野のジェンダー不平等解消」を掲げ、今回の統一選で20、30代の女性ら24人を全国の地方議会に送り込んだプロジェクトがある。政党の枠組みを超え、政治家を目指す若い女性を発掘、支援する「FIFTYS PROJECT」だ。仕掛け人の能條桃子さん(25)に話を聞いた。(時事通信政治部 近藤碧)
【目次】
◇きっかけは絶望のツイート
◇議員を「誰でもできる仕事」に
◇被選挙権年齢で国を提訴へ
「女性が多いと会議が長い」抗議署名の発起人に聞く 国際女性デー【news深掘り】
きっかけは絶望のツイート
プロジェクトを立ち上げるきっかけは2021年秋の衆院選。当時慶大大学院に通いながら一般社団法人「NO YOUTH NO JAPAN」代表として若者の政治参加を促す活動をしていた能條さんは、当選者の顔ぶれの変わらなさに「絶望」し、思わずこうツイートした。
「20代女性で自分が政治家になるしかないのかも?と思っている人、DM(ダイレクトメッセージ)ください!」
この呼び掛けに、予想を超える約50人から返信があった。これだけ潜在層がいるなら可視化して支援し、候補者にしようと思い立った。
日本の政治分野のジェンダーギャップ指数(22年)は、146カ国中139位と最低水準。変えるならまず地方議会からだと考えた。統一選前の地方議会の女性比率は15%台。若い女性は特に少なく、ジェンダーや気候変動、子育てなど、この世代の声が政策に反映されていないとの問題意識があった。
開設したホームページ(HP)に「立候補しよう。これまでの男性と同じように振る舞えることがジェンダー平等ではない。政治の在り方を一緒に変えていこう」とうたった。プロジェクト名の「FIFTYS」には女性比率を50%にしたいとの思いを込めたが、当面の目標は「20、30代の地方議員における女性比率3割」と定めた。
昨夏、統一選に向け候補者の募集を開始。選定に当たり、20、30代であること、ジェンダー平等の理念と関連政策を共有できることを条件にした。メンバーとなった29人の所属は全国政党の立憲民主党、共産党、国民民主党から地域政党や無所属までさまざま。自民党や日本維新の会の候補者とも面談したが、「選択的夫婦別姓・同性婚実現に賛成」「クオータ制などのアファーマティブアクション(積極的是正措置)に賛成」といった条件項目で折り合えなかったという。
プロジェクトでは、選挙ノウハウの勉強会開催、候補者とボランティアのマッチング、メンバーのLINEグループ開設、HPでの候補者紹介といった形で支援。結果は政令市議1人、市区町村議23人が当選し、うち21人は初当選だった。
メンバーの8割超が当選という結果に、能條さんは「有権者の潜在的ニーズに比べ、若い女性候補者が圧倒的に足りていないことが明らかになった」と手応えを語る。一方で、都道府県議会や政令市議会など規模の大きな選挙では若い女性が当選しにくいといった課題も見えた。
今後は擁立を続けると同時に、候補者を支え選挙対策を担える女性たちの育成も進める方針。「いずれFIFTYS出身の首長や国会議員が生まれたらいいな」。能條さんが抱く「野望」は果てしない。
議員を「誰でもできる仕事」に
統一選後の5月13日、東京都内のオフィスビルで開かれた選挙の「振り返り会」。全国のメンバーが対面で集まるのは初めてだが、プロジェクトの理念に共鳴し選挙戦で励まし合った「同志」の空気感があった。選挙中には「女性の地位向上をメインに掲げたら支持層を狭めるぞ」「子どもがかわいそう」といったやじやハラスメントもあったが、「あなたのような人を待っていた」との有権者の言葉に支えられた、などと語り合った。総括で多くのメンバーが「選挙が楽しかった」と語ったのが印象に残った。
世田谷区議に初当選した小野瑞季さん(30)も、選挙が楽しかったと語る一人だ。昨年まで途上国の開発コンサルタント企業に勤務する「普通の会社員」だった。性暴力など自身のつらい経験が、ジェンダー不平等に起因する構造的な問題だと気付き、「政治から社会を変えたい」と立候補に踏み切った。
地盤も当選のあてもない中で始めた選挙活動だったが、プロジェクトを通じてサポーターが集まった。候補者が女性でも、選挙対策を仕切るのが「おじさん」では選挙は変わらない。小野さんの選対は同世代の女性が多く、「選挙の景色を変えた」ことも意義の一つと感じている。
立候補前は「無名で実績もない自分でいいのか」と悩んだが、「どんなに良い人でも何十年も議員をやれば特権化する。議会を身近なものにし、誰でもできるという方向に持っていきたい」。有権者への議会情報の共有やインターン受け入れを積極的に行い、後進の育成にも力を入れていく考えだ。
被選挙権年齢で国を提訴へ
実は、能條さん自身も今回の統一選に「立候補」した。ただ、届け出たのは神奈川県知事選で、被選挙権年齢の30歳に満たないことから不受理に。近く被選挙権年齢引き下げを国に求める集団訴訟を起こすための布石として出馬を目指した。
21歳の時に留学していたデンマークでは、10代の地方議員や同い年の国会議員がいた。若者の政治への関心度は、同世代の政治家がいるかどうかで大きく違うと感じた。
能條さんは「被選挙権はどの選挙も投票権と同じ18歳でいいのでは。受かるかどうかは有権者の判断」と語る。だが国会議員に被選挙権年齢の引き下げを要望しても、「世論」を言い訳に真剣に動いてくれなかった。夫婦別姓や同性婚のように裁判を通じて世論に訴えることで、制度改正につなげたい考えだ。
取材の最後に、実際に政治家になる考えはないのかと尋ねてみた。「最初は全然なかったけど、そのうちやってそう」。軽やかな返事が返ってきた。
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能條 桃子(のうじょう・ももこ)1998年生まれ。慶大経済学部卒、23年4月に同大院経済学研究科修士課程修了。一般社団法人「NO YOUTH NO JAPAN」代表理事。2021年2月、森喜朗元首相の女性蔑視発言に対する15万筆超の抗議署名を提出。22年、米誌タイム「次世代の100人」に選出された。
(2023年6月2日掲載了)