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女子100メートル障害、史上最高レベルの争い 陸上日本選手権は白熱の予想

2023年05月28日14時00分

 陸上女子100メートル障害が熱い。5月21日に横浜市の日産スタジアムで行われたセイコー・ゴールデングランプリ(GGP)横浜。自己記録に並ぶ12秒86で優勝した寺田明日香(33)=ジャパンクリエイト=を筆頭に、初めて日本選手5人が12秒台をマークするハイレベルなレースとなった。

 2019年に寺田が日本人で初めて12秒台に突入。先駆者を追うように、21年に青木益未(29)=七十七銀行=が続き、22年には福部真子(27)=日本建設工業=が12秒台ハードラーとなった上に日本記録を12秒73にまで縮めた。今季はさらなる新鋭も台頭。世界選手権(8月、ブダペスト)の代表選考会となる6月上旬の日本選手権(大阪)は、史上最高レベルの白熱した戦いが予想される。(時事通信運動部 前田祐貴)

◇ ◇ ◇

 この種目では、金沢イボンヌが2000年に出した13秒00が日本記録として20年近くも残っていた。06年に、走り幅跳びの日本記録を持ち100メートル障害でも第一人者だった池田久美子が追い風2.1メートルの参考記録で12秒90を出した快走もあったが、日本勢の前に「13秒の壁」が長らく立ちはだかっていた。それを破ったのが、ラグビー7人制への転向を経て陸上に復帰した寺田だ。19年8月に13秒00で並び、9月に12秒97をマーク。日本記録を19年ぶりに更新した。

更衣室で技術会議

 21年に延期された東京五輪直前の6月には、寺田と青木が12秒87で並び、22年4月に青木が0秒01縮めた。同年7月、福部が世界選手権の準決勝で12秒82を出し、9月の全日本実業団対抗選手権で12秒73と立て続けに日本記録を塗り替えた。福部は今夏の世界選手権の参加標準記録(12秒78)もクリアした。

 3人が競い合いながら記録を縮めてきた背景には、メリハリの利いたライバル関係がある。レース前は緊張感が漂っても、走り終われば動きの改善点を互いに指摘し合い、知識や技術を共有している。4月末の織田幹雄記念国際(広島)では、予選が終わった後も「更衣室でハードリングの技術会議をした」と福部。日本記録保持者の福部が「師匠」と慕う寺田も、後輩への助言を惜しまない。「みんなで何が問題なのか、海外の選手と自分たちは何が違うのかを考えていかないと」

自己ベスト連発の24歳

 その織田記念で日本人4人目の12秒台を出して優勝したのが、進境著しい田中佑美(24)=富士通=だ。雨が降る悪条件で12秒97をマークし、青木や福部らを抑えた(寺田は決勝を棄権)。大阪府出身。大阪・関大一高時代に全国高校総体で連覇した当時のホープは今季、5月上旬の木南道孝記念(大阪)で12秒91、セイコーGGPでは12秒89と自己ベストを連発している。

 出遅れがちだったスタートを改善するため、冬場に動きを見直した。骨盤を立てるようにコントロールし、走りやウエートトレーニングなどを通じて体になじませた。織田記念の前には欧州やオーストラリアに遠征し、精神的にもタフに。「体のコンディションを問わず技術が安定していれば13秒1台は堅い。ある程度スピードが乗れば、12秒台に入ると理解した」と手応えを口にする。

「3強」に挑む田中と清山

 「あまり周りを気にしないのが、ある意味モットー」と言いつつも、12秒台の先輩3人を意識しないわけにはいかない。「タイムが縮まれば縮まるほど、自分より速く走っている方はすごいなと、逆に距離を感じる」。その田中と、セイコーGGPで自己ベストの12秒96をマークした清山ちさと(31)=いちご=の2人が、日本選手権で「3強」に挑む。

 新鋭の突き上げについて、福部は「下が上がってこないと、上は上がれない。世界で戦うとなった時に、米国は12秒4でも(代表入りが)危ういレベル。こんなところでヒーヒー言っている場合じゃない」。寺田も「率直にうれしい。見ている側も面白いと思うし、自分も楽しんでやっている。変にプレッシャーをかけずに、私も一人の陸上ファンとして楽しみながらやりたい」と歓迎する。

福部は筋肉量を増やす

 今季は12秒5切りを目標に掲げる福部だが、「寺田さんや青木さんに勝ったと思ったことは一度もない。2人が(道を)切り開いてレールをつくってくれた上に、自分が乗っかっただけ」と謙遜する。世界大会での結果を求め、指標のない挑戦を続ける覚悟だ。オフにはフィジカル強化を進め、筋肉量は昨季よりも2.5キロほど増えたという。

 セイコーGGPでは、予選、準決勝、決勝と2日間でレースが3本ある日本選手権を見据え、足への負担が少ない中長距離用のスパイクを試した。12秒91で寺田、田中に続く3位にも「これで91が出るなら、決勝で勝負を仕掛けて6台、7台が見えてくる」と手応えは十分だ。

 昨年の日本選手権を欠場して自身の走りを見直してきた寺田は、24年パリ五輪を最大の目標に置きつつ、12秒7台前半から6台半ばを狙う。スプリントに自信を得て臨んだ今季、12秒86を2戦連続で出しても納得する様子はない。「日本選手権へ、もう少し仕上げていくと(世界選手権参加標準記録の12秒78は)堅い。すごい向かい風じゃない限りは大丈夫」と言う。

初の12秒台決着が濃厚

 青木は2月のアジア室内選手権(カザフスタン)60メートル障害決勝で、8秒01の室内日本新記録を樹立して優勝。100メートル障害でもセイコーGGPを含めた最近2戦連続で12秒台をマークし、さらに調子を上げてくるだろう。

 日本選手権の決勝で12秒台の決着は過去にない。史上最高メンバーがそろい踏みする今年、その壁を突破するのは濃厚だろう。福部の連覇か、寺田や青木の返り咲きか、はたまた新鋭の下克上か。6月2日に予選と準決勝、3日に決勝が行われる。

女子100メートル障害日本記録の変遷

13秒00 金沢イボンヌ 2000年7月
13秒00 寺田明日香 2019年8月
12秒97 寺田明日香 2019年9月
12秒87 寺田明日香 2021年6月
12秒87 青木 益未 2021年6月
12秒86 青木 益未 2022年4月
12秒82 福部 真子 2022年7月
12秒73 福部 真子 2022年9月

女子100メートル障害日本歴代10傑

(1)12秒73 福部 真子 2022年9月
(2)12秒86 青木 益未 2022年4月
(2)12秒86 寺田明日香 2023年5月
(4)12秒89 田中 佑美 2023年5月
(5)12秒96 清山ちさと 2023年5月
(6)13秒00 金沢イボンヌ 2000年7月
(6)13秒00 鈴木 美帆 2021年6月
(8)13秒02 池田久美子 2007年4月
(8)13秒02 紫村 仁美 2013年6月
(10)13秒03 木村 文子 2013年6月

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