静岡県牧之原市で2022年9月、認定こども園「川崎幼稚園」に通う河本千奈ちゃん=当時(3)=が、通園バス内に置き去りにされ熱中症で死亡した事件。千奈ちゃんの父親(39)がインタビューに応じ、今も受け入れがたい、最愛の娘との突然の別れを語った。(時事通信静岡総局 伊藤奏乃、浜光史)
―千奈ちゃんはどんなお子さんでしたか。
活発で明るくて元気な子でした。家の中では音楽に合わせて踊ったり、大好きなディズニーキャラクターのまねをしたり。公園で滑り台やブランコをしたり、走り回ったりすることが好きな子でした。夏には庭に家庭用のプールをつくって水遊びすることも好きでした。
―挑戦中だったことや、できるようになっていたことはありますか。
お箸を使う練習を一生懸命にやっていました。フォークを出しても「お箸がいい」と。歯磨きも自分でしていました。補助してあげるのですが、「自分でやる」と言う。成長を感じてうれしかったです。できることがどんどん増えていって。
特に印象に残っていることで言うと、妹が生まれ、「お姉さん」としていろいろ行動できていました。ミルクをあげたり、妻と私が妹の沐浴(もくよく)をしていると、パーっと近寄ってきて手伝うそぶりを見せてくれたり、というのもありました。
―妹が生まれるのを楽しみにしていたんですね。
そうですね。千奈が幼稚園から戻り、(出産を終え退院した)妻を見たとき、1週間ぐらい会えなかったから、「あっママ!」と行くのかなと思っていたら、一言目が「赤ちゃん産まれた?」でした。心待ちにしていたような感じでした。
―事件当日、千奈ちゃんはどんな様子でしたか。
朝食はパンとベビーチーズとヨーグルト。それから、リンゴを食べて牛乳を飲んで、体温測定もしました。千奈はバスがすごく楽しみで、バスが来ると、妻から荷物を奪い取るようにして乗っていったそうです。 本当に楽しみに、早くバスで幼稚園に行きたいということだったと思います。
ー事件のことをどういう状況で知ったのですか。
妻は当日午後2時15分くらい、私が20分くらいですかね。妻は自宅から園まで走っていくんですが、その前に、私のほうに連絡をくれました。
私は仕事をしていて、アナウンスで「お電話です」と。受話器を取るとき、モニターに妻の電話番号が出て、「あれ、どうしたのかな?」と思いました。妻はパニックになっていて、「千奈ちゃんが!千奈ちゃんが大変!」みたいな感じで。私は「すぐ行く」と早退しました。
病院で妻と合流し、パニックになりながら、2人で待っていました。とにかく千奈に会いたい。どういう状況なのか。しばらくして処置室の中に入ったら、心臓マッサージを受けている千奈が横たわっていました。心電図が動いていたので、「これはまだ生きてるってことですか?」と聞いたら、「心臓マッサージをしているから動いています」ということを言われました。
本当に何がなんだか分からないんですよね。私は1時間前まで普通に仕事していて、妻は1時間前まで家で休んでいて、1時間後には病院にいる。意味が分からなかったです。
―今、千奈ちゃんにはどのような言葉を掛けていますか。
毎日、朝だったら、「千奈ちゃんおはよう。愛してるよ。助けられなくてごめんなさい」ですかね。いつも思い出すんですよ。千奈が「パパ大好き!」って言ってくれた、その言葉を千奈の声で思い出し、「パパも大好きだよ」って。 そうやって過ごしています。
◆◆◆事件の概要◆◆◆
静岡県牧之原市で2022年9月5日、認定こども園「川崎幼稚園」の通園バス内で意識不明になっている河本千奈ちゃん(3)が見つかった。千奈ちゃんは、5時間余りバス内に置き去りにされており、搬送先の病院で死亡が確認された。県警は22年12月、バスを運転していた前園長ら4人を業務上過失致死容疑で書類送検している。