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「経年劣化」進む自公政権 連立解消はあるか【解説委員室から】

2023年06月01日15時00分

 衆院小選挙区の「10増10減」に伴う東京都での候補者調整をめぐり、自民、公明両党は対立を深めている。公明党は東京の小選挙区で、自民党候補に推薦を出さないなど都内での協力関係解消を決定し、同党に通告した。公明党が連立参加に踏み切った1999年10月以降、最悪の関係と言え、自公連立政権の「経年劣化」が進みつつあることを浮き彫りにした。(時事通信解説委員長 高橋正光)

【目次】
◇「信頼地に落ちた」激しく非難
◇強硬方針は学会主導?
◇対維新、透ける計算
◇広島3区で首相も煮え湯
◇連立解消なら双方ダメージ
◇円満決着か、想定外の事態か

立民「サル」と共産「除名」 衆参補選・統一選、自滅の構図

「信頼地に落ちた」激しく非難

 「東京における信頼関係は地に落ちた」。公明党の石井啓一幹事長は5月25日、国会内で自民党の茂木敏充幹事長と会い、都内での協力関係の解消を伝えた後、記者団の前で激しい言葉で非難した。会談には、自民党の森山裕、公明党の西田実仁両選対委員長も同席。これに先立ち、公明党は常任役員会で①自民側に了承を求めていた東京28区での候補者擁立の断念②公認を発表済みの東京29区で自民党に推薦を求めず、都内の小選挙区で自民党候補を推薦しない③今後の都議選や首長選での選挙協力見送り④都議会での協力解消―を決定した。

 もっとも、石井氏は「あくまでも東京の選挙協力の話」として、他の46道府県では協力を続ける方針を強調。「連立に影響を及ぼすつもりはない」と述べ、連立解消の可能性を否定した。

 小選挙区の「10増」を受け、公明党は、東京、埼玉、千葉、愛知の4都県での候補者増を模索。東京12区の現職・岡本三成氏を同29区に国替えさせることや、埼玉14区に石井幹事長(比例北関東)、愛知16区に伊藤渉政調会長代理(比例東海)の公認を決め、発表した。さらに、東京28区での擁立を認めるよう求めていた。

 これに対し、自民党は、調整段階での公明側の公認発表を「既成事実化を図るものだ」などと反発。東京29区、埼玉14区、愛知16区は容認の方針を固め、東京28区については、「立てたい候補者がいる」として、拒否を通告した。この結果、激怒した公明党は、都内での協力解消を決めた。

さらに公明側は、半年近くに及んだ水面下での交渉経過を公表。それによると、4月の衆院千葉5区補選での協力や千葉での候補者増断念を自民側に求められ、受け入れた。その一方で、東京での候補者増に向けて交渉を進め、自民側から、28区を譲ることについて「党本部としても最大限努力する」との話があった。

 ところが、5月23日になって、自民党都連が候補者を内定していることを理由に「党本部が地元を説得して、全面的に協力することは困難」と伝えられ、受け入れ困難な「代替案」が示された。こうした交渉経過は、「石井氏の党会合などでの説明」として、公明党の支持母体である創価学会の機関紙「聖教新聞」(5月26日付)に掲載された。

強硬方針は学会主導?

 都内での協力関係の全面解消という「強硬方針」について、政界では、山口那津男代表や石井幹事長ら党執行部の判断との見方は少なく、「学会主導」との受け止めが大勢だ。というのは、選挙を全面的に創価学会に依存する公明党の特殊事情からだ。

 選挙で集票活動の中心となるのは、女性部を中心とする創価学会。このため、選挙関連では、学会側の判断は重い。また、個々の政策では、自民党と日常的に接触する党側に裁量権があるものの、連立参加など大きな政治方針の決定や、憲法や安全保障など学会の教義、精神に関わるテーマでは、学会側の了解は欠かせない。連立政権樹立から23年超が経過し、近年では「学会主導」の傾向が強まりつつある。

 石井氏の「信頼関係は地に落ちた」との発言も、学会側の自民党へのメッセージと見る向きは多い。公明党関係者は、石井氏がメモを見ていたことに触れ「学会側と綿密に打ち合わせたのだろう」と指摘する。

 自民党幹部や公明党関係者によると、公明党で自民党との候補者調整を主導しているとされるのは、創価学会の佐藤浩副会長。2000年ごろに、幹部への登竜門である青年部長を務めたエリートだ。12年12月に発足した第2次安倍晋三政権下、学会の選挙担当を務める傍ら、菅義偉官房長官(当時)と強固な関係を築き、重要局面でしばしば学会側の意向を伝えてきた。

 消費税率を10%に引き上げる際、菅氏は食料品などへの軽減税率の導入を強く主張し、実現させたが、佐藤氏らを通じて伝えられた学会側の意向を踏まえたものだ。21年に定年で学会職員を退職、選挙担当のポストも後輩に譲ったが、「実権は握ったまま」(自民党選対筋)とされる。

 そもそも、公明党が小選挙区での候補者増を強く求めるのは、昨年7月の参院選で露呈した集票力の低下に加え、今年4月の統一地方選の結果、大阪市の政治情勢が大きく変わったことが影響している。

 維新はこれまで、「大阪都構想」への協力の見返りに、大阪で4、兵庫で2、公明の現職がいる選挙区で、候補者擁立を見送ってきた。しかし、2回目の大阪市での住民投票の結果、都構想は完全に頓挫。統一地方選の結果、大阪府議会に加え、市議会でも維新の会が過半数を確保し、公明党の協力がなくても、必要な政策の遂行が可能になった。

 これを受け、維新の馬場伸幸代表は、公明党との関係を「一度リセットする」と述べ、関西6選挙区での候補者擁立の可能性を示唆。ある幹部は「候補者を立てないことの政治的なメリットはゼロ。見返りがなくては、主戦論の若手を押えることもできない」と明かす。

 統一地方選での維新の躍進ぶりから、関西6選挙区に候補を立てられれば、公明党の勝利はおぼつかない。関西での議席減の可能性を踏まえ、「増員区」での候補者増により、議席の目減りを極力少なくしようとの判断だ。

 これに対し、自民党にも安易に譲れない事情がある。「10減」対象のうち、4県は全選挙区に自民党の現職がいる独占区。減員区で割を食うのに、増員区で公明党の要求をすべて受け入れるわけにはいかない、というわけだ。

対維新、透ける計算

 こうした政治状況を踏まえ、公明党が東京の小選挙区で、自民党との選挙協力の解消を決めたことを考えると、ある狙いが透けて見える。維新が関西6選挙区で、引き続き候補者を立てない場合の見返りに使う、交渉の「カード」にしようとの計算だ。

 維新は前回21年10月の衆院選で、都内の17選挙区で候補者を立て、3万~8万票を得ている。先の統一地方選で維新が都内で着実に議席、得票を増やしたことを考慮すると、「1選挙区2万票」とも言われる公明・学会票が自民党候補に流れなければ、維新が競り勝つ選挙区も出てくるだろう。維新の支援に回れば、その数が増える可能性が高い。

 もちろん、公明が東京での協力解消を、対維新との「カード」に使った場合、自民党内から「信頼関係は地に落ちた」などの声が広がり、46道府県での選挙協力に影響が出かねない。連立政権解消が現実味を帯びよう。

 一方、自民、公明両党の対立がここまでエスカレートした背景には、パイプが細くなった事情がある。長年パイプ役を務めてきた自民党の大島理森元衆院議長、公明党の太田昭宏前代表、漆原良夫国対委員長らが引退。岸田政権の発足に伴い、菅前首相や二階俊博幹事長は、政権に距離を置く非主流派となった。

 岸田文雄首相、麻生太郎副総裁、茂木幹事長は、公明・学会票がなくても余裕で当選できるほど地盤が強固。こうした事情から、公明党内からは、3氏について「選挙で自民党候補を支援する苦労が分かっていない」(幹部)との声が漏れる。政権中枢で、公明・学会への理解が深いのは、森山選対委員長くらいだが、今回の混乱で、完全にメンツをつぶされた。

広島3区で首相も煮え湯

 自民党内では、「選挙協力」「票」をちらつかせて、要求をのませようとする公明党の交渉手法を「脅し」と受け止め、反発する議員は多い。実は岸田首相にも、この手法に屈服した過去がある。

 自民党選対関係者によると、公選法違反罪に問われた河井克行元法相の議員辞職を受けた衆院広島3区の候補者調整で、公明党は斉藤鉄夫国交相の擁立を認めるよう要求。自民党広島県連が難色を示すと、学会幹部が岸田派幹部に、こう伝えてきたという。「次の選挙で、応援できない」。

 広島は岸田首相の地元で、最終的に押し切られた。選対関係者は「岸田首相は広島3区の件で、煮え湯を飲まされた」と指摘する。

 公明党は参院選への準備に本格着手した昨年1月、候補者を立てない改選定数が1の「1人区」などで自民候補を推薦しない一方、公明が候補を擁立する5選挙区で、自民の推薦を求めない方針を決めている。自民側の対応の遅れへの不満からで、茂木幹事長ら執行部は調整を急ぎ、自民党大会を控えた3月、公明の求める5選挙区での推薦を決定、「円満決着」した。

 公明党が選挙協力を交渉のカードに使うのは、衆院広島3区、昨年の参院選に続き、今回で3回目。岸田首相は5月25日、茂木氏らに「丁寧な対応」を指示。茂木氏は同30日、国会内で石井氏に会い、埼玉14区、愛知16区での公明党からの擁立を受け入れることを正式に伝え、配慮を示した。参院選と同様、自公両党の調整が最終的に円満決着しても、脅された自民側に、公明党への怒りが消えることはないだろう。

 「聞く力」をアピールする岸田首相だが、実は「感情を表に出さないだけで、気が短い」(周辺)という。「脅し」への怒りを、胸中にため込んでいるかもしれない。

連立解消なら双方ダメージ

 「政界一寸先は闇」。自民党の川島正次郎元副総裁が、先の見通せない政治の実態を言い表した名言だ。党内抗争の末に、野党提出の内閣不信任決議案が可決された1980年のハプニング解散、社会党外しの「統一会派構想」に反発した同党の非自民連立政権からの離脱と、自民、社会、さきがけ3党連立の村山富市内閣の発足…。時には、誰も想定していなかった事態が起きるのが政界だ。

 自民、公明両党が対立を深め、相互に不信感を募らせれば、行きつく先は連立の解消、政権の枠組み変更。そういう事態があり得ることは、歴史が証明している。もし自公連立が崩壊した場合、双方にどういうダメージがあるのだろうか。

 衆院で自民党は単独で過半数を握るが、参院では過半数に達していない。ただ、国民民主党と連立を組めば過半数に届き、当面は安定した政権運営は可能だ。

 衆院解散となれば、創価学会の組織票がなくなるのは避けられないが、保守層が奮起すれば、一定程度カバーできる可能性がある。当然、内閣や党の支持率、政権を取り巻く政治環境、選挙の争点も影響するので、結果を予想するのは困難。参院選も同様だ。

 一方、野党になった公明党は、党の主張、学会側の要望を政策として実現させることは不可能になる。衆院選や参院選で、これまでの実績や、新たな目玉政策をアピールするなどして、学会員以外にも支持を広げる(いわゆるF=フレンド=票の獲得)戦術は使えない。

 統一地方選を控えた4月6日の聖教新聞には「公明の主張が政府案に反映―少子化問題」という見出しで、幹部による座談会の記事が掲載されているが、こうした紙面作りもできなくなる。自民党の支援が得られないことと合わせ、衆院選の小選挙区、比例で議席減は不可避だろう。

 さらに、政策、選挙関連以上に大きいと思われるのが、学会員の士気への影響だ。宗教団体である創価学会の最高指導者は、池田大作名誉会長。1960年5月に第3代会長に就任して以来、63年間事実上のトップとして学会を率いている。

 宗教団体として、最も重要なのは信仰。教義の面で指導できるのは、存命者では池田氏一人だ(故人では牧口常三郎初代会長と戸田城聖第2代会長)。現在の原田稔会長(第6代)は、組織運営の責任者の位置付けで、同氏を含めた幹部は、3代会長の教えを会員に伝える役割を担う。学会にあって、池田氏は「師匠」で、全ての会員は「弟子」に当たる。

 その池田氏はこれまで、政治に関連して二つの大きな決断をしている。一つは公明党の結成、政界への進出であり、もう一つは自民党との連立だ。

 公明党の結党は1964年11月。当時は「大企業優先の自民党」と「労働組合中心の社会党」によるイデオロギーの対立があり、「大衆の手に利益を取り戻す」ため、公明党を立ち上げた。同党が「大衆とともに」を立党の精神とするのは、こうした経緯からだ。

 その後、自民党、社会党の間で、軸足を移すことはあったが、野党として存在感発揮に努めた。非自民の細川連立政権に参加し、短期間、与党となったものの、村山政権の発足に伴い野党に転落した。

 そして、1999年4月の統一地方選の終了を待って、「政治の安定」を大義に、参院で過半数割れしていた自民、自由両党連立の小渕恵三政権への参加に向け、自民党との政策協議に入り、同年10月に連立政権に加わった。

円満決着か、想定外の事態か

 当時、厳しく批判してきた自民党と連立を組むという180度の路線転換について、党、学会双方の内部に異論があったが、同年5月に都内のホテルで開かれた神崎武法代表、秋谷栄之助会長(いずれも当時)ら党と学会の幹部協議で、連立参加の方針を最終決定した。

 この協議に池田氏は出席していないが、池田氏の了解なしに、連立参加にかじを切ることは、組織の性格上あり得ない。その意味では、自民党との連立は、池田氏の「決断」であり、「功績」と言える。

 これらのことを踏まえ、連立が解消され、公明党が野党に戻る意味を考えると、「大衆の利益」を実現するのは困難になり、池田氏の「功績」がかすむことになる。学会員の士気の低下は、避けられそうにない。

 山口代表が、こうした事情を熟知しているのは間違いない。5月16日の自民党安倍派のパーティーでのあいさつで、「政権奪還時の原点」とともに、「連立の大義を忘れてはならない」と述べたのは、現状への危機感からに他ならない。

 連立解消となれば、自民、公明・学会双方にとって、ダメージは大きい。このため、互いに歩み寄り、最終的には円満決着する可能性が高そうだ。

 とはいえ、公明党の連立参加から23年半が過ぎ、当時の経緯や苦労を直接知る党や学会の幹部は少なくなった。自民党でも同様だ。また、新たなパイプ役も、公明・学会、自民党ともに育っていない。

 候補者調整をめぐる両党の対立の激化は、連立政権の「経年劣化」の表れであり、「補修」を迫られている。政界の歴史が証明しているように、それがなければ、想定外の事態も起きかねないだろう。

(2023年6月1日掲載)

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