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サッカーW杯からアジア杯へ 再び熱狂の舞台となるカタールを訪ねる

2023年05月31日15時00分

 中東初開催となったサッカーのワールドカップ(W杯)カタール大会から半年を迎える。森保ジャパンが見せたドイツ、スペインを破る快進撃、メッシ擁したアルゼンチンの劇的な世界一―。祭典の余韻を残す中、来年早々、カタールでアジア王者を争うアジア・カップが開催される。1次リーグ組み合わせ抽選会の取材と現地視察を兼ね、再び熱狂の舞台となるカタールを訪れた。

コロナ前の風景に

 5月10日。午前4時すぎにドーハのハマド国際空港に到着した。W杯決勝戦までカバーした昨年12月以来の再訪。早朝とあってか人はまばらで、降機から5分程度で入国審査へ。当局から推奨された海外旅行保険証を準備していたが、自動ゲートにパスポートをかざすだけで係員によるチェックはなかった。新型コロナウイルスによる煩雑な手続きは消え、すっかりコロナ前の風景に。現地1泊の短期出張のため預け荷物もなく、到着ロビーに出るまで10分ほどだった。

 空港内には、各国ユニホームや関連グッズなどを売るW杯オフィシャルショップがまだ残っていたが、ほとんどの商品が50%以上オフというたたき売り状態。現地通貨を見て電卓をはじき、頭を悩ませながら正規料金で土産を買い込んだ半年前が懐かしく思えた。

 5月のドーハの日差しは容赦なく照りつけ、天気予報が示す最高気温は40度。午前7時すぎにホテル周辺を散歩したが、15分も歩いていられなかった。

 W杯を通例の6月ではなく、カタールの冬に当たる11~12月開催にして正解だったと改めて思った。W杯スタジアムには自慢の冷却システムが導入されていたとはいえ、非装備の練習場では90~120分の練習はとても耐えられない環境だということをまざまざと体感し、汗を拭いながらホテルへ戻った。

引き継がれるレガシー

 来年のアジア杯は1月12日に開幕し、決勝は2月10日。24チームによって争われ、8会場のうち六つはW杯スタジアムが使用される。開幕戦と決勝の舞台はアルベイト競技場に決まり、その他はアルジャヌーブ、アハマド・ビン・アリ、アルトゥママ、ハリファ国際、エデュケーション・シティーの各競技場。ハリファ国際は、日本がアジア王者に輝いた2011年大会の決勝会場で、W杯カタール大会では日本がドイツ、スペインを破った縁起のいいスタジアムだ。

 今回で3度目となるカタールでのアジア杯開催は、中国が新型コロナウイルスを理由に開催を返上したことで決まった。国土が秋田県よりも狭い小国カタールでは、「サステナビリティー(持続可能性)」のキーワードの下、W杯後はスタジアムを解体、あるいは改築することになっていた。ところが、今回の代替開催により、ほとんどのW杯競技場が「延命」となった。

 大会組織委員会のジャシム最高経営責任者(CEO)は、成功を収めたW杯開催の実績を引き合いに「カタールは記憶に残るW杯を開催したことで、世界のスポーツの中心地となった。最高の会場、インフラ、組織力で大会を成功させることで、W杯のレガシーを引き継ぎたい。史上最高のアジア杯にする自信がある」と誓った。

 日本メディアでは唯一、時事通信社が参加した今回のメディアツアーでは、フランスとモロッコによるW杯準決勝が行われたアルベイト競技場を視察。収容約6万9000人は、W杯決勝の舞台となったルサイル競技場に次ぐ2番目の規模だ。内装は赤を基調としたテント型で、デザインと名称はかつて湾岸地域で遊牧民が使っていた伝統的なテントに由来するという。この競技場も本来は、W杯後に五つ星ホテルを併設する改築工事を行うはずで、ピッチは残しつつも、上部の観客席を約3万席撤去し、代わってレストランやスポーツジムなどホテルに必要な施設を整える計画だった。

 内覧会では、既に整備されたホテル客室に加え、選手の控室や浴室なども視察した。VIP入り口から直結する階には、ホテルのフロントを想定したロビーが正面に広がり、ガラス越しにピッチが飛び込んでくる。観客席の中段に位置する同階では、スタジアムをぐるりと一周する形で、将来的には97部屋の客室を整える計画だ。案内された客室には、キングサイズのベッド、キッチンとユニットバスなどが備えられ、観客席とつながった大きな窓からはピッチが一望できた。

 続いて向かったのは、チームが使用するピッチレベル。W杯準決勝で、フランスのエムバペやグリーズマンらが使用したロッカー室は、楕円(だえん)型の広々としたつくり。マッサージ室とシャワー室が直結し、ジャグジーとアイシング用の浴槽を備える浴室を間に挟んで、隣にはロッカー室がもう1部屋と、機能性と快適性を兼ね備えた、まさにW杯仕様の環境と言えた。

アジアの祝福

 5月11日に開かれた1次リーグ組み合わせ抽選会には、日本代表の森保一監督をはじめ、韓国代表のクリンスマン新監督らが出席して、ドーハのオペラハウスで行われた。W杯カタール大会で史上初の女性審判員の一人に名を連ねた山下良美審判員も、和服姿で参加。元韓国代表でJリーグの京都サンガでもプレーした朴智星氏、かつて日本を何度も苦しめた元オーストラリア代表のケーヒル氏らと共に、抽選のアシスタント役を務めた。

 注目のドロー。前回カタールに屈して準優勝に終わった日本は、イラク、ベトナム、インドネシアと同じD組に入った。ベトナムを率いることになった元日本代表監督のトルシエ氏が不在だったのは残念だったが、森保監督は「日本のことを熟知している監督。いろんな対策を講じてくると思うので、その上をいけるようにしたい」。前回大会もアジア各国のレベルアップと日本への包囲網を実感しただけに、王座奪還を目指す大会へ表情を引き締めた。

 これもW杯効果だろう。「W杯カタール大会で日本が成し遂げたことを日本だけでなく、アジアの皆さんも喜んでくれた」。抽選の会場や取材エリアでは、各国関係者に声を掛けられるほど森保監督の認知度は高まっていた。

 抽選後には、早くも決勝の予想をする声もあり、日本と韓国の顔合わせを期待する関係者も。仮に両チームが1次リーグを1位通過すれば、決勝トーナメントでは反対の山に入り、両者が勝ち続ければ実現する。ジャシムCEOも「W杯で日本がドイツ、スペインのいる『死の組』を勝ち抜いて見せた素晴らしいサッカーを、アジア杯でも見られることをカタールの人々は望んでいる」と期待を寄せた。

 カタールでは来年4~5月に、男子サッカーのパリ五輪予選を兼ねたU23(23歳以下)アジア杯も開催される。大岩剛監督率いるU22日本代表は、バーレーン、パレスチナ、パキスタンと同じD組に入った9月の同予選で、まずは本戦出場を目指す。アジアの五輪出場枠は3.5。アジア杯に続き、アジアの若き選手たちによる熱い戦いがカタールで繰り広げられる。

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