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人道支援「喫緊の課題」 ミャンマー問題で識者 政変2年、空爆など続く

2023年05月20日

 ミャンマーでは国軍のクーデターから2年以上が経過したが、民主化指導者アウンサンスーチー氏率いる「国民民主連盟」(NLD)の政党登録が抹消され、北部ザガイン地域での国軍の空爆で民間人160人超が死亡するなど国際的な批判が高まる事態が続く。情勢に詳しい京都大の中西嘉宏准教授が時事通信の書面インタビューに応じ、「紛争の解決には相当な時間が必要だが、人道支援は喫緊の課題だ」と訴えた。主なやりとりは次の通り。(時事通信社バンコク支局長 鈴木英明)

 ―NLDの政党登録抹消の背景と、国軍が実施するとしている総選挙への影響は。

 クーデターの最大の目的は、民主化勢力を政権から排除することだった。関係者の逮捕や訴追、NLDの政党資格喪失と、国軍の思惑通りに物事が進んでいる。NLDによると、今年1月までに党員1232人が国軍に拘束され、死刑を執行された人もいる。党としてまともな活動ができる状態ではなく、仮に選挙に参加しても勝つことはできない。国軍への抵抗の主体は、中堅幹部が設立した国民統一政府(NUG)に移っており、内政に大きな影響はないだろう。

 ―国軍はなぜ多数の民間人が犠牲になったザガイン空爆を行ったのか。

 空爆が行われたカンバルー郡の農村部には抵抗勢力がいる。民間人が巻き込まれると分かった上で攻撃したのだろう。抵抗を支援する民間人に対する威嚇も狙っている。国軍はゲリラ戦で苦戦しており、空からの攻撃で優位に立とうとしている。防止策として国軍への武器や航空燃料禁輸などが訴えられているが、現状では実現が難しい。空爆を控えるよう外交的な働き掛けをする以外の手段はないだろう。

 ―国内の戦闘状況は。

 NUGの軍事部門である人民防衛隊(PDF)や少数民族武装勢力などが混成部隊を組み、地域差はあるが農村部を中心に各地で武力衝突が起きている。国軍は力で抑え込もうとしており、大量の避難民が出るなど人道危機が深刻化。こうした状態が既に1年以上続いたままこう着している。国軍が目指す抵抗勢力の鎮圧も、抵抗勢力が目指す革命も起きそうにない。

 ―国際社会はどのような対応を取るべきか。

 ミャンマー問題に対し、国際社会は協調して行動できていない。欧米諸国は国軍関係者や国軍系企業に経済制裁を科すなど圧力をかけている。ミャンマーを外交的、経済的に孤立させることにはある程度成功しているが、国軍の行動を変えるには至っていない。この状況が続けば最も被害を受けるのは一般国民だ。ミャンマーも加盟する東南アジア諸国連合(ASEAN)は国軍に直接働き掛けようとしており、クーデター後の2021年4月に国軍トップも出席した会合で「5項目の合意」に至った。ただ、実現したのは特使の任命ぐらいで、国軍が抵抗勢力への弾圧を強化したためシンガポール、マレーシア、フィリピン、インドネシアは強い姿勢で臨んでいる。一方、隣国タイは異なる対応で、ASEAN内の路線の違いが効果的な働き掛けを難しくしている。

 中国、ロシアは実質的に国軍を追認する態度だ。中国は自国民が多く暮らし、パイプラインなど大きな権益を保有して国境も接しているミャンマーを、経済的にも安全保障上も重要な国と認識。当初は国軍と距離を置いていたが、今年になって関係緊密化を加速させている。ロシアにとってミャンマーは兵器輸出の顧客で、クーデター直後から一貫して国軍を支持している。

 日本の立場はどっちつかずだ。日本としてやれることはまだあるのに、十分な役割を果たせておらず残念だ。紛争に巻き込まれた避難民を救う人道支援は喫緊の課題となっている。政府は支援活動の受け入れが不十分な国軍に対し、譲歩を促すような働き掛けをすべきだ。紛争の根本的解決には相当な時間がかかる。長期的視野をもって、あらゆる関係者との関係構築と対話が必要だ。

(2023年5月20日掲載)

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