軽視しないで、男児の性被害

2023年06月01日16時00分

 ジャニーズ事務所の元所属タレントが前社長からの性被害を公表したことで、「男児への性暴力」が注目されている。繰り返されてきたとされる加害に、衝撃を覚えた人も多いだろう。これまで子どもへの性暴力で500人以上の加害者を治療し、『子どもへの性暴力は防げる!』を出版した精神科医の福井裕輝氏に、男児への性暴力の実態と被害を減らすための対策について話を聞いた。

 ※本記事では、18歳未満を男児、女児、子どもと表現しています。


子どもの性被害=女児は誤り

 ―男児の被害は珍しくないのでしょうか?

 性暴力、特に子どもへの性暴力は発覚しないことも多いので、正確な統計を取ることは難しいのですが、海外では男児・女児の被害は同数程度だといわれています。被害を誰にも打ち明けられない場合の他、被害に遭ったと認識していない場合や、被害の記憶が意識レベルにない(封印されている)場合、男児では特に周囲に話しても「単なるいたずら」と認識されてしまう場合などがあり、被害はほとんど表に出ていないとみています。

 ―どのような加害者が多いのでしょう。

 加害者は男性・女性どちらの場合もありますが、一般に男性加害者はある特定の子どもというより、不特定多数を対象とする傾向がみられます。被害者との関係は、街中で声を掛ける、SNSなどで知り合うといった面識のないケースの一方、教員やスポーツ指導者など何らかの関係性があり立場を利用したケース、親からの性的虐待もあります。関係性がある場合は特に、子ども側から被害を訴えづらい状況と言えます。

 ―近年の傾向はありますか?

 児童ポルノに関連した事例が広がっていると感じます。例えば、スポーツや野外活動などで少年たちの参加を募り、実際にキャンプや合宿をして、入浴の様子を撮影したり、布団の中でわいせつ行為を行いそれを撮影したりする場合があります。児童ポルノというと女児がイメージされやすいですが、男児の被害も少なくありません(※1)。まずは、男児が被害に遭う可能性について広く知られる必要があるでしょう。
 ※1 参考データ(警察庁):2022年に特定された児童ポルノ被害児童1487人(総数)のうち男206人、女1281人


社会的な生活を送ることが困難になる場合も

 -被害を受けた子どもの心理的な影響が心配です。

 性被害は長期にわたってさまざまな病気の発症の原因となり得ます。小児ではまだ自我が形成されておらず、何をされているのか自分で意味が分からないことも多いので、被害と発症の時期に間隔が空く場合があります。一般には、思春期に発症することが多くなります。例えば、不安神経症やパニック障害などの神経症全般、手洗いがやめられないなどの強迫性障害です。さらに、うつ病、統合失調症などの精神疾患を来したり、パーソナリティ障害になったりすることもあります。

 これらは男女共通ですが、男児で特に注意が必要なことがあります。

 -それは何でしょうか。

 被害が男児の場合、その後に自身が加害者になるケースもみられる点です。性的発育に悪影響を及ぼしていると考えられ、自慰行為が始まる時期が早くなったり、性的な関心が異常に強くなったりして、若い頃から下着窃盗などを起こすパターンがあります。海外では、性被害を受けた子どもの心理的ケアはもとより、将来的に加害者に移行しないためのプログラムまで確立され、実施されています。

 ―日本の被害者支援の現状はどうでしょうか。

 相談窓口として、「性犯罪・性暴力被害者のためのワンストップ支援センター」(以下、ワンストップ支援センター)が各都道府県に設けられています。ただし、被害者に対応する医療機関や被害者支援を専門とする心理士は全国的に十分に整備されているとは言えず、特に男性(男児)の被害への対応経験はまだ少ないとみられます。地域差に配慮した全国的な対策が必要とされています。


今求められる被害を減らすための対策

 ―被害に気付くためのポイントは何でしょうか。

 学校では「生命(いのち)の安全教育」が推進されるようになりましたが、家庭でも性教育などを通じて、日ごろから子どもが打ち明けやすい雰囲気をつくっておくことは大切です。「報告しても何も悪いことは起こらない」ことを強調して、子どもがそれを理解しておくことが必要になります。性教育に限らず、普段のコミュニケーションを密にしておくことも有効でしょう。

 ―もしも被害を打ち明けられたら?

 子どもには「何も悪くない」ことを伝え、安心して話せる環境をつくることが大切です。ただし、二次被害の危険があるため、「なぜそうしたのか」などの責めるような口調や、無理に聞き過ぎることは控えてください。男児では、周囲に打ち明けたら笑われたというケースも少なくありません。男性(男児)に対する性暴力の認識を変えていくことが望まれます。被害に遭った場合には、ワンストップ支援センターや警察(※2)などに連絡しますが(※3)、証拠保全などのため早めの受診等が必要とされることにも留意してください。
 ※2 緊急を要する場合の110 番の他、各都道府県警察の「性犯罪被害相談電話(#8103〈ハートさん〉)」や子ども相談専用の「少年相談窓口」もあります。
 ※3 性感染症の検査費用やカウンセリング費用など、医療費等の公費負担制度を活用できる場合があります。警察またはワンストップ支援センターにお問い合わせください。

 ―子どもへの性暴力を減らしていくためには?

 啓発などによって、全世代が性暴力の基礎知識を持ち、相談しやすい社会にしていくことが重要です。さらに、加害者を治療につなげていくことも不可欠で、そのためには性暴力が起こったときの厳正な対処が必要になります。

 また、現在導入が検討されている日本版DBS(性犯罪歴のある人が保育・教育現場等で働くことを制限する仕組み)では、民間機関やボランティアなども含めて子どもを取り巻く環境が網羅されるような対策が求められます。最近ではジャニーズ事務所の性加害問題を機に、児童虐待防止法の改正も議論され始めました。

 性被害はその後の人生に甚大な影響を及ぼします。子どもへの性暴力を未然に防げるように、制度や法改正も含めて大人が子どもを守る取り組みを推進していくことが大切でしょう。

 福井 裕輝(ふくい・ひろき) 性障害専門医療センター(SOMEC)代表理事・精神科医・医学博士(京都大学)。加害や再犯を防ぐため性嗜好障害などの治療に取り組み、犯罪者の精神鑑定も行う。著書に、子どもへの性的嗜好から加害の傾向・対策まで解説した『子どもへの性暴力は防げる!』(時事通信社)の他、『ストーカー病』(光文社)など。

加害者治療の精神科医が教える「子どもへの性暴力」を防ぐ方法

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