東京・豊洲市場(江東区)で7月から、東日本大震災で被災した岩手と宮城、福島の3県産の鮮魚や水産加工品「三陸・常磐物」を一般向けに販売する。同市場で高級すし店向けなどの魚を扱う水産仲卸業者の団体が、一般客を対象とする販売店を新設。消費拡大をアピールし、被災地の水産業復興を応援する。(時事通信水産部 岡畠俊典)
豊洲市場の「魚がし横丁」で
被災地支援に取り組むのは、豊洲市場の水産仲卸約460業者で構成する東京魚市場卸協同組合(東卸、早山豊理事長)。岩手、宮城、福島の3県から同市場の卸業者に入荷した旬の魚や水産加工品などを、仲卸が買い付け、一般向けに販売する。鮮魚は、切り身や刺し身用さくなどに加工して店頭に並べる。
販売店は、一般客が入場できるエリアで、調理道具店や卵焼き店などが並ぶ「魚がし横丁」の空き店舗を活用。来年2月まで設置する。7月中旬のオープン以降、当面は土曜を中心に毎月2回程度開店する予定。「三陸常磐 夢市楽座」の名称で、3県の水産物の魅力をPRする展示ブースも設ける。
早山理事長は「仲卸がプロの目利きで選んだ三陸・常磐物を、多くの消費者に食べてもらいたい」と期待を込める。
豊洲市場では通常、マグロなどの水産物が業者間で取引される卸売場や仲卸売場に一般客は入ることができず、魚も買えない。東卸はこれまで、地元住民を対象に仲卸売場で買い物ができるイベントを開いたことはあるが、誰でも水産物を購入できる取り組みは初めてという。
築地時代から長年培われたブランド
日本でも有数の好漁場で取れる三陸・常磐物。産地では、震災前からヒラメやカレイ、ウニ、スズキ、アンコウなどさまざまな魚介類が水揚げされ、高級すしネタにも使われてきた。豊洲市場のベテラン仲卸は「もともと品質の良い魚が多く、築地市場時代から長年培われてきたブランドの一つ」と強調する。
しかし、岩手、宮城、福島3県の主要魚市場の水揚げ量は、震災が起きた2011年に大きく減少。その後、震災前の水準に戻っていない。特に福島県産は、東京電力福島第1原発事故に伴う風評に悩まされてきた。今夏ごろまでに原発処理水の海洋放出の開始も予定されており、漁業関係者の間ではさらなる影響を懸念する声が少なくない。
こうした中、早山理事長は「水産物そのものを見て評価する仲卸の目利きに、実体のない風評は介入させない。豊洲で三陸・常磐産の良さや価値の高さをアピールすることで、産地の水揚げ回復や風評被害の解消にもつながれば」と話す。
今回の取り組みについて、東卸は昨年から検討、準備を進めてきた。「われわれが豊洲市場で積極的に被災地の水産物を受け入れ、発信していくことが、漁業者へのエールや励みになってほしい」(早山理事長)との思いがある。
豊洲の仲卸は、新型コロナウイルス流行で打撃を受けた。早山理事長は「被災地を支援するとともに、魚食普及や豊洲市場の活性化も図っていきたい」と意気込みを語った。