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国内産「薬膳サーモン」じわり人気 機能性もアピール【大漁!水産部長の魚トピックス】

2023年05月15日14時30分

 すしネタなどで、今やマグロをしのぐほどの人気があるサーモン。主流はノルウェーやチリ産の養殖魚だが、近年は日本でも多くの地域で「ご当地サーモン」が養殖され、流通している。国産が少しずつ台頭する中、餌にこだわって養殖された「薬膳サーモン」が登場。人気がじわりと上昇している。(時事通信水産部長 川本大吾)

尿酸値の上昇を抑える成分

 薬膳サーモンをプロデュースしているのは、すし職人で水産会社「BKTC」(東京)社長の千津井由貴さん。2020年夏、すし店の店長だった千津井さんは、コロナ禍で客足が遠のいていた中で、健康志向に着目した「薬膳ずし」を開発した。にぎりずしのネタの上に、五香紛と呼ばれる混合調味料のペーストや、松の実と刻んだ大葉をオリーブオイルで混ぜたソースなどを乗せて提供してきた。

 その頃から千津井さんは、薬膳食材を養殖魚の餌に使った「薬膳魚」を生産する計画を進めており、それが「薬膳サーモン」となって実現した。北海道や静岡県の養殖業者の協力を得ながら、ミカンの皮を乾燥させた陳皮や松の実など数種類の薬膳食材を餌に使ってサーモンを生産。昨年秋から出荷を開始した。

 薬膳サーモンには、尿酸値の上昇を抑える働きが認められるアンセリンが含まれていることが分かった。消費者庁のガイドラインに沿って、機能性表示食品として届け出を行った。生鮮水産物ではこれまで、カンパチやブリなどは機能性表示食品として届け出がされているが、サーモンでは初めてという。

レストランでメニューに採用

 北海道で昨年から生産が始まった薬膳サーモンに対し、札幌の中央卸売市場の卸会社は当初から大きな期待を抱いていた。卸の「丸水札幌中央水産」は、まずは市場内で仲卸などに薬膳サーモンを販売。その後、市内のホテルのレストランで朝食のメニューに採用されるなど、次第に人気は上昇していった。

 丸水札幌水産の高佐佳希・近海チーム部長は「味だけでなく、今後は体に良い点も強調できるため、より多くの飲食店や鮮魚店などに売り込んでいきたい」と話す。魚のプロたちからの支持も集め、今年7月からは大丸札幌店でも刺し身パックがお目見えする予定という。

 東京でも薬膳サーモンはじわりと浸透している。銀座にある高級レストランのコースメニューで、キノコなどと合わせた焼き物がメインディッシュとして採用されたという。有名シェフのお眼鏡にもかなった食材として、今後も扱っていきたいという声が届いている。

 東京・大田市場で水産仲卸を経営する傍ら、水産会社「エフ・エフ・フィッシャーズ」を運営する小田剛社長も、薬膳サーモンを積極的に売り込んでいる。同社を通じて食材を仕入れる港区の薬膳レストランでは、今夏から薬膳サーモンを鍋料理としてメニュー化する予定。この店の関係者は「上品な脂の乗りで、機能性も魅力」と手応えを感じている。

薬膳の餌提供のオファーも

 小田社長は「このところ国産よりも安く流通していたノルウェーサーモンの価格が(ウクライナ情勢などの影響で)上昇したため、国産が売り込みやすい環境になっている」と説明。日本の魚の需要が高いバンコクへの輸出も手掛ける準備を進めている。

 薬膳サーモンは今後、鹿児島県でも養殖する方向で千津井社長と養殖業者が調整している。さらに、千津井社長には、鳥取県でご当地サーモンを養殖する業者から、薬膳の餌を提供してほしいといったオファーも届いているといい、薬膳サーモンの評判は日本の各地に広がりつつある。

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