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田中正義、「感謝と覚悟」で7年目の開花 新天地日本ハムで守護神に

2023年05月12日07時30分

 かつてプロ野球ドラフト会議の「主役」だった右腕が、新天地で潜在能力を開花させつつある。プロ7年目、日本ハムの田中正義投手(28)だ。フリーエージェント(FA)でソフトバンクに移籍した近藤健介外野手の人的補償で日本ハムに加入。5月12日時点で14試合に登板し、1勝1敗4セーブ、6ホールドで防御率2.08。プロ初セーブに、待望のプロ初勝利もマークした。2016年のドラフト会議で5球団が競合の末に入団したソフトバンクでは度重なる故障に見舞われて苦悩の日々を過ごしたが、一転、今やチームの守護神として堂々の投球を見せている。(時事通信札幌支社編集部 嶋岡蒼)

初のお立ち台、「最高の景色」と涙

 4月26日、本拠地エスコンフィールド北海道でのオリックス戦。3点リードの九回にマウンドへ。「みんなでつないで九回まできた。何とか勝っている状態で試合を終わらせよう」。150キロを超える球威抜群のストレートを軸にフォークを織り交ぜ、3人で終わらせてプロ初セーブ。プロ入り初のお立ち台で、最初は笑みを浮かべたものの、苦しんだソフトバンク時代の記憶が頭に浮かび、涙がこぼれた。「すごくうれしい。本当に最高の景色。これから何十回、何百回と見られるように頑張りたい」。言葉に実感がこもった。

 プロ初勝利は5月7日の楽天戦。同点の九回に登板し、最速154キロの力強い速球を武器に3者連続三振に仕留めた。チームに流れを呼び込み、その裏サヨナラ勝ち。再びお立ち台に上がり、「時間はすごくかかってしまったけど、こういう景色が見られてうれしい」。苦節6年を経て、立て続けに初セーブと初勝利。「順調にきていて、良いことが続き過ぎて怖さもある」。故障で投げられないもどかしさ、周囲の期待によるプレッシャー…。過去に経験した苦難を知る投手ならではの思いも口にした。

中継ぎでスタート、信頼勝ち取る

 キャンプから先発ローテーションを狙って調整してきたが、開幕は中継ぎでスタート。与えられた役割で安定した投球を見せていた。すると、抑えを務めていた石川直也投手が故障で登録抹消に。それに伴い、九回を任されることになった。4月21日の楽天戦では2失点して敗戦投手となったが、その後は現在まで登板7試合連続無失点。試合を締めくくる重要な仕事に、「責任がある。シーズン最後まで全うしたいという思いがある」とやりがいを感じている。

 「こうやってずっと抑えてくれたら、『田中君が打たれて負けたら仕方ない』と言えるくらいの選手になれる」と新庄剛志監督。日に日に信頼感が増している様子だ。大役に抜てきした建山義紀投手コーチも「勝つチャンスがあれば、(交代を)迷いなく田中正義と言える」。実力を結果で示し続け、首脳陣の信頼を勝ち取った。

若手のNPB選抜をねじ伏せて

 創価大4年だった2016年、秋のドラフト会議で最大の目玉となった。長い手足を使ったダイナミックな投球フォームで、最速156キロを誇った剛腕。4年時は右肩の故障があったものの、日本ハムを含む5球団が1位で指名し、ソフトバンクが交渉権を獲得。鳴り物入りで入団した。

 大学時代、全国的にその名を知られるようになった試合がある。15年に大学日本代表として臨んだNPB選抜との壮行試合だ。先発した浜口遥大投手(神奈川大、現DeNA)の後を受けて三回から登板。プロの若手で構成したNPB選抜を自慢の速球でねじ伏せた。三回途中から7者連続三振。山川穂高(西武)や岡本和真(巨人)らも抑え、4回を投げて無安打で8奪三振。この力投が大きなインパクトを与えた。

意欲に満ちて、突然の転機

 期待を背負って17年に入団したソフトバンクでは、壁にぶつかった。故障に泣き、「けがをしていないシーズンの方が少ない」。ルーキーイヤーは登板なし。初登板した18年は10試合、19年は1試合、20年は再び登板なしに終わった。21年に18試合に投げ、22年は5試合。それでも、契約更改した際は手応えを口にしていた。「自分の足でしっかり歩いているような感じが、ようやく出てきた。着実に課題を詰めることができれば、来年はしっかりやれるんじゃないかと思っている」。鳴かず飛ばずだった6年間を見守ってくれた球団への感謝の気持ちもあり、「来年も野球をさせてもらえる。その期待に応えたいし、応える自信もある」と23年シーズンに向け、意欲に満ちていた。

 転機は突然訪れた。1月、近藤が日本ハムからソフトバンクへFA移籍。日本ハムは人的補償の選手に、16年のドラフトで競合の1位指名をした右腕を選んだ。最初に知らせを聞いた時は複雑な思いもあったというが、「いいパフォーマンスをたくさんの人に見てもらう、ということに変わりはない」。思わぬ移籍が好転のきっかけとなった。

「毎日グラウンドに来たい」

 今季、自信を持って速球を投げ込み、マウンドで堂々としている。昨季までは不安を抱きながら登板していた時期もあったというが、「自分のベストを尽くすことに集中して、今はできている」。技術面でも新たに取り組んでいることが多く、名セットアッパーのベテラン宮西尚生投手にも助言をもらった。登板数を重ねながら、苦しめられた故障には神経をとがらす。「そこは本当に気をつけたい。自分の体と向き合って、細心の注意を払ってやりたい」

 挫折感を味わってきたプロ生活も、ようやく風向きが変わった。大学時代の姿は「過去は、もう過去」だという。「九回を任せていただいている。そこに感謝して、覚悟を決めて毎日、グラウンドに来たい」。きっぱりと、そう言い切る。

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