「電気自動車(EV)の充電インフラって実際のところどうなの?」。3月まで自動車業界の取材担当だった私は、知人や家族からこうした質問を受けることがある。取材先で聞く話やデータを踏まえれば、充電インフラの充実は確かに普及に向けた課題の一つだ。EVには何度か試乗しているが、自分で充電をしたことはなく、その利便性も分かった気になっていただけ。そこで私は思い立ち、「EVのある週末」を体験し、日常の使い勝手を検証した。(時事通信経済部 工藤玲)
EV、新車販売の2%に
私は地方勤務時に使っていた車を手放してから、マイカーなしの東京暮らしだ。それでも、いつかまた車の所有を検討するころには、EVも選択肢に入ってくると感じている。中国や欧州に比べ、ペースは鈍いものの、日本でもEVの販売は伸びている。乗用車の新車販売に占めるEV比率は、2022年度に2.1%(約7万7000台)となり、21年度の0.7%(約2万5000台)から大幅に伸びた。わずか2%とも言えるが、世界のEV化の波は着実に日本にも押し寄せている。
取材を通じて得たEV充電に関する予備知識を確かめるため、3月のとある金曜日に日産自動車からEV「リーフ」の広報車を3泊4日の日程で借り、「EVのある週末」をスタートした。もともと入っていた予定との兼ね合いで乗車時間が限られる中、さまざまな充電サービスを体験しようと、必要な回数以上に充電しているのはご愛敬(あいきょう)だ。
「88%」、焦り感じず
金曜日の午後4時半ごろ、横浜市にある日産本社でフル充電されたリーフを借り、あいにくの雨の中を出発した。充電体験をできるだけたくさんしたい気持ちも相まって、雨で蒸し暑く感じれば遠慮なくエアコンのスイッチを入れ、スマートフォンも充電しながら走行した。大渋滞に巻き込まれ、停車と発進を繰り返すいかにもバッテリーが消耗しそうな運転に。渋滞を迂回(うかい)しながら37キロ走り自宅マンションに到着すると、フル充電時は「397キロ」だった航続可能距離が「330キロ」まで短くなっていた。航続可能距離は実際に走行した距離よりも30キロ分多く減ったが、「まだまだ走れるな」という心情だった。バッテリー残量は、帰宅時でも「88%」と表示されていた。この数字が思った以上に減っておらず、焦りは一切感じなかった。
2日目の土曜日。向かう先は富士山麓の日帰り温泉施設。ここでは施設利用者が駐車場にある、低出力で充電速度が緩やかな普通充電器を無料で使用できる。これが滞在先の施設で充電を行う「目的地充電」。ホテルに併設されたこの施設のように、数時間以上の利用者の滞在が見込まれる場所に向いている。
出発から順調に車を走らせ、河口湖インターチェンジ付近でバッテリー残量は50%になった。航続可能距離は173キロになったが、高速道路では充電スポットの看板がよく目に付き、目的地までの距離を考えれば「まだ大丈夫」という安心感が強かった。午前11時半ごろ到着すると残量は42%、航続可能距離は158キロになっていた。
いよいよ初めての充電。ここでは充電料金が掛からないものの、利用する前に施設スタッフに声を掛け、充電プラグの収納ホルダーを解錠してもらう必要があった。充電の操作は簡単で、充電プラグを差し込むだけであっさり充電を開始することができた。数時間以上の滞在を想定した3キロワットの低速充電のため、最低3時間は充電する計画だったが、予定が後ろ倒しとなり実際は2時間弱に縮小した。
施設から車に戻って充電プラグを外すと、バッテリー残量は42%から51%までしか復活しておらず、思わず「えっ」と声が漏れてしまった。計算してみれば驚くことは何もない。乗っていたリーフに搭載された60キロワット時のバッテリーを、3キロワットの充電器で100%充電させるには20時間かかるため、2時間では約10%分の充電が妥当だ。
タイムリミット30分で急速充電
バッテリーが51%の状態で帰途に就くのは、少し不安な気持ちだった。ガソリン車では給油ランプが点灯するまであまり気にしなかったが、慣れないEVでは40~50%くらいの残量でも気分は落ち着かない。帰りは高速道路に入ってから最初のサービスエリアで急速充電スポットがあることが分かって、早めに充電を済ませることにした。移動途中で行う「経路充電」に当たり、何よりもスピードが重視される。ただ友人との待ち合わせ時間が迫っており、30分程度がタイムリミットだった。
充電する車用に4台分の駐車スペースが確保されているものの、急速充電器は2台。到着した時は幸いにも、一つ空いておりスムーズに充電を開始できた。
もし二つとも使われていて、待っている時間的余裕がない場合は、次のサービスエリアを目指すか、予定をずらす必要があったかもしれない。NEXCO東日本などNEXCO3社とeモビリティーパワー(東京都港区)は3月29日、25年度までに急速充電器を約1100口まで増やす見通しを発表。22年度末時点の511口と比べ2倍以上になる。今回利用したサービスエリアの充電器も23年度に増設される計画だ。
急速充電の時間は30分。トイレや昼食を済ませているうちに思ったより早く時間は過ぎていった。その間アプリを使って充電状況を確認していると、面白いようにバッテリーの残量が復活していく。さらに、バッテリーを高負荷から守るため、充電が70%前後まで進むとスピードが落ちるという、急速充電ならではの仕組みも目に見えて分かった。49%から75%までバッテリー残量が戻り、航続可能距離も292キロになったところで乗車し、安心して帰路に就いた。
充電器の予約サービスにも挑戦
翌日曜日は、買い物がてら充電できる商業施設をアプリで検索。いつも使っている地図アプリにEV充電ができる場所が表示される。この日は、事前に充電器を予約すると、充電スポットを1時間取り置くことができるプラゴ(東京都品川区)のサービスを体験してみることにした。到着予定の30分ほど前に、プラゴのアプリで空き状況を確認した上で急速充電器を予約。商業施設周辺は渋滞していて1時間以内にたどり着けるか肝を冷やしたが、無事駐車場内に入ることができた。前日から充電しておらず、バッテリーは35%だった。
予約した充電スペースには、他の人が割り込まないよう「スマートバリア」が設置されている。到着してアプリを操作するとバリアーが解除され、駐車できるようになる仕組みだ。急速充電は30分たつと自動で停止する。車を駐車できるのは1時間で、それを超えれば充電器のない通常の駐車スペースに移動させる必要がある。充電で獲得できる商業施設のクーポンを活用し、カフェでゆっくり過ごしていると、車を動かす時間が迫ってきた。少し面倒に感じたが61%まで充電できた車を移動させ、買い物を楽しんでから施設を出た。
カフェ、公道でも充電
買い物の次は、充電器が設置された上、食事もできる住宅街のカフェを訪問。充電インフラ事業などを手掛けるエネチェンジの充電器が設置されており、同社のアプリを使ってさっそく充電を開始。直前まで商業施設の急速充電器で充電していたので、4キロワットの普通充電で継ぎ足し充電ができればという気持ちだった。エネチェンジは、自宅マンション向けの「基礎充電」と、宿泊施設やレジャー施設などでの「目的地充電」に特化し、事業を展開している。いずれも長時間の滞在が見込まれるため普通充電器の設置を支援し、充電サービスのシェア拡大を目指している。
カフェのオーナー岡本純一さんによると、近所にマンションはたくさんあるが、マンションでの充電器の設置は住民同士の合意形成が難しいのではと考え、近所の人も気軽に使えるようカフェに導入したという。岡本さんはカフェと隣接するコインランドリーも経営しており、「行った先々に、充電器があるのが大事だ。ランドリーもあり、食事している間に洗濯も充電もできる」と話す。焼きたてのクロワッサンとパスタ、コーヒーを楽しんでいた約1時間のうちに、充電量は56%から64%へと伸びた。
帰宅前に寄り道をしたのは、代官山付近の路上パーキングに併設された急速充電器。カフェから13キロ走行し、バッテリー残量60%の状態で到着。公道での充電器の運用は、eモビリティーパワーが横浜市や東京都と協定を結び、実証実験として行っている。東京都では、代官山付近と芝公園付近の2カ所でパーキング・チケット発給型の路上パーキングに50キロワットの急速充電器が設置された。3月下旬、運用開始を前に芝公園付近を視察した小池百合子知事は、「EVを身近にしていくためにも環境の整備を一つずつ行っていきたい。駐車している間にあちこち見て回ることも可能だ」と期待を寄せた。
この日は3回の充電を体験し、バッテリー残量は89%。さらに翌朝の返却を前に、夜間充電を試した。徒歩10分圏内の駐車場で普通充電器につなぎ、100%になるのを楽しみに翌朝を迎えたが、なぜか充電に失敗。バッテリー残量は3%しか増えていなかった。原因を解明できないまま、4日間の体験を終えた。
充電サービス多種多様に
EV充電で気になるのは充電料金だ。一般に普通充電と比べ急速充電の方が料金が高く、施設によっても設定額が異なるため、ガソリン代との単純比較は難しい。ただ今回の総走行距離383キロを、1リットル当たり15キロ走る燃費のガソリン車で走った場合と比較すると、実際に掛かった充電費用の方が1000円ほど安くなる計算になった。無料で充電ができる施設もあれば、自宅で夜間に充電できればより割安にもなり、充電の仕方次第ではお得に乗ることができそうだ。
体験を通じて航続可能距離への不安を感じることはほとんどなかったが、充電時間の過ごし方は悩ましい。特に急速充電で車を止めている30分~1時間程度で、車から遠く離れずにできることを考えると、コーヒー休憩や読書くらいしかアイデアが湧かなかった。EVはガソリン車とは使い勝手が異なり、それぞれの生活スタイルや住居環境に合わせて工夫する必要があると感じた。
またEV化の進展とともに充電器の数も増やさないと利便性は高まらないと痛感した。政府は30年までに、公共の急速充電器3万基を含み、計15万基の充電器を整備する目標を掲げている。経済産業省は充電インフラ整備の補助に、22年度は約65億円、23年度は約175億円の予算措置を講じた。充電インフラ事業が、EV化の潮流に合わせて拡充され、多種多様なサービスの中から利用シーン別に使い勝手の良いサービスを選べるようになる未来を期待したい。
(2023年4月26日掲載)
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