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志望動機をChatGPTに書かせる?レポートで「ガンガン使え」◆大学教育どう変わる【news深掘り】

2023年04月18日10時00分

 滑らかな日本語を使い、人が書いたと見紛うほどの文章で質問に答える対話型人工知能(AI)の「ChatGPT」が各方面に大きな反響を呼んでいる。対応を迫られる分野の一つに教育が挙げられ、文部科学省は小・中学校などでの使用の規制や活用について指針をまとめる方針だ。では、大学では、この先端技術とどのように向き合うべきなのだろう。時代を先取りするような取り組みを行っている2人に話を聞いた。(時事通信社会部 渡辺恒平)

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 レポート課題で「使用可」 

  ChatGPTが世に登場した翌月の2022年12月、筑波大の岡瑞起准教授は学生約70人にChatGPT使用を認める形式で課題を出した。岡准教授は「生命とは何か」を探求し、終わりない進化の可能性を模索する「人工生命」の研究者だ。「人工生命とAIは兄弟のような関係」と説明する。 

 自由な使用を認めたわけではない。どういう質問をして、どんな答えが返ってきたかを明記し、それに対する自分の意見を述べることを条件とした。 岡准教授は「クリティカルシンキング(批判的思考)というか、自分の思考を深めるツールとして使ってもらいたかった」と意図を説明した。ChatGPTが触れていない論点を考えたり、自分が思いつかなかった観点を見つけたりするのに役立つーと考えたという。 

 だが、ふたを開けてみれば、条件に合った回答をした学生は1人だけ。その1人のレポートも、期待したものとは程遠い内容で、「ChatGPTの回答はこうであり、自分の意見とだいたい同じだ」という、狙いと外れた代物だった。複数の学生が同じテーマについて似たような書きぶりでまとめたレポートが見つかり、「確証はないが、明記せずにChatGPTを使ったのでは、と感じた」と話す。 

重要なことは、どう使うか 

 初の試みを「もう、全然ダメ」と振り返った岡准教授だが、大学教育でのChatGPT使用に否定的になったかというと、そのようなことはない。「ChatGPTを使うことで考えが深まり、素晴らしい論文やレポートが書けるなら、それはそれでよい」。 

 優れたレポートや論文を書くために必要なこととして、➀自分が何を考え、何を考えていないかを俯瞰(ふかん)的に把握し、自分自身に批判的な視点を持つ➁反論を想定するーなどを挙げた上で、「学生は、まず自分の意見をちゃんと書く。その後で、自身と異なる視点、考えていない視点があるかどうかをChatGPTに尋ねるなどの使い方がある。これまでは専門家に聞くしかなかったが、常に何を聞いてもよい存在が身近にあるのは、すごいこと」と話す。 

 他方、教える側にも気を付けるべきことがあるという。「自分の意見を練り上げるとか、思考を深めるためにどう使ったらいいのか。学生にChatGPTの使い方を教えないと、課題をペタッとコピペして終わりになってしまう」。初の試みでの失敗から気付いたことだ。「教える側もChatGPTには、何ができて何ができないのか、どこに限界があるのかを理解することが必須」と指摘した上で、「議論相手としてChatGPTを利用するにはどうしたらよいか、学生にその方法を伝えることができれば、きっと面白いことが起きる」と強調した。 

「ChatGPTで志望動機を書いてみよう」 

  北海道大で大学院生や博士号取得者の就職を支援している先端人材育成センターは2023年3月、「ChatGPTで志望動機を書いてみよう」と銘打ったイベントを行った。 志望動機をAIに書かせるとは、なんとチャレンジングなー。そう思って取材してみると、センター長の吉原拓也教授は「実はChatGPTで書かせるのはあまり良くないよ、ということを伝えるべく企画したイベントです。当然、志望動機は自分で書かないといけません」と話した。 

  吉原センター長によると、試しにChatGPTにエントリーシートを書かせてみたところ、書き方を学ぶ前の大学院生らが書く程度のレベルに達したものができ上がったという。「でも、私たちが指導した後のものには全然及ばない」。ポイントは具体性の有無で、ChatGPTが書くエントリーシートには「誰にでも書けそうな事柄しか書かれていなかった」そうだ。 

  エントリーシートの書き方指導では、こういう書き方は良くない、こう書くべきだと批評する場面があるが、「学生本人が書いてきたものを遠慮なく批判するのは難しい。そんなことをしたら、次から学生は来なくなってしまう」。 そこで、学生にChatGPTでエントリーシートを作らせ、その内容について、どこが悪いかを議論するスタイルを取り入れたーというわけだ。 

 手応えは良好で、「ChatGPTが書いたエントリーシートならば、みんなで批判しても誰も傷つかない。高い教育効果があった」と話す。イベントを通じ、ChatGPTが留学生の指導にも有効だということに気付いたという。「エントリーシートで使う日本語表現は、日常使う表現と異なる。留学生が文法や論理構成を学ぶのには使えると感じた」と語った。 

「ガンガン使って」「『使わせない』は時流に反す」 

 取材した筑波大の岡准教授、北海道大の吉原センター長の2人は、教育現場でのChatGPT使用の先駆け的な人物だ。使用に前向きな意見が聞かれたが、「学生が自分の頭で考えなくなる」といった懸念については、どう考えているのだろう。 

 岡准教授は「学生はまず、このテクノロジーが誰でも使えるということを理解すべきだ。ChatGPTが出した答えをコピーしたら、みんなと同じ答えになる」と指摘し、「大学の学びは、答えのないところに課題を見つけ、それに対する解決策を見つけることにある。何か正解があるものとは異なり、どうやって独自性を出せるかが重要」と語った。その観点でChatGPTを活用すれば、「自分の考えがAIを超えられていないことにも気付ける」という。 

 「自分一人で考えを深めるのは大変。従来は所属研究室などで議論をしながらアイデアを磨いてきたが、ChatGPTの登場で、そういうことがやりやすくなった。学生にはガンガン使ってほしい」と呼び掛けた。 

 吉原センター長は「教員間では、どちらかというと、どう使わせないかという議論になりがちだ」と前置きし、「世の中の流れに反しており、どう使っていくかを学ぶべきだ」と強調した。自身も、春からの講義の初回あいさつは、ChatGPTに書かせてみるつもりだという。あいさつを通じ、安直な使い方をすれば、教員だってChatGPTに取って代わられてしまう時代が来たんだぞ、ということを示し、学生の学びにつなげようという狙いだ。

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