会員限定記事会員限定記事

EXILE・橘ケンチ、ダンスに懸けた熱い青春 小説「パーマネント・ブルー」で作家デビュー【インタビュー】

2023年04月29日12時00分

 人気ダンス&ボーカルグループEXILE(エグザイル)のパフォーマー・橘ケンチがダンスに没頭し、夢を追った青春時代を主人公である「賢太」に託して振り返った自伝的小説「パーマネント・ブルー」(文芸春秋)で作家デビューを飾った。ダンスに出会い、さまざまな人と交流しながら踊り続けた10代から20代の実体験にフィクションを交えた作品だ。(時事通信大阪支社 小澤一郎)

【インタビュー】ファンとの微妙な距離感、赤裸々に NMB48・安部若菜が小説「アイドル失格」で描いたこと

執筆は孤独な闘い

 米軍基地のある神奈川県横須賀市に住む主人公は、高校時代に出会ったダンスというアメリカの文化に憧れる。大学進学後は、将来への不安にさらされながらも、ダンス漬けの日々を送り続け、次第に認められていく―。

 そんな作品を2019年から3年かけて執筆した。ただ、編集者とタッグを組むまでの2年間は「一人で悶々(もんもん)としながら書いていた」という。作品がようやく書店に並び、「ライブは仲間やスタッフとの共同作業。小説では、最初は孤独な闘いだったので、読者の方に読んでもらえるまでにたどりついたのは、めちゃくちゃうれしい」と感慨深げな表情を浮かべる。

 読者からの反応も続々届いた。「小説は一対一で向き合うものなので、自分の人生と照らし合わせながら体感してくれた方も多かったようです」

 もともとのファンにとってもケンチが折々にメディアに話してきたことの謎解きにもなり、「いろんなことがつながりました」という喜びの声もあった。賢太やケンチと同じように就職活動をせずにやりたいことを続けて成功したという読者からは、「青春時代の感覚に戻りました」との共感も。学生時代のダンス仲間も、「自叙伝じゃん」と懐かしんでくれたという。

臨場感あふれる描写

「滑らかな振動が肌を伝い、時折強い音が毛穴を叩く。その瞬間、腕先、足先からビートが体内に入り込んでくる。生温かい血液に音の成分が溶け込み、全身に一気に流れ始める。共鳴した筋肉が、否応なく俺を駆り立てる」(8ページ)、「俺たち4人は強く共鳴し合っていた。肉体を酷使することで、言葉を通して会話をするより遥かに解像度の高いコミュニケーションが取れている感覚が生まれていた」(316ページ)―体験者ならではの臨場感にあふれた描写が大きな読みどころ。

 ダンス場面では、自身の身体感覚を読者に伝えたかった。「自分の体の表面も内部の血液の流れも、こういうふうに表現していくと腕の筋肉がほとばしって見えるのかなとか、実際に踊りながら、遊びながら書きました」と振り返る。

 自分の記憶の引き出しに残っていた過去の感覚を取り出し、解凍していくかのように言葉をつむいでいく。そんな作業を繰り返していたら、「自分の中で『ポン』と抜けた感覚があって、『これは自分にしか書けないわ』と思った」。そんな感覚を持てたことが自信になり、それからはスムーズに書けた。

「EXILEファンは、メンバーの人生や生きざまを真剣に見詰めながら応援してくださる」とケンチ。そんなファンには、「(小説を読んでから)ライブに来てくださったら、『パーマネント・ブルー』の賢太はこういう大人になっていると、頭の中で想像しながら楽しんでいただけるはず」と語る。

 かつての自分と同じように、夢を持ちながら試行錯誤を続けている若者にも読んでもらいたい。「今の子どもたちは、EXILEや三代目J Soul Brothersがテレビの中にいて、指さして『こうなりたい』って言えるじゃないですか。僕らの時はそういう存在がなかった。ジャンルは違っても、今、壁にぶち当たっている若い人の背中を押せたら」

大学時代に没頭

 ケンチ自身がダンスに興味を持ったのは、高校3年の体育祭の時のことだ。応援団の出し物でダンスをすることになり、日本テレビ系のバラエティー番組「天才・たけしの元気が出るテレビ!!」の人気企画「ダンス甲子園」のビデオを借りて研究。アクロバチックで個性あふれるダンスが次々現れ「一瞬でときめいて、まねしたいと思った」。

 一浪後、大学に進学すると共に、ダンススクールに通った。大学の授業は卒業するのに必要なだけ出席し、あとはアルバイトをしてお金を稼ぎ、すべてをダンスに注ぎ込んだ。「アメリカの文化を感じられる音楽や立ち居振る舞い、リズムの取り方や動きを全身で感じて、没頭していった。自分の肉体を使って表現することに、びんびんに魅力を感じていました」

 学生だった1990年代末から2000年代前半、ストリートダンスにはまだ“不良的”なイメージもあった。しかし、12年に中学校の保健体育で必修化され、ダンスを取り巻く環境は大きく変わった。小学生からダンスを習う環境が整い、EXILEが所属する事務所のグループ会社が運営するスクール「EXPG STUDIO」も、ビギナー向けからプロを目指すクラスまで幅広く生徒を受け入れている。

 そんな変化を「僕が始めた頃には、今みたいな世界を想像していなかった。男は野球かサッカーという感じでしたが、今はそこにダンスも加わった」と喜ぶ。そんなケンチは、ダンスに取り組む利点として音楽を挙げる。今ではインターネット経由で、海外の最新音楽も簡単に聴けるようになったが、「子供の頃からそういう音楽やダンスに触れていると、グローバルな社会に出る時、必ず一つの武器にもなるし、人間性になっていくと思う」と指摘する。

「音を聞いて自分の体を動かし、音にうまくはまれた時、究極の快感を感じるんですよ。そういうことを子どものころから感じられるのはうらやましいですね。小さい頃からダンスをしている今の子どもが、大人になってどういう人間に成長するのか楽しみですね」と目を細めた。

◇  ◇  ◇

 橘(たちばな)ケンチ=1979年、神奈川県生まれ。07年、二代目J Soul Brothersのメンバーになり、09年、EXILEに加入した。舞台や映像作品などで、俳優としても活躍中。

(2023年4月29日掲載)

【インタビュー】脳梗塞からの帰還 “イケメン”歌手の闘病生活を支えたもの
【インタビュー】作曲家が思い描いた姿を再生 趣味は“プチ家出”? ピアニスト・牛田智大さんに聴く

インタビュー バックナンバー

新着

会員限定

ページの先頭へ
時事通信の商品・サービス ラインナップ