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ダンス大国の日本、その魅力と将来は 「Dリーグ」神田勘太朗氏に聞く

2023年04月10日15時00分

 2024年のパリ五輪で初実施されるブレイキン(ブレイクダンス)。世界屈指の実力を誇る日本勢は、メダル有力候補に挙がる。中学校の授業でダンスが必修化されて10年以上。五輪を目指す10代や20代の選手にとって、ダンスはより身近なものになっている。一般社団法人ストリートダンス協会によると、国内のダンス人口は600万人超。日本は米国やフランスに並ぶ「ダンス大国」と言える。21年には世界でも例がないダンスチームのプロリーグ「Dリーグ」が発足。性別やジャンルを超えた、華やかで厳しいバトルが繰り広げられている。そのDリーグの仕掛け人で、自身もダンサーの神田勘太朗氏にダンスの魅力や将来構想を聞いた。(時事通信運動部 西村卓真)

エンタメか、スポーツか

 Dリーグは現在12チームあり、1チーム8人で演技する。ブレイキンやヒップホップ、ハウスなどダンスのジャンルは問わない。各ラウンドごとに新作を披露するだけでなく、オリジナル曲も制作しなければならない。

 3シーズン目となる今年の大きな変更点は、コンテスト形式から対戦形式になったこと。半年をかけて総当たり戦を行い、勝ち点で順位を決める。勝敗は会場の審査員5人とアプリを通じた観客らの投票の計6票で決まる。

 「全チームを見て評価するよりも、どっちが好きか、どっちが勝ったかの対戦形式の方がはまった手応えを感じる。分かりやすくなったと思う」

 Dリーグは派手な衣装をまとって演技するショーとの見方ができる。一方で、高い身体能力を生かしたアクロバチックなパフォーマンスを繰り出す姿は競技性が高い。Dリーグはエンターテインメントか、あるいはスポーツか

 「見る人が決めればいいと思う。ブレイキンは五輪に採用されたから、競技でしょう。でも、どの側面で見るかはユーザーが決めればいい話。人は既存の枠組みではないものをつくると、定義付けしたくなる。でも、そこに意味はあまりなく、結局その人がどう感じるかが一番大事だと思う。Dリーグの競技性を面白いと思えば競技だし、アスリート並みに練習しているのでスポーツだと思う。いやいやストリートカルチャーでしょ、アートでしょ、遊びでしょ。どこにフォーカスするかという意味で面白いと思っている」

「魂が熱くなる」

 Dリーグに参入する各チームのオーナー企業は、サイバーエージェントやエイベックスなど、ITやエンターテインメント企業が名を連ねる。Dリーグ所属のダンサーはプロ契約を結ぶが、一部はインストラクターなどとしても活動しているという。

 「やってはいけない規約もない。でも、いずれ支援者が増えればDリーグ一本でやっていきたい子がたくさん増えるでしょうし、そうなると思う」

 初シーズンは無観客での開催を余儀なくされたが、制限が緩和された現在は、収容人数8000人超の東京ガーデンシアターがほぼ埋め尽くされる。観客は10~20代が中心で、親子で楽しむ姿も。そんなDリーグの魅力とは何か。

 「魂が熱くなるんじゃないんですか。何か分からないけど、すごいな、やばいなと。例えば怒りを表現するダンスでも、それを見て熱くなったり、パワーをもらったり、格好良いと思う人がいる。当然、怒りを感じる人もいれば悲しみや美しさがあると捉える人もいる。受け取り方は自由。その人の感性を育む可能性がダンスにはあると思う」

日本人は踊る人

 ダンスは12年から中学校の体育で必修化され、習い事や部活動としても人気が定着。気軽に動画を投稿できるインスタグラムやTikTok(ティックトック)などSNSの普及も人気を後押ししている。神田氏はダンスブームの到来を予感していたのか。

 「(必修化で)流れは来たが、それはまやかしみたいなもの。ダンス人口は増えたが、ブームとはまた別物だった。パイが増えたのは間違いないが、その受け皿(Dリーグなど)をつくらないといけない。どちらかと言えば責務でつくらないといけない感じだった。それに合わせてタイミング良く五輪(採用)が決まった。ダンスはこれからもっと市民権を得るでしょう」

 一方で、日本人は恥ずかしがり屋で内気とも言われる。そうした国民性に自己表現力が求められるダンスは向いているのだろうか。

 「日本は伝統的な踊りが各地にある。踊る人なんですよ。中にためているパワーはすごくあるはずなのに、それを表に出せない空気感がある。きっかけさえ与えれば僕は大丈夫だと思う。日本人だからシャイというわけではなく、海外でもシャイな人はたくさんいる。バイアスを取り除くのも今後の社会にとって課題だと思う」

ダンスのワールドカップ実現へ

 ブレイキンでは、昨年の世界選手権で女子のAMI(湯浅亜実)が2度目の優勝を果たし、AYUMI(福島あゆみ)が3位に入った。男子準優勝のSHIGEKIX(半井重幸)は昨年、Dリーグにゲストダンサーとして出演した。パリ五輪で活躍が期待される日本勢をどう見ているか。

 「プロリーグの立場として思うのは、(Dリーグが)五輪にも影響があるようにしていきたい。例えば米国のバスケットボール選手は五輪よりNBA(米プロ協会)だと思う。サッカーでも五輪よりワールドカップだと思う。ダンスに関しても、五輪もあるけどプロダンスリーグだというくらいにしたい」

 19年には一般社団法人日本国際ダンス連盟「FIDA(フィーダ) JAPAN」を創設して会長に就任。将来的には世界各国にFIDAを設立し、ダンスのワールドカップ開催を目指す。

 「ダンスは国の壁を突破できる唯一のものだと思っている。DリーグやFIDAが大きくなれば、結果は付いてくると思う。生きている間には実現したいですね」

◇ ◇ ◇

 神田 勘太朗(かんだ・かんたろう) ダンサー名「カリスマカンタロー」。明大卒業後に起業し、ダンスバトルイベント「マイナビ DANCE ALIVE」などを主催。21年1月に始まった日本初のプロダンスリーグ「Dリーグ」で最高執行責任者(COO)を務める。一般社団法人日本国際ダンス連盟「FIDA JAPAN」会長。幼い頃はサッカー選手に憧れ、ポルトガル2部リーグのオリベイレンセでプレーするFW三浦知良に強い憧れを持つ。母もダンサー。長崎県出身。43歳。ツイッターアカウント:charismakantaro

(2023年4月10日掲載)

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