2季目を迎える女子ソフトボールのニトリJDリーグは4月15日、各地で開幕戦8試合が行われる。昨季、レギュラーシーズンを順当に西地区1位で終えながら、ダイヤモンドシリーズの準決勝で敗れたトヨタは、初代王座を逃した悔しさをバネに雪辱を期す。14年間主力投手だったモニカ・アボット(米国)が日本でのプレーを終えて抜けた今季、どんな戦いを挑むか―。
右のエースへ、タイトルも狙う三輪さくら
3月下旬、愛知県豊田市のトヨタスポーツセンターにあるグラウンドでは、日本精工との練習試合が行われていた。開幕戦のカードでもあり、トヨタは本番を意識した打線で臨み、1試合目のマウンドには三輪さくらが立った。
身長178センチの長身右腕で、速いストレートと5種類の変化球を操る。ボールを上下、左右、緩急と自在に動かせるのが大きな武器だ。昨季は無安打無得点試合も達成した。
このオフは「同じ球種でも去年と違う使い方をしたり、あまり使っていなかった球種を多投したり」といった課題に取り組んだという。
3月上旬には日本代表候補の強化合宿があり、他チームの投手や捕手と間近に接して「自分という投手を再確認できた」。球種が多彩でも「ストレート、ライズボールなど一つずつの球のこうあるべきだというベースがぼやけていた」ことに気づかされ、それぞれの球種を磨き直している。
昨季のトヨタ投手陣は、驚異のチーム防御率0.79をマークした。16チーム唯一の0点台。中心投手の内訳は後藤希友が88回3分の2、13勝1敗、防御率0.47でアボットが56回、8勝1敗、0.13、三輪は53回、3勝3敗、1.85の数字を残した。
三輪はアボットが投げたイニングを後藤とともにカバーすれば、過去6季で「達したことがない」規定投球回数(JDリーグは67回)に届く。「防御率のタイトルを取りたい」と個人の目標も口にした。
アボット不在「関係ない」と後藤希友
2試合目に投げた後藤も、順調そうな投球を見せた。「オフにスキルアップはもちろん体を強くしようと、筋力アップやけがをしない体づくりに取り組んだ」という。
アボットの不在を、三輪は「まだ実感がないです。シーズンが始まったら感じるんですかね」と言うが、後藤は「全然、今までと変わらないです」と言い切った。
「確かにトヨタの戦力が落ちている可能性は大いにあると思いますが、自分自身には関係ないので、やるべきことをやるとだけ考えています」
アボットが聞いたら喜びそうな、投手らしい気性と決意が強く表れている。個人成績も「ただただ去年を超えられれば…というかあまり数字にはこだわっていなくて、最低限、一番になれば」と負けん気が前面に出る。
同時に昨季を振り返り、足元も見つめている。「JDリーグは東西に分かれ、東の方が強豪がそろっているとファンの人も思っているでしょうけど、(交流戦で対戦する)東の下位チームも強くなっているし、西のチームとも3回対戦すれば負けることがあると分かったので、いろんなことを改善していきたい」
重みを増す捕手・切石結女の「仕事」
昨季のトヨタはレギュラーシーズン29試合のうち完投は後藤4試合、三輪3試合、アボット2試合で20試合は継投、投げた順番もさまざまだった。
今季は両投手の完投を想定した起用が基本になるのか、またはアリー・カーダとジェイリン・フォードの継投を多用するホンダのような起用か。馬場幸子監督は「投手は完投したいと思うので、オープン戦でも長い回を投げるようにはしていた。トレーニングもしっかりしてくれている」と、まずは前者が念頭にあるようだ。
むろん試合展開や長丁場を考えて継投策もある。力のある投手の継投はトヨタの武器でもあるが、両投手をリードする切石結女も完投の増加を想定し、打順が3、4巡した時の課題を意識している。
後藤は動く球と制球力、思い切りが身上だが、球種がストレートとチェンジアップだけで「5年やってきて、相手も5年分の配球を考えてくる。裏をかくような考え方をしていかなければ」。場面ごとに状況や読み合い、打者の気配などに神経を研ぎ澄まさなければならない。
三輪は自分のテンポに持ち込めば相手を術中に絡め取れる半面、打者のデータと球種の選択などを「考え過ぎるとテンポが崩れていく場合がある」。
そうした局面で「捕手である私の仕事」が重くなるが、「投げる機会が増えればバッテリーで成長できることも増える」と前向きに受け止める。
打撃でも飛躍のシーズンに
今季の切石は、投手を助けるもう一つの「仕事」への期待も膨らむ。2試合目で目を見張るような打球を飛ばした。やや低めの遅いライズをたたくと、グシャッという音がして左中間への弾丸ライナーに。本人も「二塁打かと思った」打球がぐんぐん伸び、あっという間にフェンスを越えた。
昨季は打率3割6厘、2本塁打、8打点。課題だった打撃が10試合目あたりから上向き、一時は西地区打撃成績の上位に名を連ねた。馬場監督は「スイングが速くなって、打てる球にしっかり振り出せてコンタクト率がすごく高い」と評価する。
切石自身は打撃向上の要因を「前はなかなか振り出せなくて、初球の甘い球も逃して追い込まれたりすることが多かったけど、早いカウントから思い切って振ったこと。当てにいってもヒットになる確率は低いので」と話す。
今季は長打力をつけるため「どうしたら打球が飛ぶか、どんな角度にバットを入れたら飛んでいくか考えて打っている」という。
昨季までは下位を打ったが、馬場監督は移籍加入した東京五輪代表の原田のどか、2年目のバッバ・ニクルス(米国)と切石で「右のクリーンアップ」を考えている。
ピンチでアボットが見せた姿
チームを見渡すと、投手陣は2年目の石堂紗雪、新人で高校総体優勝投手の丸本真菜(神奈川・厚木商高出)も魅力があり、馬場監督は「2人が入ってくるといい継投もできるのではないか」と期待する。野手も原田のほか新人の舟阪育枝(日体大出)らが加わって層が厚くなった。
だが、頂点に立つにはトーナメントのポストシーズンが待っている。一発勝負でピンチに踏ん張り、チャンスを確実にものにしないと勝ち抜けない。昨季、準決勝で西地区2位の豊田自動織機に延長8回0-2で敗れ、改めて難しさ、厳しさをかみしめた。
三輪はアボットが投げる姿から学んだことがある。「自分をあそこまで奮い立たせて投げる投手はいない。ピンチの時にこそ自分に自信を持てるし、絶対に負けないという覇気をすごく感じました」
7年目で24歳の三輪に切石、後藤が1年ずつ後に続くバッテリーを中心とした若いトヨタ。アボットが日本リーグ優勝10回などの栄光を誇るチームの「後を託せる」と確信した。自分を信じる力を受け継ぎ、自信の裏付けとなる力を蓄えて、再びJDリーグ初制覇に挑む。(時事通信社 若林哲治)(2023.4.6)