世界一に向け、いざ一発勝負
野球の国・地域別対抗戦、第5回ワールド・ベースボール・クラシック(WBC)で日本が準々決勝に進んだ。「侍ジャパン」の戦いぶりに、全国のファンから熱い視線が注がれている。日本は中国、韓国、チェコ、オーストラリアを撃破し、1次リーグB組を1位で突破。3月16日に東京ドームで、4強入りを懸けてA組2位のイタリアと対戦する。2009年以来の世界一に向け、ここからは一つも落とせない一発勝負。短期決戦が佳境に入る。(時事通信運動部 小島輝久)
ここまで侍ジャパンを引っ張ったのは、現役大リーガーたちだ。存在感が際立つのが、大谷翔平(エンゼルス)。投打にわたり、本場で磨いた「二刀流」のすごみを見せつけている。
豪州の「ディンゴ」監督、大谷に脱帽
日本の初戦となった3月9日の中国戦。3番指名打者の大谷がマウンドに姿を見せた。満員のファンで膨れ上がった東京ドームは、どよめきから大声援へと変わっていく。立ち上がりから鋭く曲がるスライダーがさえまくり、二回はこの日最速の160キロをマーク。その後も速球、変化球を自在に操り、格下の中国打線にまともなスイングをさせなかった。
打撃では四回、1死一、三塁で低めの球をフルスイングすると、打球は左中間フェンスを直撃。貴重な追加点をもたらした。1次リーグB組の1位突破を懸けた12日の豪州戦では、一回に右中間席の広告看板を直撃する豪快な3ラン。WBCでの自身初アーチとなった特大の一発に、かつて中日に在籍して「ディンゴ」の登録名でプレーした豪州のデービッド・ニルソン監督も脱帽した。「大谷の500フィート(150メートル超)級のホームランで負けた。日本に序盤でリードされると厳しい。勝つチャンスはなかった」
「子どもの頃から夢見た景色」
2月17日の宮崎合宿から大会開幕までリーダーシップを発揮し、チームを引っ張ってきたのがダルビッシュ有(パドレス)なら、本戦に入ってからの主役は、3月上旬に侍ジャパンに合流した大谷だった。豪州戦での待望の初アーチに「早く一本打ちたかったし、先制だったからいいホームラン。久しぶりのいい打球で、いい景色だった。子どもの頃からずっと夢見ていた」。スイングの後、しばらく感触をかみしめながら、打球の行方を眺めた。WBCへの思いは強い。前回の2017年は右足首の不調もあり出場を断念。日本ハム時代に監督だった栗山英樹氏が侍の指揮を執ることもあり、世界一を争う大会で力を尽くし、結果を出したいという一念しかない。
侍メンバー最年長の36歳で精神的支柱としてチームを支えるダルビッシュは、大谷が同じユニホームを着て戦う意義を高く評価。「投打ですごくインパクトのある選手だから、ピッチングもそうだけど、ヒットやホームランを打つとチームが盛り上がる。ロッカールームでも他の選手とコミュニケーションを取っていることがすごく大きい」。試合中も率先してチームを鼓舞している大谷の姿が、国際試合の重苦しいムードを振り払っている。
闘志あふれる日系人のサムライ
侍ジャパンに多大な影響を及ぼしているのが、ラーズ・ヌートバー(カージナルス)だ。打席に登場するたびに、東京ドームの観客からは一斉に「ヌー」という大コールが巻き起こった。日系人メジャーリーガーとして初めて日本代表入りした25歳は、闘志あふれるプレーと明るい性格で、ファンの心をたちまちつかんだ。
母の久美子さんは埼玉県出身で、米カリフォルニア州に在住。06年には高校の全日本選抜チームが米国に遠征した際、ホストファミリーとして日本の選手を自宅に受け入れた。少年だったヌートバーは親善試合のバットボーイを務めるなど、日本との関係は深い。「小さい頃から日本の野球にすごく憧れていた。いつか自分のルーツである日本代表としてプレーしたい」との夢がかなった。モチベーションは高まるばかりだ。
「ペッパー・グラインダー」で一体感
初戦の中国戦で一回、先頭打者で初球の直球を中前へ。あいさつ代わりのチーム初安打を放つと、四回には一塁へのゴロを内野安打とした。豪州戦では一回に四球を選んですかさず二盗を決めるなど、機動力もアピール。中堅の守備でも果敢なスライディングキャッチを見せるなど、闘志あふれるプレーを連発。「日本代表として全力でやるだけ。自分のプレーに、ベンチやファンに対するメッセージ性があるとしたらうれしい」。そう話すヌートバーの姿には、「サムライ・スピリット」がにじむ。
両手で何かを持ってひねるようなヌートバーのしぐさも、侍たちやファンに「伝染」している。カージナルスの選手たちが昨季始めた「ペッパー・グラインダー(こしょうひき)」と呼ばれるジェスチャーだ。「こしょうひきのように粘り強くやろう」との意味合いがあるという。大谷をはじめ、岡本和真(巨人)、山川穂高(西武)、近藤健介(ソフトバンク)ら安打を放った選手がこぞってまねをしてベンチを和ませ、一体感を生んだ。
Rソックスの吉田、勝負強さ存分に
1次リーグを終えた時点で、吉田正尚(レッドソックス)は打率4割1分7厘、大谷と並ぶチーム最多の8打点と大活躍。勝負強い打撃で5番の責務を果たしている。米大リーグ移籍1年目のシーズン前という大事な時期にWBCが重なったが、レッドソックス側にWBC出場を要望して「JAPAN」のユニホームを着た。「日の丸を背負い、日本代表として世界一になりたい」という願いが随所に表れている。
いざ準々決勝。日本はここまで、大リーガーたちが中心となってチームをけん引してきた。本来の豪打が影を潜めている若き三冠王、村上宗隆(ヤクルト)の巻き返しにも期待がかかる。イタリアは1次リーグA組で大混戦を通過した勢いがある。大リーグで強打の捕手として慣らしたピアザ氏が監督。エンゼルスで大谷とチームメートのDa・フレッチャーもいる。その大谷が、日本の先発マウンドに立つ。
(2023年3月16日掲載)