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西武の内海哲也コーチが目指す理想像 キーワードは選手との「信頼関係」

2023年03月31日07時00分

 プロ野球西武の内海哲也ファーム投手コーチ(40)が熱い。巨人と西武で通算135勝を挙げ、コーチ兼任だった昨年に現役を引退。コーチに就任し、指導者に専念している。「去年は選手を主にやらせていただいていたので、コーチ専任になって責任感というか、しっかりしないといけないという気持ちは芽生えている」。時に大きな声でハッパを掛けながら、笑顔で話し合う姿もある。大切にしているのは、選手との信頼関係だ。(時事通信運動部 岩尾哲大)

 ファームには、選手時代に共に汗を流してきた若手が多い。「去年まで一緒にやっていたメンバーばかりなので、いきなりコーチになったからと言ってコーチっぽくやってもよくないし、自分も嫌。間柄は崩さずにという感じ。若い子たちと和気あいあいとこの年齢でもやらせてもらっていたので、その関係は崩さず、ちょっと気になったことをぽっと言えるように」。そんなイメージを持って「新たなステージ」という専任コーチ生活をスタートさせた。

ベテラン増田「教科書みたいな」

 巨人時代、14勝した2007年には最多奪三振(180)のタイトルを獲得し、11年は18勝、12年は15勝を挙げ2年連続で最多勝に輝くなど、球界を代表する左腕として活躍した。19年から西武でプレー。通算175セーブを誇る投手陣最年長の34歳、増田達至は現役時代の内海コーチについて「先輩というより教科書みたいな感じ。毎日同じことをしていると人は絶対妥協してしまうことが出てくると思うが、内海さんは貫いていたから長いこと活躍できたんじゃないかと、年々僕が年を取ってきてそう感じる」と慕う。だからこそ、「僕からするといるだけですごいという存在なので、若い選手たちはもっともっと経験を聞いてほしい」と話す。

 高卒2年目の左腕、羽田慎之介は「去年から2軍でお世話になっていて、優しいというか、愛情を持って接してくれる」と感謝する。ルーキーの山田陽翔(滋賀・近江高)は、体重移動がうまい増田とキャッチボールをするようB班(2軍主体)のキャンプ中に内海コーチから提案されたといい、そのおかげでよりバランスのいい投げ方をつかみ始めている。

小谷正勝さんのように

 内海コーチは指導する上で、自分のキャリアで培ったものを押しつけることは「絶対にやらない」と言う。「現役は終わったので、実績とかは全く関係ない」。プロ入りした選手は「素材が良くて来ている」という根本の考えがある。まずは見守り、悩んでいることがあるようだったら、「こうした方がいいんじゃない?」と、そっとヒントを与えられるようにしたいと思っている。

 そのために、人間同士の信頼関係をつくることを一番に意識する。「関係性が築けていないのに、どうのこうの言っても聞かないと思うし説得力もない。僕が選手だったらそう思うので。誰に言われたいか、誰に言われたら納得するか」

 指導者として歩んでいく上でのモデルは、巨人時代に薫陶を受けた小谷正勝さん(現DeNAコーチングアドバイザー)だ。「コミュニケーションを取ってくれたし、ずっとじっくり見てくれて。本当に僕が『あ、困ってんな』っていう絶妙のタイミングで、ぼそっとアドバイスをくれるようなコーチだった」。そんな恩師のように「いつも近くの存在であること」を心掛け、「気づいた時に、一番効果のあるアドバイスが言えるようなコーチでありたい」との理想を追う。

「第一ステップが最終ステップ」

 「まだ(専任コーチとして)1年目、若葉マークがついているので、初級編というか、技術を見ることも大事にしているが、分からないこともまだまだいっぱいある」。ただ、選手との信頼関係を築くことは「一番大事なところ。それはたぶん(コーチの経験を重ねても)変わらない」と言い切る。

 それができてこそ、選手に合った指導ができるようになると考えている。「僕は一人で黙々とやりたいなっていうことが多いタイプだったので、その時に『マンツーマンで付かれると嫌だな』っていうのも経験している。でも、僕がそうだったからって離れて見ていると、本当はもっと近くで見てほしかったっていう選手もいるかもしれない。そこ(の判断)は難しい。これから経験を積み重ねていこうと思う」

 コーチと選手という関係以前に、まず人間同士が向き合う。それは指導者として最初の一歩であり、「第一ステップが最終ステップ。第一ステップをずっとやり続けることが大事。一生続くと思う」と話す。

経験を還元していく

 いくつもの個人タイトルを獲得し、12年の日本シリーズでは最高殊勲選手(MVP)にも選ばれた。一方で自由獲得枠でのプロ入り直後は1軍の壁にはね返されたこともあり、現役晩年はけがとも闘った。通算の黒星は104。日本代表に選ばれたWBCで本来を力を発揮できなかった悔しさも味わった。

 「全ての経験は無駄ではなかったし、糧、肥やしになっている。それはこれから還元していきたい。例えば僕が小谷さんって名前を挙げるように、引退した時『内海さんのようなコーチになりたい』って言ってくれるような選手が現れたら『あー、やっていてよかったな』と思うんじゃないかな」

 そんな指導者を理想像に描いている。

(2023年3月31日掲載)

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