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主役の大谷翔平と黒子のダルビッシュ有、結束導いた両雄 WBC「侍ジャパン」

2023年03月28日18時00分

 「世界一奪還」の余韻は残る。日本のプロ野球や米大リーグの開幕に先駆けて開催された第5回ワールド・ベースボール・クラシック(WBC)で、日本代表「侍ジャパン」が頂点に立った。3月21日(日本時間22日午前)、米フロリダ州マイアミのローンデポ・パークで決勝が行われ、日本は大会連覇を狙った米国に3―2で勝ち、2009年の第2回以来、14年ぶり3度目の優勝。栗山英樹監督は「選手たちが本当にうれしそうな顔をしていた。それがうれしかった」。チームが一丸となってつかみ取った栄冠。その強固な結束力を導いたのは、ともに現役大リーガーの大谷翔平(エンゼルス)とダルビッシュ有(パドレス)だった。(時事通信運動部 小島輝久)

 これ以上ないようなクライマックスが、最後の最後に訪れた。決勝の九回2死、日本が3―2と1リード。マウンドには、この回から7人目の投手として登板した大谷がいる。そして打席は、エンゼルスのチームメートで過去3度も最優秀選手(MVP)に輝くなど大リーグを代表する強打者のマイク・トラウト。力が入った大谷の164キロがワンバウンドで外れ、カウントは3ボール2ストライクに。6球目。外角へ鋭く曲がるスライダーで空振り三振を奪うと、右腕はグラブと帽子を放り投げて雄たけびを上げた。劇的な幕切れ。日本のベンチから選手が飛び出し、グラウンドに歓喜の輪が広がった。

 大リーグで活躍する日米のスーパースターが、1点を争う最終局面で激突。演出されたかのようなシーンだった。敗れた米国のマーク・デローサ監督が「まるで台本があるかのようだ」と振り返ったように、ドラマチックな名勝負は興奮と感動を呼んだ。

迫力プレーで鼓舞、ムードメーカー役も

 終わってみれば、「大谷のためのWBCだった」と言える。投打の二刀流として臨み、投げては3試合に登板して2勝1セーブ、防御率1.86、打っても打率4割3分5厘、1本塁打、8打点。今大会の最優秀選手(MVP)に選ばれた。東京ドームで行われた1次リーグのオーストラリア戦では、特大のアーチが右中間席上方にある自分の顔も写っている広告看板を直撃。別次元のパワーを見せつけた。

 迫力満点のプレーでチームを鼓舞すると、ベンチではムードメーカー役に徹した。日系人メジャーリーガーとして初めて日本代表入りした陽気なラーズ・ヌートバー(カージナルス)らとともに笑顔を絶やさず、緊迫感を一掃した。日本選手の好プレーにはオーバーアクション気味に喜びを表し、闘志を注入し続けた。

「小さい頃からの夢」を具現化

 自身初参戦のWBCに、大谷は並々ならぬ決意で挑んだ。「WBCで世界一になってMVPを獲得することが、小さい頃からの夢」と話していた思いを、グラウンドで見事に具現化。準々決勝のイタリア戦では極端な右寄りの「大谷シフト」の逆手を取り、意表を突くセーフティーバントでチャンスを広げた。「自分のためにヒッティングをするなど、チームの勝利より優先するプライドなんてない」

 ユニホームを泥だらけにし、なりふり構わずプレーする姿に、栗山監督は「野球小僧になり切った時に、彼らしさが出る。これぞ大谷翔平」と目を細めた。二刀流を後押し続けてくれた日本ハム時代からの恩師の下、モチベーションは高まるばかりだった。

風通しの良さをもたらした36歳

 大谷が躍動したWBCで、黒子役に徹して侍ジャパンを支え続けたのがチーム最年長、36歳のダルビッシュだった。2月17日の宮崎合宿初日からチームに合流。戸郷翔征(巨人)、宮城大弥(オリックス)ら若い投手に「伝家の宝刀」スライダーを伝授するなど、自らが積極的に輪の中に飛び込み、風通しの良さをもたらした。

 大会中には、日本の投手陣にメジャーの強打者たちの特徴や対策法などを事細かに指南。決勝で戸郷や高橋宏斗(中日)、伊藤大海(日本ハム)、大勢(巨人)ら若い投手が臆することなく好投できたのは、ダルビッシュの存在が大きかった。日本ハム時代に捕手としてバッテリーを組み、今大会はスタッフ役で侍ジャパンの一員となった鶴岡慎也さんは「栗山監督にも『このようにしてほしい』と言われているみたいだし、自分の役目をしっかりと分かっている。リーダーシップがすごい」と感心した。

「対等の立場」でチームに一体感

 「みんなが仲良くし、一つになりたい。上から目線ではなく、対等の立場で会話したいし、それでお互いを高められたらいい」。そんなダルビッシュの願いと言動が実を結び、チームに一体感が生じた。前回の世界一を経験しているベテラン右腕が、短期決戦を勝ち抜くために不可欠な一致団結への方向性を築いた。

 「ダルビッシュイズム」はチームに浸透した。開幕当初から不振が続いていた村上宗隆(ヤクルト)が悩んでいるのを見ると、吉田正尚(レッドソックス)は「ムネが苦しんでいる。その分、自分たちが頑張らないと」。その思いを皆が共有した。

意義がある打倒米国

 大リーグでもトップクラスの大谷、ダルビッシュが先頭に立って旗を振り、優勝を果たしたことには大きな意義がある。本場米国のスター軍団を打ち破った結果は、今後の大会運営にも大きな影響を与えそうだ。

 WBCは第1回の開催当初から「大リーグ機構(MLB)の一つの興行に過ぎない」と言われ続けてきた。シーズンを優先するため、選手派遣に難色を示してきたMLBは、今回の盛り上がりをどう見るか。決勝最後の打者となったトラウトは「タフな夜だった。でも僕らはまた戻ってくる」と表情をしかめながら絞り出した。MLBの象徴でもある米国チームが次回に、威信を懸けて巻き返しをする気になれば、大会の価値はこれまで以上に高まる。

次の世代につなげられるか

 今大会の主力となった侍ジャパンの多くは、09年の第2回大会決勝で日本チームが輝きを放ったシーンが印象に残り、今の自分に大きな影響を与えているようだ。延長戦でイチロー(当時マリナーズ)が放った決勝打や、抑え役を務めたダルビッシュ(当時日本ハム)のマウンド姿。24歳の山本由伸(オリックス)は「すごく格好良かった。僕もそうなりたいと思った」と話す。

 獅子奮迅の活躍をした侍ジャパンの闘志やスピリットを、次の世代につなげることができるのか。栗山監督は「日本中の人に野球の面白さ、すごさを感じてもらえた。この選手たちに憧れて、たくさんの子どもたちが野球をやってくれればいい」と願う。いっときの「夢の跡」で終わらせない限り、野球界の未来は明るいはずだ。

(2023年3月28日掲載)

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