会員限定記事会員限定記事

西武の山田陽翔、羽ばたく日に向けて 出発点は「本物のキャッチボール」

2023年03月13日17時30分

甲子園を沸かせたルーキー

 甲子園を大いに沸かせ、ドラフト5位でプロ野球西武に入団した山田陽翔投手(滋賀・近江高)。1月の入寮から新人合同自主トレーニング、2月の春季キャンプを振り返り、「とてもいい日々だった」と快活に語った。「毎日がすごく目まぐるしく、すごいスピードで流れていく中で、確かにつかんだものというか、自分の力にできているものも感じている」。プロで羽ばたくためのきっかけを着実に見いだしている。(時事通信運動部 岩尾哲大)

 「つかんだもの」への出発点は、キャッチボールだった。高知市で行われたB班(2軍主体)のキャンプ。抑えの切り札として昨季31セーブの増田達至投手と「キャッチボールを毎日させていただいた」。4月に35歳となる増田と、18歳の山田。投手陣でチーム最年長と最年少だ。組むように促したのは内海哲也2軍投手コーチ。山田が課題として自ら口にし続けている体重移動で、増田を見習ってほしいとの思いから提案されたという。

 キャッチボールについては一般的に、肩を温めるためのウオーミングアップという位置づけと捉える向きが多いかもしれない。山田は「僕もそう思っていたし、適当にやってもバッターを抑えられればいいと思っていた」と、冗談めかしながら言った。通算175セーブを挙げているベテランの球を受けてみて「本物のキャッチボールを見せてもらったというか、これがプロ野球なんだと、すごく肌で実感した」。新鮮な感覚だった。

求める再現性

 山田は増田に、キャッチボールで意識していることは何か尋ねた。答えは「タイミングと、バランス」。その二つがかみ合えば、リリースポイントまでは力を抜きながら、球を離す瞬間に出力を集中させることができ、最小限の力でいい球が投げられると理解している。

 高校時代、ダイナミックなオーバースローで投げ込んでいく山田のフォームは、力感にあふれ、迫力があった。自身は「それが良いところでもあり、悪いところでもある」と受け止め、その上で「高校レベルまでのもので、プロでは通用しない」と言い切る。「プロ野球は1年間通してやらないといけない。やっぱり強弱のつけ方も大事になってくるし、再現性、同じことをずっと繰り返すことが大事。1球いいストライクがいっても一喜一憂せず、再現性を求めてやっていきたい」

つかみつつある感覚

 甲子園では近江のエースで4番、主将として躍動し、高校日本代表でも主将を任された。同世代の顔とも言える選手の一人だ。ただ、ドラフト会議前は、プロ球団のスカウトから能力を評価する声が聞かれる一方、「これ以上の成長は難しいのではないか」との見方もあった。「僕は身長も(175センチで)あまり高くないし、パワーで投げるタイプなので、成長をあまり見込んでいない人がいるのは分かっていた」

 だが、これまでに伸びしろがあったこと、そして今もあることを実感している。増田とのキャッチボールを通じて、より質のいい球を投げる感覚をつかみつつある。「内海さんには『最初の頃と比べたら、かなりできている』と言ってもらえた」。少しうれしそうな表情を見せた。

自己最速152キロ、質が向上

 新たな可能性の一端を見せたのが、キャンプ中に行われた社会人チーム、JFE西日本との練習試合。1回を三者三振に抑え、山田によれば、自己最速を3キロも更新する152キロを計測した。「バランス良く投げられた。次のステップまで来ている」。大台に乗った球速についての喜びはそこそこ。それよりも、球の質が向上したことに手応えを感じ取った。

 1年前の選抜大会で準優勝、夏の全国選手権大会でも4強入りした近江。その原動力となった右腕は、それからの成長曲線を「思っていた以上」と言いながら、「でも、これがマックスではないし、これからもどんどん成長していく自分も見えている。可能性は自分では決めたくないし、どこまでも上を見続けたい」。力強く、そう語った。

自分と見詰め合って

 卒業式のために久々に帰省すると、家族から「体が大きくなったね」と言われた。「毎日鍛えていても、筋肉痛があまり来なくなった。いいリズムになってきた」。今年のテーマの軸となる体づくりにおいても、早くも前進している。「焦りはない。余裕もないですけど(笑)。1軍は、投げるレベルに達しないことには行ける場所ではないと思っている。今はしっかり自分と見詰め合って頑張っていきたい」

 甲子園ではライバル、高校日本代表ではチームメートとして奮闘し合った巨人の浅野翔吾外野手(高松商)やDeNAの松尾汐恩捕手(大阪桐蔭)らと連絡を取り合い、「今度ご飯に行こう」というやりとりをしているという。近い将来、この世代が球界を盛り上げている時に、マウンドで輝きを放つ山田がいる―。期待は膨らむ。

(2023年3月13日掲載)

◆スポーツストーリーズ 記事一覧

話題のニュース

会員限定

ページの先頭へ
時事通信の商品・サービス ラインナップ