金融経済教育に政府が本腰を入れている。2024年1月に少額投資非課税制度(NISA)が大幅に拡充されるのを機に、新設する金融経済教育推進機構を旗振り役として、人生の早い段階から投資のイロハを学んでもらい、国民の金融知識の底上げを目指す。(時事通信経済部 金澤俊子)
基礎知識習得が課題
日銀が事務局を務める金融広報中央委員会(金広委)が公表した22年の調査では、学校などで生活設計や家計管理についての金融教育を受ける機会はあったかとの問いに、受けたと答えた割合は7%にとどまった。投資を巡るトラブルも発生し、基本的な知識の習得が課題になっている。
24年の設立を目指す金融経済教育推進機構は、教材作成と学校・企業での講座実施に加え、顧客の立場に立った「中立的なアドバイザー」の育成と認定を担う。アドバイザーの中立性を判断する要件は「金融商品を販売する事業を兼業していない」「顧客からのみ報酬を得ている」などとする案が検討されている。
これまで金広委や金融庁、民間金融機関がそれぞれ担ってきた金融教育の課題や機構への期待について、金融庁での勤務経験もある金融教育家の塚本俊太郎氏に聞いた。
顧客目線とアドバイスの質
―金融経済教育推進機構への期待は。
金融教育は、金広委と金融庁が中心になって行ってきた。また、日本証券業協会や全国銀行協会などの業界団体も企業の社会的責任(CSR)の一環として取り組んでいるが、それぞればらばらに進められているというのが現状だ。
例えば、学校で金融教育の授業をしたいというニーズがあったとしても、どこに相談すればいいのかよく分からない。金融庁も金広委も講師派遣をしているが、窓口はばらばら。機構が新設され、窓口が一つになって講師派遣やプログラムの案内をしてくれるのであれば便利になる。
―アドバイザーの中立性はどうあるべきか。
そもそもなぜ必要なのかを考えた方がよい。資産形成をする上で誰かに相談したいという人は一定数おり、その人たちにアドバイスをする人が必要だというのが始まりだ。ただ、金融機関から商品を薦められる可能性がある上、相手は手数料を稼いでいるので利益相反になる。そこで中立的なアドバイザーの話が出てきた。
顧客目線で金融商品を見て、その人には何が良いかを一緒に選べる人が必要だ。必ずしも金融機関がだめとは言えないが、少なくとも手数料稼ぎをしている人がアドバイザーになると利益相反になるし、顧客目線で考えられない。アドバイスの質と適切な相談料という視点も重要だ。
中立的なアドバイザーは機構の中につくればいいと思う。相談できる範囲を決め、機構の職員が無料でアドバイスすればよいのではないか。
自分で考えて判断
―情報発信で気を付けていることは。
ファイナンシャルプランナーをやっているわけではないので制約はない。「つみたてNISAでは『eMAXIS Slim 全世界株式』が人気だ」と紹介しているが、併せて理由も説明している。全世界株式を投資対象とする商品であれば、先進国や新興国など幅広い国の会社が入っており、今後世の中をけん引する国や会社が変わった場合でも対応できるようになっている。
例えば、楽天証券のホームページで、全世界株式で検索すると10個のファンドが出てくる。その中から運用管理費用順に並べ替え、次に純資産残高を見れば、「この辺だったらいいかなというのが選べますよ」と言っている。1~2年後に手数料競争で変わったり、人気の投資信託が変わったりしても同じプロセスで選べる。自分で考え判断することが大事だ。プロセスを理解しておけば、将来見直すことがあっても自分でできる。
―具体的な助言が必要ということか。
現在、つみたてNISAの説明では具体的な投資信託の選び方まではしていない。教育といえども、かなり具体的なところまで話をして、次のステップで口座を開いて投資できるレベルまで教えることが大事だと思う。
つみたてNISAだと三つ正解があって、全世界株式か全米株式かS&P500。全世界株式なら、証券会社のホームページで選別し、運用管理費用順に並べ替えて純資産残高で選んでいく。トップ3ぐらいであればどれを選んでも問題ない。どう選ぶか見てもらうにはこれぐらい具体的にした方がいい。「投資信託の中から選んでください」だけでは動けない。
例えば、ネット証券だとSBI証券と楽天証券が2強という話をしている。中立的な機関だと個別具体的なことは言えないとの声もあるが、口座数ランキングを示して、大手だとこういうところ(会社)がありますという見せ方をするなど工夫はできると思う。
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