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「全勝」が最優先、公明の選挙事情【解説委員室から】

2023年03月04日09時00分

 昨年(2022年)7月の参院選で比例代表の得票数を大きく減らした公明党は、今年4月の統一地方選で党勢の退潮に歯止めを掛け、年内実施も取り沙汰される次期衆院選へ弾みを付けることを狙う。その一方で、統一地方選の候補者数は前回2019年の当選者数を下回っており、スタート時点で議席減が確定している。そこには、創価学会を支持母体とする組織の特殊性もあり、勝つ(当選)可能性に賭けるより、負けない(落選)ことを優先する独自の選挙方針がある。(時事通信解説委員長 高橋正光)

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【目次】
 ◇統一地方選、既に議席減確定
 ◇「三重苦」、創価学会の集票力に陰り
 ◇衆院選、小選挙区での議席増狙う
 ◇石井氏、次期代表へ試練

統一地方選、既に議席減確定

 公明党は2月16日、統一地方選で1555人を擁立し、作業を終えたと発表した。前回は1562人を立て、1560人が当選し、前々回2015年は1593人を擁立している(当選は1589人)。自治体の合併に伴う定数減もあるが、2007年は1724人を立て、全員当選を果たしている。

 公明党が統一地方選のたびに、候補者を絞り込むのは「全勝」を最優先する特殊事情からだ。それは、創価学会が集票活動の中心になっていることと関係している。創価学会は宗教団体で、会員の日常活動の中心は信仰。会員間の交流を通じ、信仰心を高め、日々「広宣流布」(日蓮の教えを広めること)に励んでいる。また、さまざまな機会を利用しての非会員と接触、対話を通じて会員の拡大にも取り組む。

 こうした状況下、党・学会が重視する三大選挙(衆院選、参院選、東京都議選)が近くなると、学会は全国の組織を挙げて公明党候補の支援に着手。会員は日常活動の相当部分を、知人に会ったり、電話をしたりして支持をお願いする活動に充てる。「信仰」と「選挙」の両立を一定期間、求められる。

 候補者全員が当選ラインに届くには当然ながら、会員以外の票(いわゆるF=フレンド=票)が必要だ。党の実績と重点的に取り組む政策を熱心に説き、支持を取り付ける。公明党候補の当選は「信仰の成果」でもある。

 それゆえ、選挙に勝てば、会員の士気は上がり、組織の結束も強まる。逆に、支援した候補が落選すれば、成果に結びつかなかったことを意味し、士気も低下しかねない。特に、会員にとって地方議員選挙は、候補者の顔がよく見える最も身近な選挙。党・学会が統一地方選で負けないことを優先し、候補者を絞り込むゆえんだ。

 学会の地方組織は、各選挙区内の会員数や活動状況、各候補の過去の得票数や当選回数・年齢などを勘案。完璧に票割りをしても、議席減の可能性が排除できないと、現職を引退させることもいとわない。結果として2007年以降、統一地方選のたびに候補者を減らしている。

「三重苦」、創価学会の集票力に陰り

 学会の機関紙「聖教新聞」には、信仰を通じて絶えず難題を打破し、願いを成就させる意味で「常勝」「完勝」という言葉が頻繁に登場する。会員を鼓舞する狙いとみられるが、党・学会にとって、統一地方選での「全員当選」は至上命令と言える。

 とはいえ、過去の統一地方選を振り返れば、取りこぼしも目立つ。前回は2人、前々回は4人、2011年(候補者1594人)は2人の落選者を出しており、1724人を擁立した2007年を最後に、3回連続で全員当選を逃がしている。その上で、候補者を7人減らして今回の統一地方選に挑む公明党の現状を見ると、かつてないほど厳しいと言えよう。それは、三つのマイナス材料があるからだ。

 第1は、会員の高齢化。集票活動の実働部隊は学会の女性部で、部員がさまざまなつてを頼りに、知り合いを訪問したり、電話をかけたりして、公明党候補への投票を働き掛けている。党関係者によると、女性部員の高齢化が進み、運動量が減っているという。昨年7月の参院選では、炎天下での不測の事態を避けるため、高齢の会員には支持者回りなどを求めなかった地域もある。

 第2は、新型コロナウイルス禍の影響だ。感染は下火になり、日常生活は戻りつつあるものの、「支援のお願い」で自宅を訪問されることを嫌がる有権者は多い。反発を買うケースもあるだろう。これでは、会員の「行動力」が生かせず、会員以外への支持拡大につながらない。前回参院選で公明党の比例票が618万票(前々回2019年比で35万超のマイナス)まで落ち込んだのは、会員の高齢化とコロナの影響が大きかったようだ。

 第3は、世界平和統一家庭連合(旧統一教会)を巡る問題。安倍晋三元首相の銃撃死をきっかけに、霊感商法などで社会的な批判を浴びた旧統一教会と自民党との密接な関係や、多額の寄付で生活が破綻した信者とその家族が多数存在する教団の実態が明らかになり、国民の間で教団と自民党への批判が一気に高まった。その関連で、「政治と宗教」、公明党と創価学会の関係にも関心が集まった。

 創価学会は「宗教の問題ではなく、反社会的な活動を長年継続する団体の問題」(原田稔会長、2022年11月3日付聖教新聞)などと訴え、マイナスイメージの払拭(ふっしょく)に努めたが、選挙への影響は不透明だ。ある公明党関係者は、これらの懸念材料を挙げ「三重苦の戦い」と苦戦を認める。

 実際、統一地方選の前哨戦と位置づけられた昨年12月の茨城県議選や西東京市議選がそれを裏付ける。茨城県議選の水戸市・城里町選挙区で公明党は着実に1議席を守ったものの、前回と比べ3500票超減らした。創価学会批判を展開した元学会員のお笑い芸人の出馬で注目を集めた西東京市議選でも、前回同様5人全員の当選を果たしたが、得票数が1割(約1000票)減った。

 公明党は昨年9月の代表選を経て、山口那津男代表の体制が異例の8期目に突入した。学会側も含めて既定路線だった石井啓一幹事長(64)への交代を見送ったのは、統一地方選を考慮してのことだ。街頭で演説する山口氏に、女性会員の支持者から「なっちゃん」の声援が飛ぶのが定番。世代交代より、山口氏の「人気」を重視したと言える。結果が伴わなければ、世代交代を先送りした判断も問われかねない。

衆院選、小選挙区での議席増狙う

 参院選で集票力の低下が露呈した公明党は、次期衆院選で小選挙区の候補者を増やすことでの議席増を目指している。「10増10減」に伴い選挙区が増える5都県のうち埼玉、千葉、東京、愛知の4都県で各1選挙区譲るよう自民党に要求。具体的に、埼玉14区に石井氏(比例北関東)、愛知16区に伊藤渉政調会長代理(53=比例東海)の名前が挙がる。

 これに対し、自民党は「10減」の対象となる各県で現職がひしめいており、「10減で割を食っており、安易には譲れない」(幹部)との立場。公明党が擁立を模索する自民党の4都府県連は反発しており、調整は見通せない状況だ。自民党選対関係者は「学会票だけでは当選ラインの3分の1にも届かないのに、強引過ぎる」と怒りをあらわにする。

 このタイミングで、石井、伊藤両氏の名前が挙がったことから、公明党にとって「4」は言い値で、「2」が落としどころと考えているのだろう。同党は東海ブロックに小選挙区選出の議員はおらず、自民党と調整がつけば、東海地域の学会組織は自民支持者への働き掛けを含め、伊藤氏の勝利にエネルギーを集中できる。

 また、関東での小選挙区の候補は、遠山清彦元財務副大臣の貸金業法違反事件に伴い神奈川6区を自民党に譲った結果、東京12区の現職・岡本三成氏1人。一気に小選挙区の候補者を4人に増やしても、東京を中心とした関東の学会の組織力が分散され、「4勝」への不安は尽きない。一つでも落とせば、会員の士気にも関わるだろう。自民党の反発や党・学会の組織力からは、「2」が現実的に思える。

石井氏、次期代表へ試練

 石井、伊藤両氏を小選挙区に転出させることには、学会側のもう一つの狙いも透けて見える。公明党は小選挙区の候補者を、比例代表と重複立候補させないのが基本方針。次期代表、将来のリーダー候補への「試練」だ。

 山口氏と石井氏の決定的な違いは、学会内での「人気と知名度」。石井氏が埼玉14区の候補になれば、関東を中心に全国の会員が石井氏の支持拡大に奔走することになり、組織内での知名度はおのずと上がる。感情を表に出さないタイプの石井氏も、悲壮感をあらわにして選挙区内を回ることになるだろう。「代表になるのなら、死に物狂いで会員・支持者に訴えて、選挙区で勝ち上がってこい」とのメッセージだ。

 山口氏の代表8選で、「ポスト山口」は不透明となったが、石井氏が選挙区で勝利すれば、次期代表の「本命」に戻ることになろう。

 一方、伊藤氏はJR東海出身の技術者で当選5回。党税調の事務局長として、昨年末の税制改正で自民党との調整役を担うなど評価は高い。また、遠山氏の退場で、中堅・若手のホープは不在。選挙区で勝ち上がってくれば、将来のリーダー候補の一人に一気に躍り出よう。

 統一地方選で全員当選を果たせば、大きなサプライズ。学会の底力を内外に示すことになり、会員の士気は間違いなく上がるだろう。連立を組む自民党に、学会の集票力を再認識させることにもなる。

 そして、衆院小選挙区での自民党との候補者調整の行方と衆院選の結果は、「ポスト山口」を左右する可能性が高い。党・学会の将来にとって、重要な日程が4月以降、続くことになる。

(2023年3月4日掲載)

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