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吹き荒れるブリザード、移動は専用雪上車◆極寒の地で「ガメラレーダー」見てきた【news深掘り】

2023年03月13日10時00分

 日本に飛来する弾道ミサイルや国籍不明機、気球などを24時間体制で見張るレーダー基地があるのは、特性上、離島や山頂ばかりだ。今回取材したのは、新潟県の佐渡島の「ガメラレーダー」と呼ばれる「FPS5」を運用する航空自衛隊佐渡分屯基地。レーダーが設置された妙見山(標高1042メートル)の山頂は、風速20メートル超のブリザードが吹き荒れる極寒の世界だった。(時事通信社会部・釜本寛之)

 【自衛隊探訪記】

基地近づくと景色一変

 新潟港から高速船で約1時間、佐渡島の両津港はぼたん雪が舞っていた。ただ、積雪は少なく、寒さもそれほどでもない。やや拍子抜けしたが、迎えの隊員の「基地の周りは別世界ですよ」との言葉通り、車が中心街を抜け基地へと山道を登るに連れて雪景色に変わっていった。「この先は自衛隊が管理する防衛道路です」。隊員の指さす先には、ロープを張り、立ち入りを制限した、ひときわ雪深い道が続いていた。

 ここから基地正門までは約2キロ。普段は2車線の観光道路の一部だが、冬場は入り口の専用電話で基地に連絡し、許可を得ないと通行できない。基地の隣にある公営スキー場は、テレビ番組で「自衛隊の許可がないと行けないスキー場」と紹介されたこともあるそうだ。規制は積雪の車線減による鉢合わせ事故対策。隊員が四六時中除雪し、「チェーン規制」や「4駆限定」などを指示する。急こう配もあり、それでも立ち往生やスリップ事故が起きるという。

ミサイル発射、基地はピリピリ

 記者が基地を訪れたのは2月20日の昼すぎ。この日は朝から、北朝鮮が短距離弾道ミサイル2発を日本海に発射。2日前にも大陸間弾道ミサイル(ICBM)を北海道西方の排他的経済水域(EEZ)内に撃ち込んでいる。出迎えてくれた篠部隆史基地司令は「発射があっても普段通り。どんなときも粛々と対応できる態勢を組んでます」と話したが、働く隊員たちはピリピリしているように見えた。

 北朝鮮は昨年、過去最多の37回、ミサイルを発射し、今年もペースは落ちていない。佐渡分屯基地は発射されたミサイルを初期に探知する位置にあり、「緊張感やプレッシャーは増している」と話す隊員もいた。

日本の空見張る「ガメラ」

 佐渡分屯基地が運用する「FPS5」は、日本最大のレーダーで、三角柱型のビルのような形状をしている。レーダー本体の高さは約35メートル、土台込みで42メートルある。「ガメラレーダー」の愛称は、3面に張り出したカメの甲羅のような形状から付いた。佐渡のほか、青森、鹿児島、沖縄に設置され、自衛隊は、他タイプを含めた全国28カ所のレーダー基地で日本周辺の空域を365日、24時間態勢で見張っている。

 篠部基地司令に「ステルス戦闘機や最近話題の偵察気球は見えますか」と質問してみた。「どう見えるかは機密で答えられないですが、ご安心ください」とのこと。機器を更新したり、訓練方法を変えたりして、最新の状況に対応できるよう備えているという。

厳しい勤務環境で

 佐渡分屯基地の隊員は、レーダーを運用する監視小隊や、機器保全に当たる通信電子小隊など計約160人だ。司令部などがあるベースキャンプ(BC)地区は妙見山の中腹、標高450メートルにあり、島の中心街まで車で30分強かかる。冬場の積雪は1メートル超。周辺に商店などはなく、基地内には売店や理容店も設けられている。隊員の4割ほどは市街地の官舎に住んでおり、通勤に備えて毎朝5時から隊員が防衛道路を除雪しているという。

 「ガメラ」はBC地区から5キロ先の山頂にある。道はさらに雪深く、専用の雪上車でしか行けない。24時間故障にすぐ対応できるよう、常に基地と行き来できる経路を確保しておく必要があり、ブルドーザーで雪道を踏み固める「圧縮除雪」を日に何度も行っている。だが、現場は氷点下の気温や吹雪で視界がゼロになる「ホワイトアウト」が発生しやすい。圧縮除雪では過去に殉職事故が起きており、冬場は重機の操作に長けた専門部隊が派遣されている。

 ベテラン隊員によると、「ガメラ」が導入される前はさらに厳しい環境だったという。旧型のFPS2は、妙見山の奥、佐渡最高峰の金北山頂(標高1172メートル)にあり、数日泊まり込むローテーション勤務だったそうだ。この隊員は「敷地内に神社があった影響か、怪談話にも事欠かなかった。寒さも厳しく本当につらかった」と振り返った。

 ~あすは「ガメラ」のある山頂へ向かう。行程などについて説明を受けたが、危険があるため、天候次第では行けない場合もあるという。天気予報は「冬型の気圧配置で大雪、帰りのフェリーも欠航の恐れ」。「何とか一目」と天に祈った~

雪上車で極寒の山頂へ

 翌朝、天気は予報通りの大雪で、市街地のホテル周辺はすっかり銀世界だった。基地周辺は1晩で数十センチの雪が積もったという。取材のゴーサインが出たのは昼すぎ。自衛隊でも「ここにしかない特製車両」という、無限軌道の雪上車に乗り込んだ。基地の先は2メートル超の積雪。ガードレールもすっかり埋まり、目印は崖との境に立つ竹のポールだけだ。圧縮除雪した路面もなめらかとは言い難く、天井や壁の取っ手を持たないと座っていられないほど揺れが激しい。スリップするたびに背筋がこわばった。

 20分ほどでブルドーザーの車庫に着いた。車庫は整備や給油の拠点で、隊員が交代で詰め、24時間体制でルート確保のための除雪などを行っている。悪天候で基地に帰れない場合に備え、風呂や暖房機材、食料も完備されている。目的地に近づいたように思ったが、その姿は吹雪に隠され、うっすらとしか確認できない。「ホワイトアウトする前に」とせかされ、ブルドーザーの先導で先に進むと、窓から「ガメラ」の威容が見えてきた。

吹き荒れるブリザード

 身支度を調えて外に出る。雪上車の陰から出た途端、強い風にあおられた。猛烈な寒気で顔が痛い。遮るもののないレーダー周辺は強風で雪も吹き飛ばされ、地面があらわになっている。地表はどこも氷で覆われており、ところどころ、つるつるのアイスバーンになった部分もあった。

 レーダー内部は非公開で、篠部基地司令の案内で外から見学した。外壁には雪が付き、凍り付いたように見える。圧倒される大きさだが、回転させて向きを変えることもできるという。外壁から何カ所も飛び出す突起は避雷針。電線を張り巡らせて雷からガードしている。「山頂では雷が横から飛んでくる」と聞き、鳥肌が立った。

 説明を聞くうちに、ますます風が強くなってきた。「日本海がよく見えますよ」と篠部司令が指さしてくれたが、ガードレールの向こうは断崖絶壁、恐怖で風景を楽しむ余裕はない。寒さも限界だが、真正面からの強風に耐えるだけで身動きできない。途端、ニット帽がめくり上げられ、飛ばされていった。身の危険を感じ、雪上車に向かって体を小さくしてじりじりと進む。隣で篠部司令が転倒した。風速計は20メートルを超えていたが、それでも「並」で、50メートルを超えるときもあるという。

取材を終えて

 「ガメラレーダー」の内部は最後まで見ることができなかった。ただ、取材のきっかけは、レーダー基地隊員への「過酷な勤務環境への手当」の支給が検討されると耳にしたことだ。「そこまで大変なの?」と半信半疑だったが、実際に行ってみて、想像以上に過酷な環境下、多くの隊員が整備や除雪などを分担し、チームワークでミサイルを監視していることが分かった。

 取材では、分屯基地で働く若い隊員にも話を聞いている。苦労はやはり生活の不便さ。警備担当の片岡彩士長(20)は「もう少し遊ぶ場所が欲しい。アウトドアのない冬場は引きこもり」と苦笑いし、藤井涼太士長(21)は「帰省もなかなかままならない」と話した。休暇で島外に出ても、船の欠航に備えて早めに帰島する隊員が大半だという。頼もしい言葉も聞いた。「日本の守りの最初の目であり、それに携われることは誇りだ」〈レーダー整備班の岩坪大暉3曹(32)〉「一度の失敗も許されない、緊張感と責任を胸に働いています」〈レーダーを操る松川晃大士長(23)〉などだ。

 当初、基地で働く全員を支給対象としていた手当案は、予算編成過程で再検討され、レーダー担当者のみ、ミサイルなどに対処した場合に限り1日740円支給する案に変更された。佐渡分屯基地は直線距離では市街地と近いため、へき地手当はない。「あるのは除雪隊員の危険手当(1日450円)程度」だという。

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