サッカーで、若くして日本から欧州へ渡る選手が増えている。今季も、J1鳥栖の下部組織出身のMF福井太智(18)がドイツ1部リーグの強豪バイエルン・ミュンヘン、全国高校選手権で活躍した神村学園(鹿児島)のFW福田師王(18)は同リーグのボルシアMGで挑戦を始めた。日本選手の海外移籍のあり方が変わってきている。(時事通信福岡支社編集部 鎌野智樹)
J1リーグ戦で昨季1試合のみの出場だった福井や福田のほか、昨年、2024年パリ五輪世代の年代別代表に「飛び級」で選ばれたDFチェイス・アンリ(18)も、昨春に尚志高(福島)を卒業後、シュツットガルト(ドイツ1部)の下部組織に加入。高校から直接、海外クラブに加わったり、Jリーグでほとんどプレーせず、10代のうちに移籍したりする例は珍しくなくなりつつある。
サッカー選手の代理人を務める馬淵雄紀弁護士は「欧州では、18~20歳でトップ選手になっている。日本では18歳は若いと思うが、欧州の物差しだと普通」と言う。実際、フランス代表FWエムバペ(パリ・サンジェルマン)らは10代の頃から世界トップレベルで活躍している。
国際サッカー連盟(FIFA)は18歳未満の国外移籍を原則として禁止している。そのため、日本選手が海外挑戦できるのは高校年代を終えてから。ただ、例外的に欧州内では17歳以下でも可能になるケースがある。
育成システム整う欧州
欧州の有力クラブでは育成システムが整備されている。トップチームの下に若手中心のチームを持ち、下部リーグに参加している。欧州クラブへの移籍は、下部組織でのプレーからスタートすることが多い。ただ、J1クラブでも10代で定位置をつかめる選手はまれで、J2やJ3に期限付き移籍するケースは少なくない。馬淵弁護士は「実戦に絡めるのはメリット」と移籍の利点を語る。
そこで結果を残せば、トップレベルでプレーする道がぱっと開ける。「ポジションを取って、トップチームに昇格すれば市場価値を一気に高められる」。昇格できる選手はほんの一握りだが、「仮に昇格できないとしても、他のクラブの目に留まったり、違う国のクラブからも買ってもらったりする可能性はある」。早くから本場欧州へ渡ることで、将来活躍する場の選択肢は増える。
クラブ側もこうした実情を十分に考慮した上で若手選手を獲得している。欧州で一般的なのは「育成して、若い選手を売って移籍金を得て、それをまた投資する」というサイクル。一流選手が集まるトップチームでは戦力となれなくても、「1部リーグの中堅、下位チームや、下部リーグのクラブが買ってくれれば、クラブとしての投資は成功」だと戦略を説明する。
世界中から有望株集まる
欧州のクラブには世界中から有望株が集まる。年代別代表の試合などにスカウトを派遣するのはもちろん、人の目を直接介さない方法も発達している。
馬淵弁護士は元日本代表DF太田宏介(現J2町田)がJ1のF東京からオランダ1部フィテッセへ移籍した時の経験から、「システムにより選手を絞って、スカウトが見なくても選手の候補が出てくる」と話す。クラブは、世界各国リーグに所属する選手の中から、条件に合う選手を探し出し、映像なども入手できる。
太田の場合は、フィテッセが左サイドバックを求めており、クラブが持つデータ上で候補に挙がったのがきっかけだった。最後はスカウトが数人の欧州選手と比較した上で、移籍が決まったという。ドイツのクラブでは、獲得候補を直接調査するアジア担当スカウトを抱えている場合も多い。
福井「夢から逆算」
J1鳥栖の下部組織で育った福井はバイエルン移籍の決め手をこう語る。「自分の夢はワールドカップ(W杯)で優勝すること。その夢は世界で戦わなければ、かなえることはできないので、その夢から逆算して考えた」
特に大きな理由となったのが昨年、U19(19歳以下)日本代表として参加した欧州遠征。フル出場したアルゼンチン戦で「ものすごいレベルの差を感じた」という。早めの海外挑戦への思いが強くなった。
国内では順調なキャリアを歩んできた。神奈川県出身で、親の仕事の関係で小学生の時に佐賀県へ移った。スペインの名門バルセロナが運営するスクールにも通い、鳥栖の下部組織に入団。昨年は高円宮杯U18プレミアリーグのファイナルを制し、高校生年代の日本一に輝いた。
鳥栖のトップチームでも、2021年に16歳でルヴァンカップデビュー。森本貴幸(東京V)、久保建英(F東京)に次ぐ年少出場を果たした。
それでも、「各国の選手たちとやって、フィジカルの部分は海外に行かなければ分からない部分があった。毎試合、痛感した」。18歳の目は世界に向けられていった。
将来へ経験積む
バイエルンには、練習参加を経て入団が決まった。現在は4部相当の地域リーグに所属するセカンドチームで実戦経験を積んでいる。「J1よりはレベルは劣っているが、そこで結果を出すことによって、その先が大きく変わってくる」と将来を見据える。
そうして道を切り開いた例も出てきた。バイエルンと同じドイツ1部リーグ、シャルケのFW上月壮一郎(22)は、当時J2だった京都で出番に恵まれず、21年シーズン限りで契約満了となり、ドイツへ渡った。シャルケのU23チームなどを経て、今季トップチームでデビュー。得点も決めた。
若くして海外へ移り、成功した例はまだ少ない。ただ、各世代別の日本代表には海外クラブ所属選手が増えている。福井は、2026年のW杯日本代表入りを目標に、「チームを勝たせられる選手になりたい。ゴールに関わり続けて、毎週結果を出せる選手になりたい」と行く末を描く。Jリーグで経験を積んでから海外挑戦、という常識が変わる日も近いかもしれない。
(2023年3月17日掲載)