子どもを守るため 今すぐできる実践安全教育

2023年03月31日08時00分

宮田美恵子 NPO法人日本こどもの安全教育総合研究所 理事長

 新入学シーズンが近づいてきましたね。

 新1年生となる子どもたちはこれまで大人と一緒に過ごしていましたが、これからは1人になる時間が増えていきます。子どもたち自身も保護者の方も、新生活を心待ちにしながら、不安を感じていらっしゃるでしょう。

 学年が上がるに伴い、子どもは少しずつ自分の身を守る安全力を高めていきますが、1年生はまだスタート地点に立ったばかりです。目の前で起きる出来事に適切に対応する力は、まだ備わっていません。

 ですからご家庭では、ピカピカのランドセルだけでなく、自分の身を守る安全力も子どもの身に付けさせてほしいと思います。

 ここでは、通学路で遭遇する可能性がある誘拐や交通事故、地震などに心構えをしておく重要さや具体的な方法についてお話します。ご家庭で子どもと一緒に安全について話し、準備万端で新しい生活をスタートさせましょう。

 【目次】
 ◇「不審者に気を付けて」…でも不審者って?
 ◇危険を見分ける「三つの距離」
 ◇「断り方」や「ノーランドセル」も教えよう
 ◇危険の予測と安全確保の行動をセットで
 ◇子どもに安全力と安心感を

「不審者に気を付けて」…でも不審者って?

 「不審者や知らない人に気を付けて」という言葉は、大人が子どもに注意喚起をする際に使う定番のフレーズです。

 ですがもし、子どもに「不審者ってどういう人?」と聞かれたら、答えることはできるでしょうか。また「知らない人」とは、どこまでを指すのでしょう。毎朝あいさつをする地域の方は警戒するべき「知らない人」でしょうか。

 子どもを誘拐しようとする人物に決まった特徴はありません。例えば黒い服やサングラスを身に着けていたり、怖そうな顔をしていたりしても、その人が悪意を持っているとは限りませんね。大人でも遠くから見ただけでは悪意を見抜くことは困難です。さらに、子どもたちは普段、友だちとワイワイ話しながら歩くことが多いため、なおさら危険の察知は難しくなっています。

 実際に子どもが悪意を持つ人の違和感に気付くことができるのは、相手との距離がおよそ1~2メートルほどになった点なのです。つまり、話をするような位置関係になってようやく、相手の言動に対する違和感や恐怖心を抱き、逃げるかどうかの判断を始めることになるのです。

 だからこそ、子どもたちへの注意喚起は「不審者に気を付けて」だけでは不十分です。危険離脱のコミュニケーションとして相手との距離感や、危険だと察知した後の対応、具体的には「声掛け」への対応の仕方などが重要になってきます。

危険を見分ける「三つの距離」

 1~2メートルほどの距離にいる人物全てに気を配ることは、現実には困難です。ですから、子どもには、見掛けや服装、知り合いかどうかの「人」ではなく、自分に向けられた「行為(=こと)」で判断しようと伝えましょう。

 子どもに分かりやすく伝えるために、筆者は、米の文化人類学者エドワード・ホールの概念「パーソナルスペース」に基づいて、「じぶんのふうせん」というイメージを用いることを提唱しています。「じぶんのふうせん」とは、自分の体をすっぽり包み込むような心地よい空間です。

 同意なく「ふうせん」の境界を超えて接近されると、人は「イヤだ、ヘンだ」と不快感を覚えます。そのため、人は自然に相手との関係性や状況に応じた距離を保とうとします。一般的にはどんな相手であっても相手との距離を尊重するのはマナーでもあります。

 それにも関わらず、「ふうせん」に接近して移動を伴う声掛けをする、ランドセルをつかもうと手を伸ばすなどの行為をされて、「イヤだ、ヘンだ」と感じたなら、それは危険である可能性があります。服の色や知り合いであるか否かにとらわれずに、その場から速やかに離れて、相手との距離を確保するように、と教えてください。

 この距離をより具体的に子どもに理解させるには、手をつなぎ腕の長さを使って、人と人との間の3種類の距離を教えましょう。一つめは寄り添う親子の間、体の距離が0~45センチの「ぴったり距離」。お友達なら、45~75センチくらい空けた「ゆったり距離」です。初対面や目上の人とは、1メートル20センチ以上を空けた「きっちり距離」が取れると良いでしょう。大事なのは数字を覚えることではなく、腕を使って三つの距離の違いを理解したり、距離の目安として身に付けたりすることです。

「断り方」や「ノーランドセル」も教えよう

 誘拐は多くの場合、不自然な声掛けから始まります。その際の相手と子どもとの距離がおよそ1.2メートル(きっちり距離)です。ただ、「声掛け」の場面では子どもに迷いが生じ、ふさわしい行動ができない場合があります。

 子どもは「不審者に気を付けて」と教えられる一方で、道徳的な観点から、「人には親切にしよう」とも教えられます。例えば、道を聞かれた場合などでは、防犯的には一緒に行くのは良くないと分かっていても、相手が困っている声掛けに対して、道徳的に断れずに一緒に移動してしまうことがあります。「親切にしてあげたい」という気持ちが防犯との間でジレンマを感じさせ、依頼を断りにくくさせます。小学生の断りにくさを調べた調査では、自分が困っていることに対する声掛けでは35.1%、他人が困っていることに対する声掛けでは58.4%と、後者の方が断りにくいことが分かりました。

 親切にしてあげたいという思いも、あいさつなどの声掛けをしてくれる地域の大人との関係も、安全には大切なものです。そのためには、子どもの気持ちを大切にしながら自分の身も守ることができるように、悪意のあるなしは見た目では分からないのですから、相手に失礼にならないよう配慮した断り方もできるようにしましょう。いずれにしても、相手と一緒に移動しないことが基本です。

 相手に悪意があり、「じぶんのふうせん」に向けて行動を起こしてきた場合に備え、逃げる方法についても、あらかじめ教えておきましょう。ランドセルはそれ自体が重く、中に教科書などを入れると重さは3~4キロになります。その上、近年ではタブレットを入れることさえあります。大人から逃げやすくするには、少しでも体を軽くすることが重要です。自分の命を守る時には、大事なランドセルや手荷物を手放し「ノーランドセル」になって、自分の体だけで逃げることが大切です。

 「ノーランドセル」になることで、10秒間に3メートル遠くへ移動できるケースが確認されました。いざという時に実行できるよう、親子で練習をしてみると良いでしょう。

 そして、一緒に通学路を歩き、「こども110番」のプレートがある商店やクリニック、事業所など、駆け込み先の確認をしてください。緊急場面で突然駆け込むのは子どもにとって、とても難しいことです。言葉だけで「何かあったら駆け込んでね」と言い含めるだけでなく、親子で店内に入り買い物などをして、子どもに慣れさせる体験も重要です。

危険の予測と安全確保の行動をセットで

 子どもの安全のために通学路を一緒に歩く時は、誘拐だけでなく、交通事故や、地震など自然災害の想定もしてください。いつも親子で歩いている道であっても、子ども一人で歩く時や、災害などを想定すると、異なる危険が見えてきます。

 例えば、地震を想定しながら歩いてみると、地震の際に倒れそうな古いブロック塀、自動販売機、ガラス窓の多いビルがあることに気付きます。普段歩いている道でも、災害時には危険な道になることがあります。

 交通事故防止の観点で見て、自転車や自動車が飛び出してきそうな曲がり角が多いこと、信号が変わるのを待つ位置にも危険があることに気付いてほしいと思います。

 例えば、交通3原則「止まる」「見る」「待つ」。「止まる」では、子どもは曲がり角で確認せずそのまま歩き進んだり、「待つ」時に自動車に巻き込まれやすい車道と歩道の境界線ギリギリに立って待ったり、「見る」をしているつもりでただ左右に首を振っているだけだったりすることが多いのです。また、3原則にプラスして、「渡る」時には、青信号でも赤信号のつもりで、ドライバーさんとアイコンタクトをし、今から渡ることを伝えて、渡り終わったら軽く会釈して感謝を伝えましょう。そして速やかに歩道から立ち去ります。

 危険を見つけたら、「ここは危険だから気を付けて」というだけでなく、ガラス窓の多いビルの下にいたらランドセルや手荷物で頭を守ってビルから離れること、「待つ」時には境界線から子どもの足で1~2歩下がったところで待つことなど、「危険予測」と「安全行動」をセットにして教えてください。

 道路交通法は改正されることがありますので、確認が必要です。自転車のヘルメット着用は、2023年4月から全ての人を対象に努力義務となります。運転者、同乗者ともかぶるよう努めなければなりませんし、保護者は、幼児・児童が自転車を運転する時はヘルメットを着用させるように努めなければなりません。

 警察庁によれば、自転車の事故でヘルメット未着用の場合、死亡する確率は着用時の2.2倍にも高まります。子どものうちから、自転車は必ずヘルメットをかぶって乗るものだと習慣づけ、大人も自ら手本を見せていきましょう。

子どもに安全力と安心感を

 これから一人歩きを始める子どもたちには、街中に危険がたくさんあると教えるだけでなく、危険は予測できるし、対応できるということを教えましょう。自分の身を自分でも守れるようにすることが安全教育では重要です。また、地域には子どもを見守ってくれる人がいること、困った時には自分だけでなく他の人の力を借りても良いのだということを伝えてください。あいさつやお礼も言えるようにしておきましょう。

 子どもには、安全力とともに、安心感を持たせて学校へ送り出したいものですね。


宮田美恵子(みやた・みえこ) 順天堂大学協力研究員、日本女子大学人間社会学部客員准教授などを経て、NPO法人「日本こどもの安全教育総合研究所」を設立。 専門は安全教育、学校安全・学校保健、母子保健ほか。医学博士。子どもが被害者となる事件や事故の分析、保育園や学校の安全管理、0歳からの安全教育、障害のある子の安全教育、地域安全活動などについて、テレビ・ラジオ・新聞・雑誌などのメディアで解説している。 「学校安全のリデザイン~災害、事件、事故から子どもたちを守るために~」(学事出版) 、「クイズでたのしむ あんぜんえほん」(幻冬舎)、「うちの子、安全だいじょうぶ?新しい防犯教育」(新読書社)など著書多数。


イラスト出典:宮田美恵子著「うちの子、安全だいじょうぶ?新しい防犯教育」新読書社 イラスト追川恵子

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