東京都中央区の「築地場外市場」がにぎわいを見せている。水際対策の緩和や円安などを背景に、昨年末以降、インバウンド(訪日客)を中心に人出が増え続け、週末などには歩道からはみ出るほど大勢の人が押し寄せている。(時事通信水産部長 川本大吾)
鮮魚店や飲食店などおよそ460軒が狭いエリアにひしめく。もともと、旧築地市場に隣接する商業エリアとして発展。2018年に築地市場が江東区の豊洲へ移転したが、その後もにぎわいを絶やさぬようにと、「築地場外市場」の名称のまま営業を続けてきた。
市場の豊洲移転後、ここ数年は新型コロナウイルス流行の影響で閑散とした状況が続き、廃業する店も少なくなかった。昨年12月ごろからようやく、中国人をはじめとしたインバウンドを中心に場外市場を訪れる観光客が増加。コロナ禍以前の活気が戻りつつあると、関係者も胸をなで下ろしている。
観光客は豊洲より築地、なぜ?
なぜ場外市場は人気なのか。築地から移転した豊洲市場は、すし店などの飲食店以外に買い物ができるエリアが少なく、立体構造のため市場施設に入りにくい。また、豊洲は「銀座や新橋などからのアクセスが悪い」とこぼす観光客も少なくない。これらが要因となり、観光客は鮮魚などの買い物や飲食を楽しむエリアとして豊洲よりも築地を選んでいるようだ。
場外市場で人気のおにぎり店や牛丼店、ラーメン店などには最近、常に長蛇の列ができ、「コロナ禍以前の2倍くらい並んでいる」と場外市場関係者は言う。卵焼きを串に刺した「串玉」が人気の「山長」では、卵や資材の価格高騰のため、昨年までの1串100円から今年に入って150円に値上げした。それでも人気は衰えず、朝から行列が絶えない。場外市場の関係者によると「30分待ちが当たり前」だという。
鮮魚店などは、すし店など業務用の水産物を扱うことが多いが、最近では観光客にも自慢の魚介を味わってもらおうと、少量の刺し身を盛り付けたり、ハーフサイズの海鮮丼などを提供したりする店が目立つ。店先や併設された飲食コーナーで手軽に安く食べられるとあって、人垣が絶えない盛況ぶりだ。
高級魚を小皿や「ミニ丼」で
高級魚介を料理店などに販売する斉藤水産は、クロマグロやクエ、ヒラメ、クエなど高級魚の刺し身を少量ずつ皿に盛って500円で販売。マグロの希少部位「ホホ肉」などが並ぶ日もあり、数種類のネタをシェアしながら味わうグループもいるなど好評だ。
斉藤水産の店主は、「毎日、上質な魚介を仕入れて、料理店向けに魚を卸している。外国人などの観光客もせっかく築地に来たのだから、日本のおいしい魚を味わってもらいたい」と、一般客向けのサービスにも意欲を燃やす。
一方、かつて築地市場でマグロの競り人を務めた店のスタッフが、現在は豊洲で目利きした魚介を提供する「あえや」も、プロ向けの魚介を販売する一方、高級なマグロやウニ、タイやアナゴなど多くのネタをちりばめたミニ海鮮丼を提供し、人気となっている。他の店では、マグロの刺し身や「漬け」、ウナギなどのミニ丼を提供し、1日数百食売れるという店もある。
スイーツ「マグロ焼き」も好評
魚介の焼き物も人気だ。たれを付けて香ばしい匂いを漂わせるイカの丸焼きや、ホタテ、カキ、カニ、エビ、アワビなどを注文に応じて焼き上げ、店先で食べてもらう店も増えている。
海鮮以外の変わり種では、「タイ焼き」ならぬ「マグロ焼き」を販売する「築地さのきや」も、連日大人気となっている。「築地らしいスイーツを」との考えから、マグロをかたどり薄くパリッと焼き上げた生地の中に、あんこやアンズ、カスタードクリームなどを詰めた菓子を提供する。
狭い路地に面した店には焼き上がりを待つ客が絶えず、「今年初めて整理券を配り、数十分待ってもらってマグロ焼きを提供している」と店主。あまりの人気に「材料がなくなり、閉店時間の午後3時以前に店じまいすることもある」とうれしい悲鳴を上げている。
SNSの普及も、築地場外市場の人気に拍車を掛けているようだ。SNSで一度火が付いた人気店の情報が拡散し、さらに人がやってくる。築地市場があった当時は、市場が休場の水曜日などは客足が衰えたが、移転後はほとんどの店が年中無休で営業している。今後も場外市場の人気は高まり続けそうだ。
(2023年3月20日掲載)