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日本の生カキ、カキフライが世界を目指す 海外輸出に求める活路【大漁!水産部長の魚トピックス】

2023年03月16日14時00分

 「海のミルク」と呼ばれ、栄養たっぷりのカキ。今年のシーズンは間もなく終わろうとしているが、国内消費の落ち込みによる苦境を打開しようと、広島県などの水産加工業者は新たな戦略で海外への輸出を進め、活路を見いだそうと懸命だ。(時事通信水産部長 川本大吾)

国内消費20年で半減、生産量は3割減

 総務省の家計調査によると、全国1世帯当たりのカキ消費量は2022年が421グラムで、2000年(921グラム)に比べ、半分以下に減少している。消費減の要因は、「かつてノロウイルスの食中毒が発生した時、カキが原因とされて敬遠されたことや、家庭の食事でフライや鍋料理を作って食べる機会も減っている」(カキ加工業者)ことが挙げられている。

 この間、カキの生産状況も芳しくない。農林水産省の調査によると、養殖カキの生産量は2000年が全国で合計約22万1000トンだったが、21年は約15万9000トンで、この間3割ほど減少している。

 今年の生産も「例年に比べ少なく、身の成長も良くない」と、広島県などの水産関係者は口をそろえる。海水温の上昇など海の環境変化に加え、近年は「カキの身を殻から外して出荷に備える作業員の確保が、新型コロナの影響などで難しくなっている」(加工業者)ことも、生産量減少の一因になっているという。

日本産カキが初めてフランスへ

 日本でカキは加熱用を中心に「むき身」にして流通させるのが主流。国内消費に加え、生産量も低調な中で、海外では生食によるカキ消費が旺盛なことから、各地の加工業者などは、殻付きの生食用カキの輸出にシフトする動きが目立つ。

 カキの扱い量日本一を誇る「クニヒロ」(広島県尾道市)は、生カキ需要が高い欧州への輸出を目指して準備を進めた。今年1月に同社の加工施設などが、農林水産省から欧州連合(EU)への輸出に必要な食品衛生管理の国際標準「HACCP(ハサップ)」に認定された。

 EUへの輸出基準はかなりハードルが高く、クニヒロの認定は初。これを受けて今年2月上旬、同社は殻付きのカキを冷凍してフランスへ輸出した。日本産カキが同国へ輸出されるのはもちろん初めて。解凍後は生食が可能で「日本のカキは粒が大きくおいしい」と好評だったという。

 これまで、中国や台湾、シンガポールなどにカキを輸出していたクニヒロ。同社の川崎耕平事業開発部長によると、「日本でカキの需要があるのは秋から冬だが、海外では年中食べる国も少なくない。冷凍ものは保存が可能なため、今後もフランスのほか、他のヨーロッパの国々にも生食可能な殻付きカキの輸出を増やしていきたい」と意気込んでいる。

 さらに、日本独自の食文化とも言われるカキフライについても、「世界的に需要は伸びている。中国などのアジア諸国のほか、欧州でも人気が出てきたため、衣を付けて揚げるだけにした加工品もたくさん輸出していきたい」(川崎部長)と話している。

うま味が多いカキをアジア、中東へ

 一方、宮城県の加工業者「ヤマナカ」(石巻市)は、同県を中心とするおよそ30の養殖業者の協力を得て、「収穫後の殻付きカキを、より生きの良い状態に保てる養殖法に取り組んでいる」という。

 このカキは、水深10メートルほどで行う通常の方法の養殖ではなく、潮の干満によって海面から出たり入ったりする「潮間帯」で、かごの中に入れて養殖する手法。大きさは一般的なカキの半分程度だが、「海面から出た時に外気や日に照らされるため、生命力が強く、うま味が多いカキに育つ」と同社の高田慎司社長は説明する。

 今年6月には、この方法で養殖開始から1年が経過したカキをマカオやアラブ首長国連邦(UAE)、シンガポールなどに輸出する予定。これまでの養殖のカキよりも高く売れるといい、生産者にとっても収入増につながるとして期待が高まっている。

 殻付きのほか「むき身」を含め、カキの輸出は東京・豊洲市場でも活発だ。仲卸を通じて、中国やシンガポールなどさまざまな国へ輸出されており、中でも兵庫県赤穂市の船曳商店が手掛けるブランドカキ「サムライオイスター」は、「身質とネーミングの良さでアジア諸国を中心に人気が高い」という。船曳商店は「国内への供給はもちろんだが、豊洲市場を通じて兵庫のカキを今後も世界にアピールしていきたい」と期待を込めている。

(2023年3月16日掲載)

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