野党各党は党首自らが「広告塔」となり、党勢拡大を目指した広報戦略に試行錯誤を重ねている。4月の統一地方選が迫り、年内の衆院解散・総選挙の可能性も取り沙汰される中、岸田文雄首相(自民党総裁)の一挙一動が連日ニュースに取り上げられるのと比べて野党の動きはかすみがち。アピール合戦の手応えはどうなのだろうか。(時事通信政治部 堀内誠太)
【目次】
◇元コック、料理店主に
◇目指すは「政界の池上彰」
◇硬派か軟派か
◇ 記者会見でバトル
【政界Web】前回は⇒元参院議員の「ワタミ」会長は政界をどう見るか 政治・財政改革で持論、岸田首相の評価は?
元コック、料理店主に
「粗塩持ってきて!(傷に)こすり込む用の粗塩!」。日本料理店の「大将」に扮(ふん)した日本維新の会の馬場伸幸代表(58)。客として訪れた維新議員が過去に県知事選で落選した経験を明かすと、こういじった。
2022年11月、維新は独自のネット動画「こちら赤坂 馬場食堂」を始めた。馬場氏が、維新議員と酒を飲みながらカウンター越しに対談。「わし、維新のファンやねん」などと大阪弁で政治談議に花を咲かせる。
同年8月、第3代の代表に就任した馬場氏は統一地方選で600議席獲得を目標に掲げ、進退を懸ける。課題は知名度向上だ。前身の政党を創設した橋下徹元大阪市長、前代表の松井一郎大阪市長と比べると全国的な認知度はまだ低い。
馬場氏は政界入り前、現在のロイヤルホールディングス(福岡市)が展開するレストラン「ロイヤルホスト」のコックとして働いていた。料理好きで庶民的な人柄を知ってもらうことが広報戦略の狙いだ。
「馬場食堂」では馬場氏の地元・堺市の名物料理という「草鍋」も提供。本人が調理したものの、食材は「お取り寄せ」とあけすけに語った。
維新幹部は馬場氏を「いい意味で『普通のおっさん』。地べたで生きてきた政治家であることを伝えたい」と話す。別の幹部は「何かして目立たないといけない」と意気込むが、政党支持率は伸び悩む。統一地方選後に向け、新たな企画も検討中だ。
目指すは「政界の池上彰」
政界屈指のネット発信力を自負するのが国民民主党の玉木雄一郎代表(53)。動画投稿サイトのユーチューブ「たまきチャンネル」の登録者数は約15万人。10万人を突破した投稿者に贈られる「銀の盾」を持つ本格的ユーチューバーだ。
チャンネル開設は18年7月。「これからはテキスト(文章)よりも動画での発信」と狙いを定めた。「話題の政治用語解説」と「街に出て国民の声に耳を傾けること」が番組の二本柱だ。
動画投稿は週2~3回。最近は、政府の23年度予算案に反対した理由や、首相のウクライナ訪問の可能性を説明した。30秒から1分程度と、通常よりも短い「ショート動画」も多用する。
情報発信で重視するのは「分かりやすさ」。「(政権への)対決も提案も大切だが、その前提として『解説』がなければいけない」。周辺は「政界の池上彰を目指す」と語る。党関係者は「街頭演説の聴衆が増えた」と手応えを感じるが、40代以上の支持率低迷が悩みという。
硬派か軟派か
「批判を受けそうで…」。立憲民主党の泉健太代表(48)は自身の冠ネット番組「泉健太トークセッション」で、ツイッターでの「軟らかいネタ」発信を求められると、苦笑いで答えた。
番組は隔週で配信され、泉氏と司会者が国会での論戦テーマを深掘りする真面目な内容。防衛費増額を巡る首相と自身の国会論戦を振り返った配信では視聴者数が3000人に達した。
ツイッターも岸田政権の少子化対策を厳しく批判するなど硬派な投稿が中心だ。
一方、記者団とのやりとりは、駄じゃれも交えた発信が目立つ。首相の答弁姿勢を「からっきしだ」と酷評。政権の看板政策である新しい資本主義を、ふわふわした軽い食感のケーキを連想させる「シフォン主義」と表現。会見場に微妙な空気が流れることが多い。党関係者は「ギャグは泉氏が一人で考えている」と明かした。
国会での憲法改正議論に積極的な維新の馬場代表に対し、泉氏が競馬用語になぞらえて「(走りにくい)重馬場であってほしい」と注文を付けると、維新側の猛反発を浴びた。
立民中堅は「いまはリスクを恐れず、前に出て行く」と攻めの発信を求める。だが、泉氏本人は「重馬場」発言で懲りたのか、その後、駄じゃれの活用は控え気味だ。
記者会見でバトル
野党党首が開く定例記者会見は重要な情報発信の場だ。記者クラブに所属しないフリージャーナリストなども幅広く参加できることが多く、与党幹部の会見に比べて門戸が広い。時に激しい発言が飛び出すこともある。
共産党で党首公選制を訴えた元党職員の除名処分を巡り、朝日新聞、毎日新聞、産経新聞が批判的な社説を掲載すると、志位和夫委員長(68)は会見で「党運営に対する乱暴な攻撃だ」と強く反論した。統一地方選を前に、地方議員などからは党のイメージダウンを懸念する声が漏れた。
NHK党の党首だった立花孝志氏も週1回、定例会見を開いていた。党首辞任と「政治家女子48党」への党名変更を発表した8日の会見が最後となった。
(2023年3月10日掲載)