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山川穂高、10歳から憧れていた最高峰の舞台 冷静さと「フォア・ザ・チーム」胸にWBCへ

2023年02月23日16時00分

 10歳で野球を始めた頃から抱いていた憧れがある。日の丸を背負って戦う最高峰の舞台だ。プロ野球西武の山川穂高内野手(31)が、念願かなってワールド・ベースボール・クラシック(WBC)代表に選ばれた。「最大のライバルは中国。(力の)温存はしない」。3月9日に日本が1次リーグB組の初戦で対戦する相手を挙げ、先を見過ぎる風潮にくぎを刺すかのように気を引き締める。明るい性格で、冷静さを併せ持つ長距離砲。その打棒を発揮する場面に向けて、着々と準備を進めている。(時事通信運動部 岩尾哲大)

 通算218本塁打のスラッガーは昨季、3度目の本塁打王(41本塁打)と初の打点王(90打点)の2冠に輝いた。「本塁打は狙って打つもの。狙っていない人はいない」が持論だ。「一番いいスイングをして、一番いい当たり方をしたら、本塁打になる。芯付近で一番きれいに当たった時は、バックスクリーンへ飛ぶ。これが100点のバッティングだとすれば、まずは100点を目指すじゃないですか。100点を目指した上で、50点だったのか、60点だったのか決まってくる」。豪快な打撃の裏には確固たる根拠、信念がある。

 一方で「ヒット狙いの方がミートをしやすいから、結果的にホームランになりやすいと言う人もいる」と話すように、他の考え方を拒むわけではない。これまでの経験上、自身は「ミートが先に入ると打球が上がらない」という傾向が分かっているから、フルスイングを心掛ける。「汚く打つのも形」と言い、打撃練習の中ではタイミングが外れた場面を想定し、あえて体勢を崩した状態でも強振することを意識付ける時間帯もある。

左足を上げる自分のスタイルで

 米国やドミニカ共和国などとの対戦が決まれば、大リーグの投手と相対することになる。一般的にメジャーで活躍する投手は小さいテークバックで快速球や鋭い変化球を投げてくる。それに対応するため、かつてイチロー外野手は日本で一世を風靡(ふうび)した振り子打法をやめ、大谷翔平選手(エンゼルス)もノーステップ打法を試みるようになった側面がある。

 右打者の山川は、左足を比較的高く上げて踏み込むタイプ。海外の一流投手に苦戦するのでは、との見方については「上げないで打てるなら一番いい。ただ(自分は)上げないと間合いがつくれないと気付いた」。2020年は足の上げ幅を小さくするフォームに改造したが、翌シーズンも含め数字が落ち込んだ経験も踏まえて「直した方が打てない」と言い切る。山川が今季に向け、練習で取り入れているのが風船。プーッと膨らませて腹圧を高めてからバットを構えると「手(の位置)が決まる」と説明する。おなかへの意識を高めることで「構えの段階の気持ち悪さ」がなくなり、フォームが安定するという。

 WBCを経験し、大リーグでも活躍した西武の松井稼頭央監督とは、メジャーの投手らが操る小さく動く球(ムービングファストボール)について会話をしたという。「日本でもそういう(球を投げる)人が増えているよね、という話になった。見てもいないのに(自分の打撃を)変えることはないので、まずは対戦しながら成長していくというか、ステップアップしていかないと」。まずは、自分の打撃スタイルでぶつかっていく考えだ。

「レギュラー争いとは違う」

 今回の日本代表「侍ジャパン」で、一塁手を本職とするのは山川のみ。右の大砲として掛かる期待は当然大きい。ただ、他の選手を見渡せば、ともに本職が二塁手の山田哲人内野手(ヤクルト)や牧秀悟内野手(DeNA)、三塁手の岡本和真内野手(巨人)らも一塁で起用される可能性はある。場合によっては、セ・リーグ三冠王の村上宗隆内野手(ヤクルト)も一塁を守ることがあるかもしれない。

 山川は「当然(試合に)出たい」と言う。その一方で「チームのレギュラー争いとは違うと思っていて、そこはたぶん、バランスじゃないですか」と落ち着いて構えている。「例えば(山田)哲人がファーストでも、くそって思うかと言ったらそんなに思わない。『じゃあ代打に徹しよう』ってそこで思う」。打順にもこだわりはない。フォア・ザ・チームの精神を根底に持って、世界一を目指す一員となる。

会話は全部自分から

 侍ジャパンは日米から集まる30人の精鋭だが、大谷ら遅れて合流することになる選手もいる中、一つのチームとして短期間で成熟する必要がある。柔軟に持ち味を発揮しようと心掛ける山川が果たす役割は大きくなるかもしれない。「小学生ぐらいの頃から、会話は全部自分から起こすものと思っている。人とどうやったら仲良くなれるのってなったら、こっちからしゃべり掛けないと」というほど社交的な性格だ。

 西武の球団施設での自主トレーニングでは、山川に師事する西川愛也外野手に加えて、現役ドラフトで阪神から加入した陽川尚将内野手と一緒に体を動かした時間もあった。同い年でもある陽川は「タイトルも取っているし、同じ右バッターとしていろいろ聞いて、一緒に練習できたのは刺激になった」と感謝した。

団結力もたらすムードメーカー

 ドラフト2位入団の新人、古川雄大外野手(大分・佐伯鶴城高)には、使っているサングラスが自身が紛失した物と似ていたことをきっかけに、からかうように話し掛けた。18歳のルーキーが自らチームの主砲に声を掛けることは難しい。それを見越して、山川は「こっちからきっかけをつくってあげた」と話す。古川は「本当に優しくしてもらった。これから、バッティングのことも 聞きたいし、聞きやすくなった」と喜んでいた。

 山川は「僕みたいなタイプって、ジャパンに行ってもこんな感じでしゃべれる」。人懐こい笑顔を見せる強打者は、本塁打を放った後にベンチ前で見せるパフォーマンスなどでも知られるムードメーカーだ。豪華メンバーが集結した侍ジャパン。山川の存在は攻撃力だけでなく、世界一を懸ける短期決戦でチームに不可欠な団結力をもたらすだろう。

(2023年2月23日掲載)

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