会員限定記事会員限定記事

東証プライム上場企業に明暗 市場見直し1年、基準未達の社も【けいざい百景】

2023年02月15日12時00分

 2022年4月に東京証券取引所が実施した市場区分の見直しから1年近くが経過した。旧1部市場から最上位プライム市場に移る企業が多く、東証は「流通株式時価総額100億円以上」や「流通株式比率35%以上」などのプライムの上場維持基準に適合していない企業にも猶予を与える経過措置を導入した。しかし、今年1月、この経過措置を25年3月から順次打ち切ることが決まった。経過措置によるプライム残留組には既に基準をクリアした企業がある一方、届かないままの企業も多く、明暗が分かれている。(時事通信経済部 伊藤一馬)

「本業」を組み替え

 22年の1年間で株価が5.3倍となったパチンコ・パチスロ販売大手の円谷フィールズホールディングス(旧社名フィールズ)は、21年6月時点では流通株式時価総額が87億円台の経過措置対象企業だった。

 同社の畑中英昭上席執行役員は「われわれとしてはプライム一択でした」と振り返る。以前から「すべての人に最高の余暇を」を企業理念にコンテンツビジネスを成長戦略の柱に据えていた。前期(22年3月期)には、傘下の円谷プロダクションをはじめとした「コンテンツ&デジタル事業」を、遊技機と並ぶ中核事業に位置付ける方向が固まった。そして、22年5月には山本英俊社長が製作代表となった映画「シン・ウルトラマン」がヒット。テレビや動画配信サービスなどへのウルトラマンの新作提供にもつながった。10月には持ち株会社体制に移行し、現在の社名となった。

 持ち株会社移行に伴う本業の組み替えと東証の市場再編が相乗効果となり、投資家の評価は著しく向上した。畑中氏は「事業の順番、見え方を変えた。経営体制として考えた場合に持ち株会社がベストと判断した」と語る。プライム市場残留を意識した見直しではなかったものの、結果的に上場維持基準を満たすことになった。

 戦後に印刷会社として創業し、ゴルフなどスポーツ分野での知名度は高い広済堂ホールディングスも経過措置によりプライム市場に上場し、流通株式時価総額の引き上げに成功した企業だ。21年10月に持ち株会社に移行、今では中国系資本が大株主となっている。

 野口泰伸社長室次長によると、財務基盤の安定化を目指した中期経営計画が早期に達成できたため、22年5月に成長に向けた新たな中期経営計画をまとめた。印刷事業が斜陽化する中、子会社の東京博善を中心とした葬祭関連事業を新たな成長ドライバーに位置付けた。新中計で成長を目指す姿勢を明確にし、「(投資家の)皆さんの投資機会が増える」と期待も込めてプライム市場を選んだという。

 東京博善は1990年代に広済堂ホールディングスの前身企業の傘下に入り、20年に完全子会社となった。東京23区にある火葬場9カ所のうち6カ所を運営。東京で死去した人は高い確率で東京博善の火葬場を利用することになる。当記事の筆者も2月に亡くした実父の火葬を東京博善の堀ノ内斎場(杉並区)で行った。

 燃料費の増加に合わせて料金を調整する仕組み(サーチャージ型料金)も新たに導入した。東京以外の公営の火葬場と比べて火葬料金が高いという批判もあるが、野口氏は「燃料費が高騰したことでサーチャージを導入した。関係者から算出根拠が不透明という批判があり、今年1月には計算式も公表した」(野口氏)と理解を求める。

 広済堂ホールディングスは22年度の中間決算から復配し、株式市場で「株主還元で頑張っている」(中堅証券)と受け止められている。22年3月時点で株価は800円前後に低迷し、流通株式時価総額が83億円、流通株式比率が34.9%と二つの項目が未達だったが、今年2月時点で株価は2000円前後に上昇している。流通株式比率の引き上げに向けて大株主の金融機関に売却するよう打診しており、現時点で上場維持基準の達成は「見込みとして問題ない」(野口氏)状態にあるようだ。

コスト高で足踏み

 一方、経過措置によりプライムに残留したものの、業績が伸び悩み上場維持基準に未達の企業も多い。

 ストッキング大手のアツギは21年6月時点で株価は600円台で、流通株式時価総額は71億8000万円とプライム上場維持基準に達していなかった。21年12月に製品リニューアルやオンライン販売強化、基幹工場のアツギ東北むつ事業所(青森県むつ市)の閉鎖などで収益力を高める計画書を公表したが、今年1月には23年3月期も連結純損益が14億円の赤字となる見通しを公表し、株価は400円を割り込み低迷している。

 22年6月に社長に就任した日光信二氏はプライム市場への上場を決めた理由について「スタンダード市場も検討したが、アツギはストッキングのリーディングカンパニーだ。肌に対しての心地良さから心を豊かにし、そこから社会に貢献していきたい」と語り、業界のけん引役としてプライム市場がふさわしいとの考えを示した。

 中国山東省の自社工場に比べて3割ほどコスト高だったむつ事業所を閉鎖し、国内生産は協力工場への委託に絞った。中国でも政府主導による立ち退きに伴い新設する工場に約30億円を投資し、省人化を進める計画だ。

 しかし、日光社長は「今期は利益が出るともくろんでいたが、円安進行、原材料や原燃料の高騰、物流費や人件費の上昇と外部環境による収益悪化が激しかった」と振り返る。技術力を生かし、女性が生理期間に快適に過ごせるようにするフェムテックウエアの強化やオンライン販売の拡大、製品の値上げ、業界全体の課題である物流の合理化などで「できるだけ早く黒字にしたい」と強調した。

 大阪に本社を置く大末建設は21年6月時点で流通株式時価総額と1日平均売買代金がプライム市場の基準に達していなかった。同年11月に、23年3月期以降は配当性向を50%以上にすると発表したことで株価は急騰し、22年半ばには一時1600円台まで上昇した。同年9月末時点には流通株式時価総額が99億9000万円に達した。

 しかし22年10月、鋼材や合板などの建設資材の高騰を理由に業績予想や配当予想を下方修正し、株価は伸び悩んでいる。村尾和則社長は個人投資家向け会社説明会で「今後は業績の回復を最優先に経費削減にも取り組み、利益の確保、株価向上に努めていく」と述べた。

基準適合企業は少数派

 東証によると22年4月時点でプライム市場の経過措置適用会社は295社だったが、同年12月末では269社と小幅減にとどまった。この間、41社が基準を達成したが、新たに不適合となった企業も15社あった。

 大和総研の神尾篤史主任研究員は、経過措置の適用でプライム市場に残った企業の基準達成に向けた計画書について「実現可能性が見えないところは市場の評価も厳しい」と指摘する。成長戦略を定性的に示すだけでなく、本業で得た現金を株主還元や投資に配分する方針を数字で具体的に示すなど、基準達成の根拠を示した企業の計画書を高く評価している。

 株価の上昇には企業業績の向上は必須で、さらに株主還元の強化と、その企業への投資を投資家に促す触媒が必要となる。経過措置でプライムに残留したものの株価が上がらない企業には、引き続き基準達成を目指すか、基準が緩く審査なく移行できるスタンダードに上場先を切り替えるかの選択が迫られることになる。

(2023年2月15日掲載)

けいざい百景 バックナンバー

話題のニュース

会員限定

ページの先頭へ
時事通信の商品・サービス ラインナップ