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「異次元」の少子化対策、問われる本気度 働き方改革、今度こそ?【けいざい百景】

2023年02月01日12時00分

 年明け早々、岸田文雄首相が「異次元の少子化対策」に乗り出すと表明した。1月下旬に始まった国会論戦では「児童手当」を巡る所得制限が注目を集めているが、育児休業制度の見直しといった働き方改革推進も重要な柱の一つだ。男女が子育てをしながらキャリアを築くのに不可欠な働き方改革は、議論が繰り返されてきたが、大きな成果を生んだとは言い難い。首相の異次元対策は少子化の歯止めとなり得るのか。子育て世代は、対策の具体策と首相の本気度を切実な思いで見極めようとしている。(時事通信経済部 高橋銀太郎)

「これ以上放置できない」

 「少子化の問題は、これ以上放置できない、待ったなしの課題だ」。首相は1月上旬、年頭記者会見や経済関係者らが集まる新年互例会のあいさつで繰り返し強調した。

 1971~74年の第2次ベビーブーム以降、出生数は減少基調をたどっているのは周知の通りだ。73年、209万1983人だった出生数は、48年後の2021年には約4割の81万1622人まで落ち込み、過去最少。22年もこの傾向は続き、80万人を初めて下回ると予想されている。首相は1月23日の施政方針演説で「社会機能を維持できるかどうかの瀬戸際と呼ぶべき状況」と強い口調で危機感をあらわにした。

 政府は昨年12月、少子化対策や医療制度を支えることを目的とする提言を盛り込んだ「全世代型社会保障構築会議報告書」をまとめた。少子化対策では子育て世帯への経済的支援や、仕事との両立を後押しする仕組みの構築を強く要請。残業免除などの長時間労働の是正、時短勤務やテレワークなどを組み合わせた柔軟な働き方や育児休業の取得促進などに関して「(2023年中に)早急に具体化を進めるべき項目」と位置付けた。

 関連する制度改正の動きは加速するとみられ、首相が「異次元対策」と打ち出したことでこれを後押しするとの期待が高まっている。

アフターコロナ、募る不安

 都内の企業に勤める30代の女性は今春、2人目の子どもの育休から職場復帰する予定だ。当面は短時間勤務で仕事と子育てを両立させようと考えているが、「時短勤務の対象でなくなった途端に、夜遅くまで残業させられそうだと不安を募らせている。

 育児・介護休業法は、子どもが3歳になるまで、従業員が申し出れば企業は残業させてはならないと規定し、1日原則6時間の短時間勤務制度を設けることも企業に義務付けている。

 この女性の勤務先は国が示す基準よりも長期の時短勤務を認めているが、慢性的な人手不足が続く。新型コロナウイルス感染症で一時停止した社会機能が徐々に回復し、経済活動が再開に向かって動く中、職場では忙しさが増しているとの情報も耳に届く。

 「職場復帰しても周囲が仕事をしている中、自分だけが定時で帰れるのだろうか」と、復帰後の不安は膨らむ。

男性の育休、14%

 育児休業は、育児・介護休業法で定められた制度であり、子どもが1歳になるまで、男女ともに仕事を休むことができるよう定められている。保育所に入所できないといった事情があれば、2歳になるまで期間を延長できる仕組みもある。

 しかし、取得率は今なお男女間で大きな差がある。女性の取得率はここ数年、80%台で推移しているが、男性の取得率は上昇傾向を示しているとはいえ、21年度は13.97%。女性の水準とはかけ離れており、そのギャップは長年の社会課題だ。

 関西地方の企業に勤める30代の男性は、5~8歳の4人の子を持つが、育休を取得することはなかった。理由は「長期間の育休取得には会社側が難色を示しかねない上、経済的に苦しくなると懸念した」から。また、「数日くらいしか休めないのあれば、あまり意味はない」とも考えた。国の少子化対策については「夫婦が共働きしすくなる制度にしてほしい」と語った。

ハレーション生むほどの政策を

 育児休業の仕組みの整備が進む一方で、企業や職場の意識はそれほど変わっていない。政府関係者は「男女ともに正社員として働きながら、子育てと両立できるようにしないといけない。育休は女性だけの制度だと勘違いしている企業もある」と、意識改革の難しさにため息をつく。

 首相は1月下旬に始まった通常国会で、児童手当の拡充に加え、結婚するカップルへの住宅支援策や教育負担の軽減策にも前向きな姿勢を表明した。だが、働き方改革の具体策は依然見えない。

 少子化対策を話し合う与党の会合でも、働き方を巡る具体的な議論は乏しかったという。ただ、会合に出席した議員は、取材に対し「企業に行動変容を促す仕組みが必要だ。ハレーションを生むくらいのことをしなければならない」と、今後の政策に注文を付けた。

 政府は1月中旬、「異次元の少子化対策」の実現に向けた会合をスタート。議論の内容は6月にも閣議決定する経済財政運営の基本指針「骨太の方針」に反映させる予定だ。政府関係者からは「出てくるメニューは、そんなにすごいものではないかもしれない」と早くも予防線を張る声が聞かれるが、既に「異次元」の表現は独り歩きを始めている。先行する期待にどう応えるのか、時間はそれほど残されていない。

(2023年2月1日掲載)

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