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共産党員が志位長期体制に決起 議席半減の22年【解説委員室から】

2023年02月09日07時00分

 現役の共産党員・松竹伸幸氏が党首公選を求める著書「シン・日本共産党宣言」(文春新書)を出版し、記者会見で、在任期間が22年を超える志位和夫委員長(68)の体制を「国民の常識」の観点で問題視した。これに対し、同党は「重大な規律違反」として、松竹氏を除名。実は、志位委員長下で同党は、衆参で議席を半減させており、まさに「退潮の22年」。改革を求める党員の決起に、長期体制が揺れている。(時事通信解説委員長 高橋正光)

【目次】
 ◇党首公選を否定、憲法判断「使い分け」
 ◇党規違反で除名、地方議員が異議
 ◇国民の審判、進退に直結せず
 ◇統一地方選に全力
 ◇来年1月に大会、世代交代焦点

党首公選を否定、憲法判断「使い分け」

 松竹氏が著書で、党首公選を求める理由の一つに挙げているのが、「安保・自衛隊問題で論争がない」こと。綱領や規約、志位氏の発言などによると、共産党は「自衛隊=違憲」とし、「憲法9条の完全実施(自衛隊解消)」を目指すものの、解消の時期はあくまでも、同党が参画する「民主的政権」の下、国民の圧倒的多数が「なくしても安心」と合意した時。党としては「自衛隊=違憲」だが、参画する政権の下では一定期間「自衛隊=合憲」の立場をとる。また、この間に日本有事となれば、「自衛隊を活用」して国を守るとしている。

 松竹氏は著書で、こうした方針について「党と政権を使い分けるとの志位氏の提起は、形式論理としては成り立っても、あまりにご都合主義的で国民の理解は得られない」と断じている。その上で、採用すべき基本政策として、米国の核抑止には頼らず、通常兵器による抑止にとどめる「核抑止抜きの専守防衛」を唱える。日米安保条約と自衛隊の堅持が前提だ。

 また、1月19日の記者会見で、志位氏の長期体制について「国民の常識からかけ離れている」と指摘した。

 これに対し、同党は1月21日の「しんぶん赤旗」に、藤田健編集局次長の論文を掲載。党首公選について、規約に明記される「党の意思決定は、民主的な議論をつくし、最終的には多数決で決める」「党内に派閥・分派はつくらない」という民主集中制の組織原則と「相いれない」と反論。「核抑止抜きの専守防衛」に関しても、「日米安保容認、自衛隊合憲の党への変質を迫る議論」への迎合だと批判した。志位氏は「赤旗の論説に尽きる」などとして、松竹氏の主張へのコメントを避けている。

党規違反で除名、地方議員が異議

 そして、同党は2月6日、著書での主張や記者会見などでの発言が「重大な規律違反」に当たるとして松竹氏の除名処分を決定。小池晃書記局長は記者会見で「(党の各機関に意見を述べられる)権利を行使することなく、突然攻撃してきた」と述べ、処分の妥当性を強調した。

 除名処分を受けた松竹氏は同日、日本記者クラブでの会見で「憲法で保障された言論、表現の自由が、共産党には認められていないに等しい」と指摘。規約に基づいて再審査を求めて行く考えを明らかにした。

 もっとも、党首公選を求める本を出したのは、松竹氏だけではない。党歴60年の鈴木元氏も1月に「志位和夫委員長への手紙」(かもがわ出版)を出版。志位体制下の党勢退潮を指摘した上で、「少なくない党員から、その責任を問いただし退陣を求めるとともに、他の党と同様に党首を全党員参加によって選出すべきだとする要望・意見が出されていますが、まったく聞く耳持たずの対応を行ってきました」として辞任を要求。統一地方選勝利のため、党首公選など「改革の方向性」を示すことを唱えている。

 同書は、鈴木氏が志位氏ら宛てに書いた手紙をそのまま掲載している。党首公選を主張しながら、処分の対象にならないのは、手紙の形で、党内で意見を言う権利を行使しており、規約が定めた手順を踏んでいることが考慮されたと思われる。

 松竹氏の除名を受け、新たな動きも起きた。同党の味村耕太郎・神奈川県藤沢市議はツイッターで「統一選に向け大打撃なのわかってますかね」「(松竹氏と)より開かれた党にならなければいけないという問題意識は共有します。そういう問題意識すら受け取れないようなら次の100年はありませんよ」と処分に疑問を呈した。現職の地方議員が外向けに、党の決定を問題視するのは異例。志位長期体制への不満の広がりがうかがえる。

国民の審判、進退に直結せず

 志位氏は2000年11月の党大会で、委員長に就任。以来、15回の国政選挙(衆院選7回、参院選を8回)をトップとして戦っている。就任後、最初の衆院選(03年、定数480)の解散時勢力は20、参院選時(01年、定数252)の公示前勢力は23。これに対し、現在の勢力は衆院10(定数465)、参院11(定数248)。浮き沈みはあったにせよ、就任時と比べ衆院は半減、参院は半減以下。党勢の退潮に歯止めをかけられない状況だ。

 そもそも、議会制民主主義において選挙は、主権者たる国民が政治的な意思表示をする最も重要な場。議席や得票数の減少は、主権者からの信任の低下を意味する。国政選挙で敗北した党のトップが引責辞任するのは、こうした事情が大きい。

 自民党では宇野宗佑内閣(1989年)、橋本龍太郎内閣(98年)が参院選敗北を受けて退陣。21年10月の衆院選で、共産党と「限定的な閣外からの協力」で合意した立憲民主党の枝野幸男代表(当時)は14議席減の敗北を喫し、引責辞任した。公明党の太田昭宏氏も09年の衆院選で、自身も含めて小選挙区で全滅、代表を辞している。

 一方、共産党は前回衆院選、昨年7月の参院選で、いずれも2議席減らしたが、志位氏は続投。「国民の審判」を受け、トップが交代したことのない唯一の党だ。「唯一」という点では、政党交付金を受領していないのも共産党だけ。

統一地方選に全力

 また、トップ在任22年超は、他国の共産党と比べても異例の長さだ。「停滞の時代」とも言われる旧ソ連のブレジネフ書記長は現職のまま1982年に死去、在任18年でアンドロポフ氏に交代したが、これをも上回る。チェルネンコ氏をはさみ、改革派のゴルバチョフ氏が書記長に就いたものの、91年に旧ソ連は崩壊した。

 日本共産党は2~3年に1回、党大会を開催しており、前回大会は20年1月。志位氏は昨年8月の中央委員会総会で、今年4月の統一地方選の重要性を理由に、次回は24年1月に延期することを提案、了承された。

 志位氏は1月26日の記者会見で、統一地方選に進退を懸ける覚悟があるかを問われ、「今、統一地方選の前進、勝利のために全力を挙げている。それ以上のことはない」と述べるにとどめた。日本維新の会の馬場伸幸代表は昨年8月に就任するや、統一地方選で目標(地方議員数を1.5倍の600人に増やす)を達成できなかった場合の辞任を表明しており、対照的だ。

 松竹、鈴木両氏の体制批判は、党内に充満する閉塞(へいそく)感の証しのようだ。小池氏は昨年11月の党の会議で、議員名を読み間違えたことを指摘、訂正した田村智子政策委員長に「威圧的な言動」で叱責したことがパワハラと認定され、「警告処分」を受け、自己批判に追い込まれた。

 1月には、千葉県委員会の書記長が県迷惑防止条例違反(盗撮)容疑で逮捕されて除名。今月2日には宮崎県都城市議が、酒気帯び運転の疑いで逮捕された。不祥事が相次いでおり、志位長期体制下でモラルの低下も垣間見える。志位氏ら執行部が、松竹氏を処分で最も重い除名としたのは、緩みが露呈した組織を引き締める狙いもあるとみられる。

来年1月に大会、世代交代焦点

 退潮傾向が続く共産党だが、明るい材料がないわけではない。前回参院選東京選挙区で、山添拓氏(38)が再選を果たし、選挙区唯一の議席を死守。得票数も伸ばした。前々回19年参院選東京選挙区でも、吉良よし子氏(40)が再選された。両氏に共通するのは若さとアピール力。これを「武器」に、得票につなげている。

 来年1月の大会は、志位氏の進退を含め、世代交代が最大の焦点だ。志位氏が続投、退任、どちらを選ぶのか。若手の抜てきはあるのか。志位氏がどう判断するにせよ、大事なのは統一地方選だ。

 議員数を増やし、退潮傾向に歯止めを掛けられるか?それとも、議員数を減らし、退潮傾向が続くのか?統一地方選でも後退すれば、松竹氏を除名した判断も問われよう。大会で志位氏が退任する場合、議員数が増えていれば、党外からは「花道」に、減っていれば「引責」に見える。

 一方、志位氏続投の場合は、結果が前者なら「大義名分」になるし、後者なら「何回も選挙に敗れても責任を取らない」(鈴木氏)志位氏への党員の不満は、さらに広がるだろう。その意味で、志位氏にとって統一地方選の結果は、決定的に重要と言えそうだ。


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(2023年2月9日掲載)

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