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ドローン、過疎地配送や災害地支援に力 有人地帯上空飛行が解禁

2023年02月09日12時00分

 ドローンと言うと、昨今のウクライナ情勢から軍事用を思い浮かべる人も多いのではないだろうか? いやいや、今、国内で関係者の熱い注目を浴びているのは、「モノを運ぶドローン」だ。昨年12月5日の航空法改正で、人がいる場所の上空での飛行(レベル4飛行)を行えるようになった。法改正で新設された、安全性を確認する「機体認証」と操縦ライセンスに当たる「技能証明」を取得した上で、飛行ごとに国土交通省の許可・承認を得る必要があるなど厳しい条件があるが、「レベル4解禁」でドローンを利用した荷物などの配送の本格化へ向けた道は大きく開かれた。

 これまで無人地帯の上空で「ドローン配送」の実証実験などを重ねてきた日本郵便と楽天グループに取材し、物流での活用の現状や将来像を聞いた。(時事通信編集委員 石井靖子)

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山間部の個人宅に郵便配達

 三重県熊野市の山がちな地域。市町合併前には紀和町役場があった地区にある郵便局から、山間部の孤立した集落に向け、ドローンが離陸した。できるだけ直線ルートを取りながら、山中や川沿いを約3キロ飛行。集落の個人宅に設置された箱に郵便物を投下した。昨年12月、日本郵便が行った実験の様子だ。郵便局から集落までは、車なら20分ほどかかるが、実験では約8分で配達が完了した。

 同社は2016年から郵便物などの輸配送業務へのドローン活用について検討を開始。23年度以降の「実用化」を目指している。

 ドローンの活用方法としてまず念頭に置いているのは、こうした孤立した地区や、民家が散在する山間部、そして離島への配送だ。熊野市のほか、東京都奥多摩町でも20年~22年、郵便局から個人宅への配送実験を実施。複数戸への配達や、配送ロボットなどと組み合わせた実験も行った。

 全国どこへでも郵便物や荷物を届ける「ユニバーサルサービス」の提供が宿命の同社。現在は、こうした「ポツンと一軒家」などにも、末端の集配郵便局(集配センター)から人がバイクなどで配達している。ただ、少子高齢化で人手不足の深刻化が予想される中、将来も現在のような配送網を維持できるのか。人が配達するのは、ある程度民家が集まっている地区や、無理なく配送ルートが引けるところに限定し、それ以外の場所についてはドローン配達という方法が取れれば、より少人数での対応が可能になる。また、熊野市での例のように、ドローンは「速い」。配達時間が短縮でき、受取人側にもメリットはありそうだ。

まずは郵便局間輸送

 「レベル4飛行なしに、ドローン配送の実用化はあり得ない」―日本郵便オペレーション改革部部長の西嶋優さんは、今回の航空法改正をこう歓迎する。

 これまでに行ってきた配送実験では、飛行ルートを完全な直線にすることはできなかった。過疎地でも、郵便局があるような場所には、周辺に民家や商店などがある。これらを避けるため、廃屋上空に回り込んだり、河川の上などのルートを飛んだりしてきた。レベル4飛行が可能になれば、より直線に近いルートが設定できる。

 また、実験は集配センターから個人宅への配送が中心だったが、実用化に向け同社が「最もやりやすい」と考えているのは、集配郵便局間の輸送だ。過疎地などにある「集配センター」には、もう少し人口規模の大きな地区の「集配局」から郵便物が運ばれてくるが、この間をドローンで結ぼうというのだ。

 ただ、これまで配送実験に使ってきた従来機の航続距離は10キロ。集配センターと集配局の間はそれよりも離れていることが多く、従来機は使えない。そこで登場したのが昨年12月にお披露目された新型機。航続距離35キロで、運べる量も従来の約3倍の5キロある。「レベル4時代」に向け、同社は新型機に期待を掛ける。

課題と実用化のメドは?

 ドローン配送実用化の課題は何か。西嶋さんは、(1)携帯電話の電波が届かないような場所では飛ばせず、風や雨にも弱いといった技術的問題(2)ドローンによる配送を受取人や発送人、そして、飛行ルート周辺の人たちが許容するかといった「社会的受容性」の問題(3)採算性―の3点を挙げた。同社が実用化に向けて個人宅への配達より郵便局間輸送を優先しようとしているのも、これらの課題をクリアしやすいからだ。

 同社は従来機について、航空法改正当日の昨年12月5日、機体認証の申請を国交省に行った。新型機についても、近く申請する方向で準備を進めている。実際に郵便物や荷物を運ぶドローンが飛び交う日は来るのか。西嶋さんは採算性の問題に触れ、「完全にペイすることが分かるまでやらないのか、それとも、将来に向けたノウハウ取得のためには、最初はちょっと赤字が出てもやるのか。その辺を経営判断していくことになるだろう」と話した。

災害時の物資輸送などにも期待

 1月中~下旬の晴れた日、埼玉県横瀬町の西武秩父線芦ケ久保駅に近い小学校跡地から飛び立ったドローンが、直線距離で約1.5キロ離れた山間部の駐車場に非常食などを届けた。災害で駐車場周辺の道が寸断されたことを想定して、同町と秩父市が共同で行った実証実験だ。同町の富田能成町長は、「ドローンは、土砂災害などがあった際、被災地に物資を届けるような場合に大変有効だ」と期待する。今回、実際にドローンを運用したJP楽天ロジスティクスは、2016年以来、ドローン配送の実証実験や試行サービスを行ってきた楽天グループが、21年7月に日本郵便と共に設立した会社だ。

 楽天市場に代表されるようなインターネット通信販売の利用が増えたこともあって、宅配便の数は年々増加傾向にある。楽天グループのドローン配送プロジェクト担当の谷真斗さんは「宅配便が増える一方で、物流の担い手は減っていく。こうした社会課題に対し、ドローンを活用できないかと考えた」と、ドローン事業参入の経緯を話す。

 これまで、離島の住民に、対岸にあるスーパーの商品を配送料500円で届ける三重県志摩市での「期間限定サービス」▽長野県の白馬岳登山口から、高低差が約1600メートルある山頂付近の山小屋まで生鮮食品などを届ける実証実験▽秩父市の道の駅から、山間部にあるダム管理所まで弁当などを届ける実験など、約10カ所で試行を重ねてきた。

 その一方で楽天グループは、山間部や離島ではなく、都市部でも実験を行った。21年12月、千葉県の東京湾沿岸部で千葉市が実施した実験に参加、非常用物資に見立てた食料や医薬品などを、市川市の倉庫から、約12キロ離れた千葉市臨海部の高層マンション屋上まで届けた。

 もちろんレベル4の解禁前だっただけに困難もあった。ルートのほとんどを人のいない海上に設定せざるを得なかったことに加え、公道上を飛行する際には、地上に人員を配置、ドローンが上空を通過する際は、車に止まってもらうなどの対応も取らなければならなかった。「レベル4飛行ができるようになれば、こうした必要はなくなる」「飛行できる範囲が格段に広がる」と担当者は歓迎している。

 ただ、楽天市場からの商品を購入者に届けるようなサービスの実験には手が付いていない。今後はそうした実験も行っていくのか? 担当者は「将来的には、楽天市場をはじめとする『eコマース(電子商取引)』事業にドローンを活用していくことも視野には入れている」と話すが、現在のところ、具体像が描けるところまでは至っていないようだ。

◇   ◇   ◇

 「人手不足への対応が期待できる」「速い」「災害時に役立つ」「離島や過疎地の買い物弱者の救世主になり得る」―ドローン配送には利点も多い。その一方で、やはり、安全性の問題には不安を抱く人も少なくないだろう。特に、都市部などを飛行する際は、騒音や威圧感が問題になってくる可能性もある。レベル4飛行を行う前提としては、機体認証で「第一種」を受けること、パイロットが「一等」ライセンスを持つこと、不測の事態にはきちんと対応できるような運航ルールを守ることなどが必要となる。ただ、これらの条件をクリアしても、不安が本当に払拭(ふっしょく)できるかは不透明だ。レベル4飛行の実験を積み重ねることで、新たに見えてくるものもありそうだ。

(2023年2月9日掲載)

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