札幌市が目指す2030年冬季五輪・パラリンピック招致は、東京五輪を巡る汚職・談合事件の影響で大逆風を受けている。スポーツへの信頼を回復し、冬の祭典を再び開催できるのか。東京五輪組織委員会で副会長を務めた自民党の遠藤利明総務会長(73)に聞いた。(時事通信政治部 大塚淳子)
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【目次】
◇閉鎖性と商業主義
◇経費2倍「無駄ではない」
◇相次ぐ不祥事、対応は
◇スポーツ界の経団連
閉鎖性と商業主義
《遠藤氏は衆院当選9回のベテラン文教族議員で、五輪担当相も経験した。五輪組織委元会長の森喜朗元首相、岸田文雄首相とも親しい。高校時代は柔道、大学時代はラグビーに打ち込んだ》
―東京五輪の汚職事件で、組織委元理事の高橋治之被告(78)が受託収賄罪で起訴された。
私は東京五輪に招致段階からずっと取り組んできた。新型コロナウイルス禍でも頑張って感染症対策をして、素晴らしい大会となった。その中でああいう事件が起きたのは本当にざんきに堪えない。情けない。特定の人が利益を得た、それを許した体制を反省し、次に向けてどうやったら公平で透明感のある大会の誘致や運営ができるのか。今、スポーツ庁と日本オリンピック委員会(JOC)で議論している。国民が信頼できる形を示すことが必要だ。それができないと札幌五輪の招致は難しいだろう。
―不正が起こる背景は。
スポーツ界は狭い世界だ。活動がオープンになっていなかった。公益財団法人の不正受給はスポーツ関係が一番多かった。閉鎖社会の中で行われてきたのが最大の弊害だ。
もう一つは国際オリンピック委員会(IOC)との関係だ。国際大会を運営するに当たり、商業主義が強すぎると感じた。お金をかけないと回らない。東京五輪でも、あんなに立派な施設を造らなくてもいいと思っていた。立派な施設で競技することが最高のパフォーマンスにつながるという前提の下、余計な投資によって費用がかさむことがある。そのため不正につながったのかもしれない。
―大会運営の透明化に必要なことは。
今回の事件は、組織委そのものが直接不正をしたのではなく、「みなし公務員」だった元理事が自分のビジネスの延長でやってしまった。それを許さない状況にする必要があった。一つ一つの手続きをオープンにしていくことが必要だ。
東京五輪招致も各国との競争の中、何とかしてわが国に投票してもらおうと、IOCや国際競技団体に聞こえのいい話だけをしてしまったのではないか、という反省がある。「日本にはこういう予算がある。こういうものができる」と、実物を過大に見せた側面があった。しかし、そうしなければ招致が実現しないという現実があった。
IOC自体も時代に対応し、シンプルな形の大会を求める方向に変わってきた。一つの転機を迎えた。
経費2倍「無駄ではない」
《大会経費を巡り、組織委は22年6月、最終的に総額1兆4238億円になったと発表。計画段階と比べて2倍に膨らんだ。同年12月には会計検査院がさらに2割増しの1兆6989億円だったとする報告書を公表した》
―東京五輪の経費が当初想定から膨らんだ。無駄遣いとの批判もある。
無駄遣いとは決して思っていない。無観客になったために投資効果は落ちたが、予定では10兆円程度のインバウンド(訪日外国人旅行者)による経済効果があると言われていた。招致から(コロナ禍前の)19年までに7~8兆円のインバウンド増加があった。スポーツ大会は、投資に対し、経済効果や心身の健康増進などが全体でプラスになればいい。
コロナ禍で余計な投資が必要だったことは事実だ。暑さ対策を徹底するため、施設に屋根を付けるなどの対応も必要だった。しかし、会場を変更したり、施設を仮設にしたりと、やれるだけの努力はした。何千億円かの経費を圧縮できた。
相次ぐ不祥事、対応は
《パワハラなど競技団体の不祥事は絶えない。日本バドミントン協会は横領の組織的隠蔽(いんぺい)で揺れた》
―スポーツ庁は19年、不祥事対策として競技団体の運営指針となる「ガバナンスコード」をつくり、順守を求めた。
もともと私が提案した。スポーツ議員連盟(超党派)の中にスポーツ・インテグリティ(高潔性)に関するプロジェクトチーム(PT)を作って議論し、スポーツ庁に提言した。各団体がコードに従って対応し、初めてオープンな形の組織となる。安心して皆さんが信用してくれる。まだ残念ながら、バドミントン協会の問題がある。スポーツ業界は体質的に遅れている部分はある。
コードには「原則10年で理事を交代する」などいろいろな項目がある。競技団体が透明性を保って公平な運営をすれば、誰も文句を言いようがない。
―日本スポーツ協会(JSPO)、JOC、日本パラスポーツ協会(JPSA)の統括3団体が4年に1度、中央競技団体がコードを順守しているかどうかを審査する仕組みだ。
最初、PTではJOCなどは信用できないので全て国が直接やるべきだという意見が強かった。いろいろな意見を踏まえ、まずは統括団体に審査をお願いした。うまく機能しなければ、検査機関をつくるか、国による検査体制をつくらないといけないが、まずは統括団体にしっかりチェックしてほしい。
―スポーツ庁は競技団体の不祥事が報告された場合、強化費を減額するといった措置を取っている。実効性はあるのか。
制度的な問題がある。(JSPOやJOCなどの)公益財団法人の指揮監督権は内閣府にあり、スポーツ庁にはない。スポーツ庁は、予算を通じた指揮監督はできても、団体が不正行為をしたかどうかを審査するといった組織的な指揮監督が難しい。少なくとも日常活動の指揮監督をスポーツ庁ができる形に変えないといけない。
制度の運用を見直す段階にある。今の体制が難しければ、スポーツ庁か(文部科学省所管の)日本スポーツ振興センターが直接審査する体制をつくるかどうかだ。
スポーツ界の経団連
―遠藤氏は22年に本格始動した「日本スポーツ政策推進機構」の理事長に就いた。
政策的なことを含め、スポーツに関する森羅万象について、横串を入れて情報共有する組織だ。ガバナンスなどの課題も、是正のために提言していく。これまでは各団体の横の連携がほとんどできておらず、他の団体や他国でやっているいい施策が共有されなかった。私は「スポーツ界の経団連」と思っている。事業執行はしないものの、課題を情報共有し、一緒に政策提言していく。そういう組織にしたい。スポーツに関する学者や研究者の知見も反映したい。
―札幌五輪招致は、地元でも世論の支持を欠いている。
汚職や談合事件があれば賛成しにくいというのはよく分かる。ただ、われわれももう一度招致活動のイロハを見直し、皆さんの理解を得られる形にし、改めてIOCと国際社会に問うことが必要だ。それを札幌市民に理解してもらわないといけない。
スポーツや国際大会の開催によるプラスの側面はある。それをしっかりと訴えていく必要がある。東京五輪も、コロナ禍であれだけ頑張り、7割近い人が「良かった」と答えていた。スポーツの力をもっと生かしたい。
(2023年2月3日掲載)