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二遊間の再構築、涌井獲得…中日・立浪監督が最下位からの再建へ振るう大なた

2023年01月19日11時30分

なりふり構わぬ改革

 就任1年目を終えたプロ野球中日の立浪和義監督が、最下位に沈んだチームに大なたを振るった。オフにトレードを3件成立させ、ドミニカ共和国に赴いて新外国人を3人獲得。昨秋のドラフト会議では、自ら大学リーグ戦を視察して高く評価した選手を複数指名した。その一方で、チームの顔というべき内野手2人、阿部寿樹と京田陽太を放出。戦力外の選手らを含め計17人が退団した。なりふり構わぬ改革は賛否両論も。その間に語った立浪監督の言葉から、思惑をひもといていく。(時事通信名古屋支社編集部 浅野光青)

 昨年11月。わずか4日間で中日ファンを2度も驚かせた。15日に阿部と楽天の涌井秀章投手との交換トレードが発表され、その3日後には京田とDeNAの砂田毅樹投手とのトレードが成立した。

 2022年の中日は総得点が12球団ワーストで、立浪監督はシーズン後に「ここまで点が入らないと正直、苦しかった」と打ち明けていた。チーム防御率がリーグ2位と投手陣は安定。打力の向上が明確な課題だった。その状況で、チームの日本人選手最多となる9本塁打、57打点をマークした二塁手の阿部と、遊撃のレギュラー格だった選手会長の京田を放出して2投手を獲得。補強ポイントと合わないトレードは波紋を呼んだ。

打力の前に投手力を整備

 トレード後、初の取材対応となった11月25日。立浪監督は理由を語った。「いろいろ言われるでしょう」と受け止めつつ、「打力も大事だが、その前に投手をもう一度整備しないといけない」。

 昨季、先発は大野雄大、柳裕也、小笠原慎之介、高橋宏斗、松葉貴大が主にローテーションとして回った。一見盤石に見えるが、それらに続く投手が心もとなく、立浪監督はシーズン中から先発の枚数不足を嘆いていた。そこで通算154勝と実績十分の涌井に着目。中日から話を持ち掛けた。

 中継ぎは清水達也、ジャリエル・ロドリゲス、ライデル・マルティネスが勝利の方程式として確立し、祖父江大輔らが控える布陣。ただ、左腕は福敬登(ひろと)や岡田俊哉らが不振にあえぎ、1軍ベンチには右腕だけという時期があった。福は難病の黄色靱帯(じんたい)骨化症と診断されて昨年10月に手術を受け、現在はリハビリ中。通算269試合に登板している左腕の砂田獲得は、的確な補強だった。

 12月5日。名古屋市内で行われたトークショーでも、立浪監督は胸の内を明かしている。「投手はいいとよく言われるが、ビジターでは勝てないことも多かった。投手の整備をして、徐々に打てるようにしたい。守りは大事」

求めた二遊間の再構築

 では、なぜ阿部と京田の二遊間を放出したのか。立浪監督が長期的な視点でチームの再建に動いていることが要因の一つにある。シーズン後にこう語っている。「何年で監督が終わるか分からないが、後に強くなっていけるようにするのが使命」「23年くらいから骨組みをつくって、24年くらいに勝負をかけないと」

 最近10年間で中日のAクラスは、3位だった20年の一度のみ。シーズン中にも「自分が監督になって、一番大事にしたかったのは二遊間、センターラインの固定」と話しており、再び黄金期を迎えるためには二遊間の再構築が必要だと感じた。

 大卒1年目からレギュラーを張ってきた28歳の京田は昨季、極度の打撃不振だった。持ち味の守備でもミスをすると、5月には「戦う顔をしていない」という理由で敵地での試合中に名古屋へ強制送還された。立浪監督が就任時から目をかけてきただけに、それを見限った形だ。後半戦は、遊撃に据えた高卒2年目の土田龍空(りゅうく)が、勝負強い打撃とセンスあふれる守備で起用に応えた。秋季キャンプでも沖縄でみっちり鍛え、同監督は「守備も打撃もレベルアップした。体力があるし、非常にセンスもある。何とかレギュラーを取ってもらいたい」。新進気鋭の20歳に期待を寄せている。

「チームを変えていく」

 二遊間には、脚力があり守備範囲の広い選手を起用したい意向がある。その視点だと、機動力に欠ける阿部の二塁起用はマッチしない。

 ドラフトでは自ら大学リーグ戦などを視察し、評価した2位の村松開人(明大)や6位の田中幹也(亜大)ら支配下で4人の内野手を指名。今季は二塁をルーキーに争わせる方針を示している。強打の阿部を三塁に置くのも選択肢の一つだが、主砲候補の石川昂弥や21年まで主将を務めた高橋周平と被る。「京田も阿部も向こう(他球団)の方がチャンスが広がる」

 最下位だった22年シーズンを振り返り、こうも話している。「負けに慣れているな、とすごく感じた。そういうところから、トレードや補強でチームを変えていかないといけないとはっきり思った」。長年レギュラーを務めてきた平田良介外野手も戦力外(その後引退)となり、結果的に計17選手が退団。強制的にでも血の入れ替えを行うことで、チームの雰囲気が変わることに期待しているのだろう。

大砲補強へ、ドミニカ視察

 懸案の打線については、きっちり手を打っている。昨年11月には大砲の獲得を目的に、ドミニカ共和国でウィンターリーグを視察。アリスティデス・アキーノ外野手、ソイロ・アルモンテ外野手、オルランド・カリステ内野手の3人を獲得した。アキーノは19年に米大リーグで56試合に出て19本塁打を放った強打を持ち味とし、「とにかく長打が打てる。はまれば面白い」。18年から中日に3年間在籍したアルモンテは、3年ぶりの復帰。日本では通算243試合で打率3割1分6厘、31本塁打をマークし、「打つ方はそこそこやってくれる」と見込む。

 秋季キャンプで鵜飼航丞(こうすけ)外野手ら期待の若手に猛練習を課し、現役ドラフトでは長打力があるDeNAの細川成也外野手を指名した。

 12月下旬には、層の薄い捕手を補うため、21年6月にトレードでロッテに出した加藤匠馬(たくま)捕手を無償トレードで再獲得した。なりふり構わない改革―。指揮官の思いは選手も感じ取っている。エースの大野雄は「立浪監督もチームを何とか強くしない、何とかせなあかんという思いでこのオフにたくさん動かれたと思うし、僕たちもそれに応えないといけない」と語る。

 立浪監督は21年10月の就任記者会見で、こんな言葉を使っていた。「強いチームをつくる、勝つ野球をするために妥協はしない。やってやろうと思ったことは信念を持ってそれがうまくいく、いかないがあると思うが、しっかりとやっていきたい」。歓喜の瞬間は、いつ訪れるか。

(2023年1月19日掲載)

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