「振り袖は嫌」欠席を後悔◆オーダーメードの原点と込められた思い【時事ドットコム取材班】

2023年01月03日10時00分

 女性の体形に合わせたメンズスーツをオーダーメードできる会社を立ち上げた人がいる。性的少数者(LGBTQなど)だけでなく、メンズ服を好む女性からも支持を集めているスーツブランドは、服装に関する自身の悩みをきっかけに生まれたという。店舗を構えずに全国を飛び回り、客のニーズに応える代表に原点を聞いた。(時事ドットコム編集部 谷山絹香

 【時事コム取材班】

「満足いく時間」

 「デザインは派手かシンプル、どっちが好きですか」「この生地の中で気になるものはありますか」。2022年12月中旬、東京都新宿区の駅近くの貸会議室で、スーツの採寸会が行われていた。生地はおよそ500種。それぞれの特徴を説明しながら、希望に沿うものを提案するのは、アパレル会社「keuzes(クーゼス)」(千代田区)社長の田中史緒里さん(28)だ。

 机いっぱいに並ぶ見本を前に、「この色もきれいだね」「これも似合いそう」と楽しそうに笑う声が聞こえた。メンズ服が好きという都内の30代女性「ぽんちゃん」(ハンドルネーム)だ。「スーツはジャケットがぴったりでも、どうしてもズボンはメンズよりワンサイズかツーサイズ小さいものになる。上下合わせたときにスマートに見えるスーツを作りたい」と採寸会を訪れたという。

 付き添っていた友人と相談しながら生地を選んでいたぽんちゃんは「フォーマルな場や、ちょっとしたお出掛けにも着ていきたい」と、濃紺に光沢感のあるストライプが入ったものを手に取った。「着たい服の選択が一つや二つではなくて、自分の体形や好みに合わせて選べるという感動があった。満足のいく時間でした」と笑顔で話す。

「振り袖は嫌」諦めた成人式

 「最初は自分のために会社をつくったのが一番大きいですね」。19年12月にクーゼスを立ち上げた田中さんは、女性として生まれたが、物心付いたときから、かわいい服装やかわいらしく着飾ることに抵抗を感じていた。七五三のときには、化粧されるのがどうしても嫌で、大声を上げて泣いた。小学生時代、「スカートをはきたくない」と思うようになる。赤色のランドセルも嫌で、「反発」から、肩ベルトの片方だけに腕を通して登下校していたという。

 家庭科でつくったナップサックも、図工で使う彫刻刀入れも、友達はパステルカラーのかわいらしい柄にしていたが、田中さんは「ドラゴン」を選んだ。中学校に入った後もスカートへの抵抗感は変わらない。制服をわざとぬらしてジャージー姿で過ごすようになり、高校も「制服がない」を第一条件に選んだ。

 高校在学中、数年後に控える成人式に向けて髪を伸ばし始める友人の姿を見て、ふと考えた。自分は何を着て出席しようー。

 「振り袖は嫌だ。出るならスーツで参加したい」と、インターネットで成人式用のメンズスーツを探したが、検索結果は大手紳士服メーカーがヒットするだけ。「店に誰かしら知り合いがいるかもしれないとか、店員さんとの会話のことを考えたら、店舗には行けなくて。それ以上、ネットで調べるにしても、正直なんと調べたらいいのかも分からなかった」。その時点で、成人式への出席を諦めた。

結婚式、再び挫折

 「当時はLGBTQという言葉もよく知らなかった」と田中さん。「東京に出たら、きっとこういう悩みを解決してくれる店がたくさんあるだろうな」という淡い期待を抱きながら18歳で上京し、服装が自由なコールセンターで働き始めた。たまたま職場にLGBTQ当事者が多くおり、そんな同僚と話しているうち、自分が男女どちらにも当てはまらない「Xジェンダー」だと感じるようになったという。

 21歳、初めて友人の結婚式に招かれた。「自分らしい服装でお祝いしたい」と、改めてスーツを購入できるところを検索したが、LGBTQを含めて調べても、状況は変わっていなかった。結局、アパレルショップを巡って、スーツに見える上下を購入した。「初めて呼んでもらった結婚式。おめでたい気持ちだったけれど、『今後もずっとこんなふうに晴れ着を選ばないといけないのか』と複雑な気持ちだった」と振り返る。

 この経験を同僚や友人に打ち明けたところ、何人もが同じような思いを抱いていたことを知った。

 自分の周りにも、同じ悩みを抱えた人がこんなにいるのか…服装で何かを諦めなければならない人は、全国にどのぐらいいるんだろうー。「きっと誰かがやってくれる」と待っていたが、「自分がやらなければもう変わらない」と考えるようになった田中さん。自身が経験した「お店に行く気まずさ」を考慮して実店舗は構えず、お客さんがいる地域に出張をして採寸する方式で事業を立ち上げたのは、25歳のときだ。

幅広い年代に浸透

 開業すると、またたく間に注文が入り、売り上げは最初の月に100万円を超えた。「最初のお客さんは『パートナーにプロポーズするときの衣装としてスーツを作りたい』と話していた」と田中さん。今では「子どもの入学式に格好良いスーツで出たい」といった親世代や「教え子の卒業式に出るため」といった学校の教員など、10代~50代までさまざまな人から注文が入る。「スーツに性別は関係ない。LGBTQに限らず、スーツが着たいという人であれば誰でも注文してほしい」と話す。

 田中さんの元には、「スーツを作ったことがきっかけで、自分のセクシュアリティの話を家族にできるようになった」といった感謝の声も寄せられるという。「最初は自分のためにという気持ちが強かったが、お客さんの喜びの声を聞くうちに、やりがいも増えていった。今では、全国を回ってお客さんから聞いた悩みを何とか事業で解決できないか、考えています」と真剣な表情で話す。実際に、「下着を買いに行きにくい」「普段はボクサーパンツをはいているが、生理中は女性もののショーツになってしまう」といった声に応え、生理用ナプキンを装着できるボクサーパンツを開発したという。

成人式「誰もが好きな服装を」

 起業から3年余り。田中さんは一つの目標を実現する。自身が「振り袖を着たくない」と参加を見送り、クーゼス立ち上げの原点にもなった「成人式」の開催だ。

 式に出なかったことへの後悔の念が、年を重ねるごとに募っていた。お客さんの「服装が理由で出席できなかった」との声にも押され、2023年1月に催す独自の成人式イベント「SEIJINーSHIKI」のコンセプトは「人生で一度きりのことだから、思いっきり自分らしい服を着て過ごそう」。当日は、自分の好きな服装で参加し、会場のフォトスポットでプロのカメラマンが撮影するポートレートを持ち帰ったり、未来の自分へ手紙を書いたりすることができる。

 昨年、田中さんと同様、振り袖への抵抗から自治体主催の成人式を欠席した大学3年生「アキ」(ハンドルネーム)さん(21)=千葉県=もイベントに参加予定だ。周囲から成人を祝われることも少なく、式で中学校時代の友人に会うことも出来ずに終わり、「出席したかった」という思いは消えなかったという。

 「女性が振り袖、男性がスーツという、ずっと変わらない文化や伝統のせいで成人式に出られない人もいる。もう少し服の多様性や選択肢があってもいい」とアキさん。当日はジャケットにパンツ姿で出席しようと考えている。「うまく話せるかは不安だが、自分と同じように振り袖を着たくないと思った人や、逆にスーツで出たくないと思った人と交流できることは楽しみです」と話した。

 目標実現を目前にした田中さんに意気込みを聞いた。「成人という節目をみんなで一緒にお祝いしたいという気持ちが一番強い。参加者同士の交流を通じ、性別や服装の悩みを抱えている人がたくさんいることを知って、『自分は間違っていなかった』『自分は普通なんだ』と思って帰ってほしい」

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