若者を中心に「魚離れ」が指摘されて久しいが、全般に魚料理の人気は決して衰えていない。回転ずしは大人気。海辺の観光地だけでなく、街中でも海鮮丼の人気は上々だ。近年はサンマをはじめとする魚が「不漁で値段が高い」という声が目立つが、日本の津々浦々の漁港で水揚げされる魚を見てみると、利用されずに見過ごされている魚が多いことに気付く。輸入魚が台頭している中、国産魚の利用を今一度考えなければいけない時期に来ている。(時事通信水産部長 川本大吾)
【目次】
◆「世界の三大漁場」の一つ、多様な魚介類
◆日本で取れる魚種も輸入
◆重要な課題「食用としての消費」
◆輸入魚に一度慣れると…
「世界の三大漁場」の一つ、多様な魚介類
マイワシ、サバ類、ホテタガイ、カツオ、スケトウダラ、カタクチイワシ…。これらの魚種は、ある順番で並んでいる。どのような順位か、お分かりだろうか―。農林水産省が毎年5月に発表する漁業生産統計で示された、2021年の水揚げランキング(重量ベース)である。
これら6種は、年間漁獲量10万トン以上の魚種。この後に、ブリ類、マアジ、サケ類、マダラと続く。不漁が続くサンマやイカ、サケなどは当然入っていない。マグロではクロマグロが1万トン強で、キハダマグロやビンナガマグロなどもそれぞれ10万トンには届かず、ベスト10入りはしていない。ちなみに、「マグロ類」をすべて合わせた場合には14万トンを超えて、6位にランキングされる。
水揚げ上位の中で唯一の貝類、ホタテガイが3位になっているが、これは貝殻の重さが含まれていることを付け加えておきたい。
日本は、世界の三大漁場の一つ「北西太平洋」(北海道東沖、三陸沖、常磐沖など)を有し、暖流・寒流、親潮・黒潮が交錯する豊かな漁場を周辺に抱えている。国土が南北に長いこともあり、北海道沖から沖縄県の島々の沿岸まで、世界でもまれにみる多種多様な魚介類が生息し、漁獲されている。
日本で取れる魚種も輸入
これらの豊かな海の幸は、地域ごとの郷土料理などでうまく活用されてきた。しかし、流通や食生活の変化、さらには周辺の魚資源の減少などにより、国産の魚の利用も気付かぬうちに様変わり。輸入魚の台頭が顕著となっている。
海外産の魚介といえばノルウェー産のサーモンや、東南アジア産のブラックタイガー、中国産のアサリ、ロシア産のサケやスケトウダラを使ったイクラやタラコなど、国産では賄えない魚介を輸入している。一方で、実は日本で取れていても外国からたくさん輸入している魚種もある。その中には、想像以上に国内で浸透している外国産が少なくない。
不漁が深刻なサンマは、日本で漁獲が少ない場合は、台湾など外国漁船の漁も同じように低調となるため、品薄を輸入でカバーするわけにはいかない。また、外国船はサンマを漁獲後に冷凍させるため、日本のように刺し身で味わうことも難しい。
これに対し、例えば切り身で「焼きジャケ」にして食べるサケは、日本のサケ漁が振るわない近年だけでなく、数十年前から南米・チリのギンサケが主流となっている。日本中の漁港で年中漁獲されているサバは、塩焼きの原料としてノルウェー産が多く使われ、定食や弁当用として提供されている。
さらに、定食の定番メニューとなっているアジの開きは、国産の原料もあるが、静岡県沼津市などで大量生産されるアジの干物の多くが、韓国やオランダ産なのだという。同市の水産加工業者によると、大きさや脂の乗りで干物作りに適した外国産を選ぶことが増えたのだという。
重要な課題「食用としての消費」
魚介類の国内の生産量はじり貧で、2021年の養殖を含めた総生産量は約420万トン。ピークだった1984年(約1280万トン)の3分の1に減少している。低調な水揚げを反映し、日本の自給率は2021年度が59%。水産庁は今後の養殖を含む漁獲増と海外への輸出を増大させることにより、自給率を90%以上に押し上げる努力目標を掲げ、「水産大国日本を取り戻していきたい」(同庁幹部)と意気込んでいる。
魚介類の自給率が現状で低レベルにあるのは、国内生産量が消費量に追い付いていないという理由だけではない。前述の通り、国内で取れている魚種でも輸入が大量に行われている現実がある。自給率向上へ向けた努力は食料安全保障の観点からも必要なことで、魚資源の管理による生産性の向上とともに「取れた魚の有効利用=食用としての消費」という点も重要な課題と言える。
農林水産省が2022年10月に発表した「産地水産物用途別出荷量調査」によれば、生鮮食用向けの比率は、水揚げトップのマイワシが14.1%で、2位のサバ類が13.8%で、他の魚種に比べて著しく低い。2魚種を冷凍させ、海外へ輸出している量も少なくない。生鮮食用で流通しなければ、冷凍されて缶詰になるか、あるいは漁業・養殖用の餌、さらには魚油・飼料や肥料用に回されるなど、消費者の口に入らないケースも多く、生鮮食用向けに比べて単価も安くなる。
輸入魚に一度慣れると…
漁業者は漁が終われば、魚を水揚げするだけで、取った魚がどのように利用されるかまではコントロールできない。燃油などさまざまな経費が高騰している今、実入りにつながる魚価が安ければ死活問題となり、「より多く取る」という乱獲にもつながりかねない。
魚は農産物と比較すると、漁港から消費段階まで、かなり複雑な流通を経て消費者に届けられる。輸入魚なら商社経由で魚市場などの中間業者を介して、小売店や飲食店へ卸される。サバの仕入れを取材する中、弁当チェーンの広報担当者は、こう話していた。「できるだけ国産のサバを使って塩焼きを提供したいが、最近、お客さんは北欧産のサバに慣れてきているため、ノルウェー産を中心に仕入れている」
輸入魚が一度定着すれば、国産に戻りにくい傾向もあるという。サンマなどの不漁を嘆いている間に、日本人がどんどん国産魚から離れているとも言える。日本自慢の魚と漁業を守るためにも、もっと国産の魚を食べる必要があると筆者は考えている。
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川本 大吾(かわもと・だいご)1991年、専修大学卒業後、時事通信社に入社。水産部で東京・旧築地市場、豊洲市場の市況や漁港の水揚げ情報などを配信。水産庁や市場開設者である東京都、関係団体の取材を担当。2010~11年に水産庁の漁業の多角化検討委員を務めた。14年から水産部長。著書に「ルポ ザ・築地」(時事通信出版局)。
(2023年1月13日掲載)