太平洋に浮かぶ島国ナウル共和国。政府観光局日本事務所のツイッター公式アカウントは、開設から1週間で本国の総人口を上回る1万3000人超のフォロワーが付き、最近では、2022年のサッカーW杯カタール大会で日本代表が強豪スペインに勝利した後の投稿が絶賛された。「共和国としては世界最小」の島国が日本でのつぶやきに力を入れるのはなぜなのか。人気の秘密はどこにあるのか。日々、ユニークなツイートを続ける「中の人」に話を聞いた。(時事ドットコム編集部 横山晃嗣)
―スペイン戦後、「なぜか今日は、ナウル国旗をご紹介するタイミングだと思いました」と投稿されました。
決勝点につながった三笘薫選手のゴールラインぎりぎりでの折り返しのシーンを見て、「ナウル国旗と似ている」と思い浮かびました(笑)。ナウル国旗は、太平洋を表す青地の上を、赤道をイメージした黄色のラインが横切っています。ライン左下の、白い星のような図形がナウルです。ゴールラインぎりぎりのボールみたいですよね。投稿するときは不安もありましたが、最近では一番話題になり、よかったと思っています。
―投稿はどのように考えるのですか?
ほとんどの日本人はナウルを知らないし、さほど興味もないと思います。広告のような投稿ばかりでは嫌がられてしまうし、多くの人が知っている話でないと関心を持ってもらえません。まずは「ナウル」という言葉を知ってもらうことが大事。日本で話題になりそうなイベントは事前に調べ、その時々のネットの流行に合わせて投稿するようにしています。
―フォロワーが42万人を超えました。本国から何か反応はありますか。
(42万人超えは)予想以上というか、想定外でした。正直なところ、当初の目標では本国の人口にフォロワー数が到達できればいいなと考えていたので、目標の数十倍に達して「どうしよう」という思いもあります。ここまで話題になってしまったのは不思議ですが、日本国内におけるナウルの知名度向上にはある程度成功したと感じていて、大変ありがたいと思っています。
実は、本国からの反応はそんなにありません。週に1度、本国観光公社のスタッフに活動報告をしていますが、「そうなんだ。よかったね」と言われるぐらい(笑)。あまり成果を意識していないのかもしれません。
―なぜナウルツイッターの「中の人」になったのですか。
ライフワークとして、国境を超えた民間交流に取り組んでいたのですが、あるとき、ナウルの政府関係者から「日本で知名度を上げることができないか」と打診されました。当時、日本でナウルのPRをしている人は誰もおらず、せっかくなので自分がやろうと引き受けました。
その後、本国の閣議決定を経て、2020年10月1日に政府観光局日本事務所を開設したのですが、「まずはお金を掛けないでできることからやろう」と始めたのがツイッター。日本事務所は5人くらいのスタッフで運営していますが、ツイッターへの投稿は私一人で行っています。
―ナウルはどんな国ですか。
観光キャッチフレーズがあるわけではありませんが、のんびりできる穏やかな国です。海がきれい。それ以上のことを言えばうそになってしまいます(笑)。
人口のほとんどがナウル人。面積は東京ドーム450個分。琵琶湖の方が大きく、東京都品川区と同じくらいの広さです。公用語は英語ですが、日常会話ではナウル語を使います。ナウル語で「おはようございます」は「Omo yoran(オモジョラン)」です。
―経済状況はどうなのでしょう。
1980年代ごろはリン鉱石の輸出によって世界一裕福な国でしたが、枯渇してしまった後は厳しい状況になっています。採掘の影響で荒れ地が多く、主食の米を含め、肉や野菜などほとんどの食料を輸入に頼っています。
魚をよく食べます。しょうゆで味付けした煮付けや、マグロをタマネギなどと一緒にココナツミルクであえた「ココナツフィッシュ」という料理があります。野菜不足を補うため、政府が国民に家庭菜園を奨励し、トマトやオクラ、キュウリなどの苗を配っています。
―新型コロナウイルスの影響はありましたか。
2023年1月1日までに国内で4621人の感染が確認され、死者も1人出ました。本国での感染拡大を受け、日本事務所では公式オンラインショップ「ナウル屋」でチャリティーグッズを販売し、売り上げから制作費などを差し引いた全額を新型コロナや国民病である糖尿病への対策支援金として本国に送っています。
世界保健機関(WHO)の16年の調査では、ナウルは世界一肥満率が高く、肥満度を示す体格指数(BMI)が30以上の人が18歳以上の約6割を占めます。新型コロナは基礎疾患があると重症化しやすいとされています。政府は国内での感染拡大前にワクチン接種キャンペーンを実施し、成人のほとんどが2回接種しました。
―日本とナウルの関わりにはどのような歴史がありますか。
第2次世界大戦でナウルが日本に占領されていた話はどうしても避けて通れません。国内には今も、旧日本軍の対空砲などが残っています。
ナウルは1968年1月31日に独立し、英連邦に加入しました。独立後は東京に領事館を置いていましたが、本国の財政状況が悪化したことで89年に閉鎖しました。ナウルと鹿児島を結んでいた飛行機の直行便も廃止されました。
しかし、日本とナウルの交流はその後も続いていて、例えば2019年に執り行われた天皇陛下の「即位の礼」には、当時のエニミア大統領が出席しました。22年には英国のエリザベス女王の国葬と時期が重なった安倍晋三元首相の国葬に外務貿易次官が参列しています。21年に開催された東京五輪にも選手2人が参加し、陸上男子100メートルと重量挙げ女子76キロ級に出場しました。
―今後はどんな活動に取り組む予定ですか。
実は、日本事務所の設置期間は3年間と閣議決定されていて、23年9月末に期限を迎えます。事務所開設を決定した大統領が退任し、22年9月から現在の大統領に代わったこともあり、その後については私からは何とも言えませんが、本国と相談していきたいと思います。
ツイッターでの発信は今後もこつこつ続けたいです。「ナウル展」のようなイベントも開きたいと考えています。ネットで話題にはなりましたが、実際にナウルを訪れる日本人旅行者は年間3人程度です。日本からは飛行機に乗り、オーストラリアのブリスベンまで約9時間、そこからナウルまで約5時間かかります。ナウルに入国するには事前にビザを取得する必要もありますが、無理のない範囲で少しでも観光に来ていただきたいです。