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三笘薫、ワールドカップ後もプレミアで好調続く イングランドと自身はどう見ている?

2023年01月31日13時30分

地元記者も三笘のプレーに興奮

 サッカーのイングランド・プレミアリーグ、ブライトンに所属する日本代表MF三笘薫(25)が好調だ。1月21日に敵地で行われたレスター戦でも、ペナルティーエリア外から豪快なゴールを決めて今季リーグ戦4点目をマーク。29日のイングランド協会(FA)カップ4回戦では、前回覇者リバプール戦の後半ロスタイムに決勝ゴール。ワールドカップ(W杯)カタール大会後の1カ月余りで、既に4度ネットを揺らしている。(ロンドン在住スポーツライター 松澤浩三)

【目次】
 ◆地元記者も三笘のプレーに興奮
 ◆サッカー番組のパネリストは…
 ◆プレミアデビュー、監督交代、W杯
 ◆三笘自身が語る好調の要因と課題
 ◆今後のステップアップは?

 1月14日のリバプール戦では、ゴールこそなかったものの強豪クラブの守備陣をきりきり舞いにして、決定機を何度も演出。対峙(たいじ)したトレント・アレクサンダーアーノルドは再三にわたって置き去りにされ、快速ウインガーを止めるために、イングランド代表DFに残された唯一の手段はファウルを重ねることだけだった。

 リバプール戦後、取材が行われるミックスゾーンで三笘を待っていると、ウェブメディア「ロンドン・ワールド」でサッカー担当を務めるラーマン・オズマン記者が筆者に近づいてきて、開口一番「初めてミトーマ(英語での発音)を見たが、彼はすごいな!」と目を丸くした。「彼は今夏、絶対に5000万ポンド(約80億円)以上でビッグクラブに買われるぞ」と興奮気味にまくしたてた。

 さらに、取材を終えてプレスルームに戻りコーヒーを入れていると、今度は「ドーナツ良いね」と声を掛けてくる英国人記者に遭遇した。ドーナツスタンドの前に立って独り言をつぶやいていたのかと思ったが、「彼のドリブルはエグすぎる」と続けたため、そこで「ミトーマ」についての感想を話し掛けてくれていたことに気付いた。

 「ああ、三笘のことか! ドーナツの話をしているのかと思った」と笑って反応すると、「そうさ、三笘は本当にいい選手だ。でもここのドーナツも悪くないがね(笑)」と感心した様子で語った。

 これらは最近のブライトン戦を取材するたびに、ほぼ毎回クラブ関係者や現地記者から声を掛けられる内容だ。日本でも三笘のパフォーマンスについては報道が過熱しているようだが、英国内でも25歳に対する評価はうなぎ上り。メディアに取り上げられる頻度は日ごと増している。

 露出度のみならば、恐らく既に三笘は、かつてマンチェスター・ユナイテッドに在籍して日本人選手として初のプレミア制覇に貢献した香川真司、「ミラクル・レスター」の一員として同クラブにリーグ初優勝をもたらした岡崎慎司(ともにシントトロイデン)、サウサンプトンで7シーズン半過ごした吉田麻也(シャルケ)といった、イングランドで活躍した歴代の先輩たちを上回っているだろう。

サッカー番組のパネリストは…

 英BBC放送の名物サッカー番組「マッチ・オブ・ザ・デー」でも、数回にわたり三笘のプレーに焦点が当てられ、同じくBBCの人気ラジオ番組「マンデーナイトクラブ」でも、パネリストたちが日本が誇るサイドアタッカーのパフォーマンスに触れていた。

 番組に出演していた元イングランド代表の右サイドバック、マイカ・リチャーズさんは「彼とは対峙(たいじ)したくない。動きが切れ切れ過ぎる!」とジョーク交じりで称賛。「(現役時代に)ウインガーと向かい合った際、相手をサイドラインに追い出すよう守備していた。だけどミトマの場合はインテリジェンスが高く、敏しょう過ぎるからそれでは防げない」と舌を巻いた。

 さらに詳しく解説。「向かってきたと思ったら、すぐに内側にボールを入れて、すると今度は、受け手のMFがDFの裏にボールを返す。そのボールに目をやっている隙に、ミトマは裏のスペースに素早く走り込むんだ。捕まえるのが非常に難しい。DFが嫌いな場所を見つけて、そこに入り込むのがうまい。俊敏でクレバーだから、ワンタッチ、ツータッチで味方と素早くパス交換して、次の瞬間には抜き去られている」

 同じくパネリストで、米紙ニューヨーク・タイムズのサッカー主筆を務めるロリー・スミス記者は、「モダンサッカーではあまり見かけない、昔ながらウインガータイプ」と三笘を形容する。「見ている者を興奮させ、立ち上がらせる。大胆かつスリリング。1対1の局面は、まさにショータイムだ。システムやアイデアが上回っているとか、そういうのは関係ない。彼の場合は、『俺の方がよりスキルがあって、お前を転ばせることができるんだ』と言った具合。そういうサッカーは非常にエンターテインメント性が高く、それだけにミトマのプレーは並外れている。彼はチケット代を後悔させない希少なプレーヤーだ」と褒めちぎった。

 他にも最近では英紙のデーリー・テレグラフやタイムズ、スポーツ専門サイト「ジ・アスレチック」でも三笘に関する特集が組まれた。スポーツ専門チャンネル「スカイスポーツ」のウェブサイトでも背番号22についての記事が掲載された。

プレミアデビュー、監督交代、W杯

 2021年8月に、J1川崎からブライトンに完全移籍した三笘だが、欧州の水に慣れるために、即ベルギー1部リーグのサンジロワーズへと期限付き移籍した。そして1年の武者修行を終えて22年夏にブライトンへ復帰。開幕2戦目の昨年8月13日にプレミアリーグデビューを果たした。

 好スタートを切ったチームにおいて、「新参者」の三笘はベンチスタートが多かった。試合終盤に途中出場するものの、当時のグレアム・ポッター監督は三笘を主にウイングバックで起用。不慣れなポジションをそつなくこなした一方、15~20分限定の出場時間で、守備的な要求も多いポジションだけに、ドリブラーが輝きを放つことは容易ではなかった。

 9月に入り、ポッター氏が強豪チェルシーの監督として引き抜かれ、後任監督にロベルト・デゼルビ氏が就任。結果的にこの「人事」が三笘にとって奏功する。

 就任当初こそ与えられたプレータイムは限定的だったものの、けが明けの10月29日のチェルシー戦。三笘はリーグ戦初先発のチャンスを得る。ポジションは左ウイングだった。

 するとこの試合で、チェルシーの堅固な守備陣を相手に1アシストを記録するなど、4―1の大勝に貢献。さらに、90分間プレーした次のウルバーハンプトン戦では、イングランドでの初得点もマークした。直後のリーグ杯、敵地でのアーセナル戦でも再びゴールシートに名前を連ねた。思い返せば、この頃から英国内で三笘に対する評価が沸々と上がり始めていた。

 その後に参戦したW杯での活躍は周知の通り。12月中旬に英国に戻ると、格段にレベルアップしたパフォーマンスが見られることになる。

 まずW杯による中断からリーグ再開初戦となった12月26日のサウサンプトン戦。初のフル出場を飾ったこの一戦で、攻撃の軸として下位に低迷する相手に容赦なく攻め掛かって圧倒。大みそかのアーセナル戦は、敗戦したものの、日本代表の同僚である冨安健洋とのマッチアップを制して1ゴールをマーク。さらに年が明け、今年初戦のエバートン戦でも先制点を決めて、2試合連続得点を挙げた。そして、前述のリバプール戦や直近のレスター戦でも、期待通りの活躍を見せたというわけである。

三笘自身が語る好調の要因と課題

 三笘が好調な理由の一つがチーム内での信頼の向上だろう。自身も、サウサンプトン戦後にチーム内での変化を次のように口にしている。

 「W杯後のチームでの感触はいいものがある。そこの信頼は少し増えたなというのは感じる」

 その信頼に応えるように、三笘はしっかりと結果を残した。だからこそ、現在の彼にはボールが集まり、ドリブルやクロス、アシストやシュートという形に結び付いているのだ。ここで前述のスカイスポーツの記事に、三笘についての興味深い数値が載せられていたので紹介したい。

①オープンプレーからの90分間あたりゴール率は0.48ゴール(リーグ7位)
②同予想アシスト数(ファイナルパスを出す位置や、どのようなパスを出す選手かなど、さまざまな要素を加味・分析して出された数値)は0.26(同5位)
③90分間あたりのドリブル成功数は2.29(同3位)
④同敵陣のペナルティーエリア内でのボールタッチ数は7.23(同8位)

 記事によると、三笘は①と②の両部門でトップ10入りした唯一の選手。「三笘ほどコンスタントにゴールを決めたり、決定機を生み出したりしている選手はリーグ内でいない。加えて、三笘には1対1における目覚ましいスキルがあるからこそ、ドリブル成功数もリーグ3位の成績になっている」と評されている。

 これらの数字からも分かるとおり、現在の三笘がハイレベルなプレーができているのは確かだ。本人も自信を深めており、それはW杯から戻って以来の彼の明るさや、表情の柔らかさからも伝わってくる。

 レスター戦後、三笘に「プレミアはタフなリーグだが楽しいか」と問い掛けてみると、「ベルギーリーグより全然楽しい!」と即答があった。

 「(対戦)相手が相手なので、モチベーションが勝手に上がる。ベルギーリーグにちょっと失礼になるけど、もうやらざるを得ない環境というか、ここに来た意味だと思うし。全世界で見られているゲームもよくある。そういうところでチャンスは広がっている」と笑顔を見せた。

 一方で、あまりに突出したパフォーマンスで忘れてしまいがちだが、三笘はまだプロ3シーズン目。伸びしろはまだまだ残している。本人もそれを自覚していて、その一つとしてフィニッシュの改善を課題に挙げる。

 リバプール戦後。決定機を物にできず、「最後のクオリティーのところ、いいところまで行っているけど、最後(の部分)。相手がちょっと近くになって焦ってるところはあったので、もうちょっと冷静になってもよかった」と反省していた。

 さらに自身の課題について掘り下げ、左サイドから内側に切り込んでシュートする精度の向上を挙げる。「あそこが足りないところ。そこの精度を高めることと、逆に見え過ぎてパスを出したり、(周りから)シュートと言われて、逆にシュートを打ったりしてしまうところがある。自分の判断でうまく形をつくっていければいいと思うが、まだそういう形がなかなかできていない」と冷静に話した。

 本人の話を基に、筆者は記者会見で指揮官に「三笘に不足している部分について」質問した。

 「彼は素晴らしい選手でナイスガイだ。とても愛しているが、もっと多く得点してほしいね。だからゴールを増やすことが課題だ」

 イタリア人監督が三笘に求めているのもやはり決定力。「ミトマが10ゴール以上、(右MFの)ソリー・マーチも10ゴール以上。それがかなえば、われわれはリーグで上位に食い込める。だからミトマには毎日『10ゴールを取れ、10ゴールを取れ』と話しているんだ」と、ノルマは2桁得点であることを打ち明けてくれた。

 迎えたレスター戦。三笘はこの試合で、冒頭で触れたように、豪快なゴールを決めたのである。試合後には「余裕があったから力が抜けた」として、「前までの形は横に運んで余裕があり過ぎる分、少し力が入っていた。今回は(前へ)深くなった分、逆にリラックスできていた」と自己分析。抜群の修正力を誇り、コメントからは三笘の思考力の高さがうかがえた。驚異のスピードで成長を遂げ、理想を具現化できる理由が垣間見えた。

今後のステップアップは?

 22年の最終戦となったアーセナル戦後には躍動した1年間を振り返り次のように話している。

 「間違いなく大きな1年だったし、成長できました。けれど、やるべきことが多くなったというのと、まだ上に行かないといけないというのは感じている。けがをしないことで、あの(同じ振り幅の)成長ができると思うし、こういう強い相手にどれだけできるかというところは、プレミアならではの楽しみ。そういう時に価値を出せるようにしたいなと思う」

 さらに23年については「けがをしないことと、(チームが)トップ6に入れるようにというのはもちろんある。もっともっと成熟させて、チームとしてもう一段階レベルアップしていかないといけない」と話した。

 そしてその先に見据えるのが、三笘個人のステップアップ。既にビッグクラブから注目される存在になったのは明らかで、アーセナル、リバプール、トットナム、チェルシーなど、イングランドのトップチームへの移籍もうわさ話として出ている。

 果たして彼は、これからどこまで突き進むのだろうか。無論、過度な期待は禁物だ。この地で活躍し始めてから、まだ実質2、3カ月。ただし、プロデビューから3シーズンで世界最高峰の舞台まで駆け上ってきたことも忘れてはいけない。

 現在の躍動ぶりを見ていると、とてつもないことをしてくれるのではないかと必然的に期待値は高まってしまう。

(2023年1月31日掲載)

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